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53話 生存欲
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「ヴォルグさん、今のどういう意味ですか!」
ルクセンがそう叫んでヴォルグの胸倉を掴む。
「そのままだよ。エマちゃんが『ファフニール』ご希望の条件に沿った対象者っぽいから、目印付けといた。エマちゃんからも囮役については了承を得てる」
確かに絶対食いつきそうなネタで条件出したが、前もって「面倒」「絶対危ない」「最悪死にかねない」と言った。断られても仕方がないとは思っていたが、エマは二つ返事で了承したのだ。
――だって、絶対に助けに来てくれるんですよね?
弾けた笑顔で言われた。危機感があるのか心配になったが、状況対応力は見込み通り高い。ヴォルグよりも先に『地龍の加護』を見つけ出し、イビルティアーの毒素と『邪龍の使徒』の関連性を見抜いた。
実際に『ファフニール』連中も『秘術』だと証言している。
何より、エマには他者の戦闘力を削ぎ落し、それが自分自身の強化につながるという突破力がある。戦闘能力に長けたメンバーは数いるが、長期戦になれば体力の問題で勝率は下がる。一方で、エマの能力は逆に長期戦になれば敵の方がステータスが減り、デバフをかけられて不利になる。それほど特殊な戦闘スタイルは特務部隊にいない。
アルフレッドから飛んできた握り拳が頬にめり込んだ。骨に響く衝撃に、倒れることはしなかったが、さすがによろめいた。
彼の近くにいたローブの男は、気絶している。仮面が転がっている。
「言いたいことがるなら殴る前に言え」
「私には囮をするなと言っておいて、彼女にはやらせるのか」
「当たり前だろ。お前とエマちゃんじゃ生存欲の強さが違う。あの子とテメェみたいな腑抜けを一緒にすんな。殴りに来れるぐらいに元気なら働けよ、隊長。ほら、次の指示寄越せ」
「ルクセン、特務部隊のメンバーを全員ここに呼び出すように指示。騎士団にもすぐに応援要請を。救護班も呼ぶよう手配してくれ。無視をするようならば、特務部隊のメンバーで突入する。トレバーさん、コリンナさん、イザークさん、貴方達にはこの犯罪者を連れていき、同時に冒険者ギルドに応援要請を。死体であれ、行方不明だった冒険者達の痕跡が見つかるはずだ」
トレバーとコリンナが力強く頷く。
しかし、イザークは青い顔で立ち尽くして、最後首を振った。
「分かった。だが、私はここまでだ……」
「イビルティアーの毒素で体長を崩されたのですか? それならば、貴方は無理しない方が良い」
「いえ、違うんです。何故か魔法が使えなくて……」
「あぁ~……」
私は役に立てそうにないと酷くショックを受けているイザーク。
彼の救助に向かった時、エマがアビリティを引き抜いたのだ。励ましがてらエマのスキルの一部を説明する。一生使えなくなったわけではなく、一時的にイザークの能力を借りているだけだと言えば、少しほっとしたような、それでもショックを隠し切れない表情だった。
だが、敵に土属性持ちが少なからずいるはずだ。ソイツから属性を奪えば、イザークの使ってきた魔法はエマの武器になる。
エマなら何とか生き残る方法を考えてくれるだろう。その点、無茶をする奴より信頼できる。ただ……子供は突拍子もないことをする。それだけが不安だ。
次いで、アルフレッドから胸倉を掴まれたヴォルグは、怒りで歪んでも腹立つほどお綺麗なご尊顔を見返す。
「ヴォルグ、お前の頭ではどこまで考えついた? 推察で良いから、吐け」
「はいはい……」
ルクセンがそう叫んでヴォルグの胸倉を掴む。
「そのままだよ。エマちゃんが『ファフニール』ご希望の条件に沿った対象者っぽいから、目印付けといた。エマちゃんからも囮役については了承を得てる」
確かに絶対食いつきそうなネタで条件出したが、前もって「面倒」「絶対危ない」「最悪死にかねない」と言った。断られても仕方がないとは思っていたが、エマは二つ返事で了承したのだ。
――だって、絶対に助けに来てくれるんですよね?
弾けた笑顔で言われた。危機感があるのか心配になったが、状況対応力は見込み通り高い。ヴォルグよりも先に『地龍の加護』を見つけ出し、イビルティアーの毒素と『邪龍の使徒』の関連性を見抜いた。
実際に『ファフニール』連中も『秘術』だと証言している。
何より、エマには他者の戦闘力を削ぎ落し、それが自分自身の強化につながるという突破力がある。戦闘能力に長けたメンバーは数いるが、長期戦になれば体力の問題で勝率は下がる。一方で、エマの能力は逆に長期戦になれば敵の方がステータスが減り、デバフをかけられて不利になる。それほど特殊な戦闘スタイルは特務部隊にいない。
アルフレッドから飛んできた握り拳が頬にめり込んだ。骨に響く衝撃に、倒れることはしなかったが、さすがによろめいた。
彼の近くにいたローブの男は、気絶している。仮面が転がっている。
「言いたいことがるなら殴る前に言え」
「私には囮をするなと言っておいて、彼女にはやらせるのか」
「当たり前だろ。お前とエマちゃんじゃ生存欲の強さが違う。あの子とテメェみたいな腑抜けを一緒にすんな。殴りに来れるぐらいに元気なら働けよ、隊長。ほら、次の指示寄越せ」
「ルクセン、特務部隊のメンバーを全員ここに呼び出すように指示。騎士団にもすぐに応援要請を。救護班も呼ぶよう手配してくれ。無視をするようならば、特務部隊のメンバーで突入する。トレバーさん、コリンナさん、イザークさん、貴方達にはこの犯罪者を連れていき、同時に冒険者ギルドに応援要請を。死体であれ、行方不明だった冒険者達の痕跡が見つかるはずだ」
トレバーとコリンナが力強く頷く。
しかし、イザークは青い顔で立ち尽くして、最後首を振った。
「分かった。だが、私はここまでだ……」
「イビルティアーの毒素で体長を崩されたのですか? それならば、貴方は無理しない方が良い」
「いえ、違うんです。何故か魔法が使えなくて……」
「あぁ~……」
私は役に立てそうにないと酷くショックを受けているイザーク。
彼の救助に向かった時、エマがアビリティを引き抜いたのだ。励ましがてらエマのスキルの一部を説明する。一生使えなくなったわけではなく、一時的にイザークの能力を借りているだけだと言えば、少しほっとしたような、それでもショックを隠し切れない表情だった。
だが、敵に土属性持ちが少なからずいるはずだ。ソイツから属性を奪えば、イザークの使ってきた魔法はエマの武器になる。
エマなら何とか生き残る方法を考えてくれるだろう。その点、無茶をする奴より信頼できる。ただ……子供は突拍子もないことをする。それだけが不安だ。
次いで、アルフレッドから胸倉を掴まれたヴォルグは、怒りで歪んでも腹立つほどお綺麗なご尊顔を見返す。
「ヴォルグ、お前の頭ではどこまで考えついた? 推察で良いから、吐け」
「はいはい……」
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