盗人令嬢にご注意あそばせ〜『盗用』スキルを乱用させていただきます!

星見肴

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52話 生贄

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「しっかりなさい、アルフレッド・ロウェスタリア!! お前は、私の弟子でしょう?!」

 一喝が聞こえる。それは地響きの中でも透き通るような、アルフレッドの声だ。

 エマは立っているのもやっとなのに、黒いローブの人間達はこの揺れに微動だにしていない。それどころか悠然とアルフレッドへ歩み寄っている。

 エマは揺れる大地を『縮地』で飛び越える。瞬間的に距離を縮め、空中にできた足場でエマはアルフレッドヘ距離を詰める。

 このメンバーでイビルティアーの毒素を浄化……もとい、奪えるのはエマだけだ。

 アルフレッドへ手を伸ばしたローブの男の腕に飛びかかると同時に、スキルを発動させる!
 次々と隠密行動特化のアビリティを奪っていく中、ある文字列が表示される。

『【地龍の加護】を入手しました』

 着地したエマの体は、重力から開放されたように軽くなる。大地が揺れ続けているのに、それをまるで感じなくなった。

 同時に、男が揺れに耐えきれず尻餅をつく。「馬鹿な!」と喚いた男に、エマは側頭部を蹴り。アルフレッドから物理的に距離を離す。

 ずっとずっと、しっかりしなさいと、アルフレッド自身を励ますように、彼の意識が掻き消えてしまわないように叱咤しているその頭に手を置く。
 しかし、スキルを使っているはずなのに反応がない。

 もしかして、と奪い取るものの名称を変更する。

『【邪龍の使徒】を入手しました』

「そうか! 『イビルティアーの毒素』が属性共鳴で『邪龍の使徒』に変わるんだ!」

「なっ?! 貴様ぁ!」と背後から声が聞こえてきた。

「どうやって我らの秘術を知った?!」
「えっ? 勘です?」(秘術なんだー?)
「勘だと?!」

 エマの隣ではアルフレッドの声がピタリと止んだ。彼の中から声が聞こえなくなったのだ。
 そういえば、エマも波のように押し寄せてきた憎悪を全く感じない。

 きっとこれは、地龍の加護。

 だんだん地震が弱まってきた。
 エマは俯いたままのアルフレッドの肩を揺する。しかし反応が無い。失礼します、とその頬に渾身の力を込めて張り手を食らわせる。彼が横転したところで、「エマちゃん、後ろ!」とコリンナが叫んだ。
 振り返れば、先程蹴り飛ばしたローブの男が、杖を振り上げていた。だが、ナイスタイミングでトレバーが脇腹にタックルを決めた。横転したローブ男に素早く馬乗りになって腰に差していたナイフを喉に押し当てた。

「エマちゃん『地龍の加護』だ! そいつから奪い取ってくれ!」

 ローブの男を一人取り押さえながら、ヴォルグがそう叫ぶ。

「盗用済みです! リースナー様から奪った『邪龍の使徒』を入手しても発狂しません! 多分『地龍の加護』で相殺されています!」
「マジか、手癖がよろしいようで」
「お褒めいただきありがとうございます!」

 後は彼らを連れて行くだけ。そうほっとしたのも束の間、エマの視界がブワァッ! と黒色の膜が湧き出した。ぬかるみに足を取られたように、エマの足が動かなくなった。紫色の光がマーブル模様を描く黒い水溜まりに足が取られている。
 発狂したように、ローブの男の笑い声が響く。

「喜べ、貴様らは選ばれたのだ!! 我らがファフニールの再誕の糧に!!」
「すっごく嬉しくない!」

 けど、
 駆けつけてきたコリンナが手を伸ばしてくれたが、黒い膜が意思を持ったようにその手を弾き飛ばされてしまった。腰まで飲まれていた体はどんどん沈んでいく。ねちょっとしてるけど、体に染み込んでくる感じではない。生温かいスライムのようなものに飲み込まれている感覚だ。

「行ってきます! 絶対助けに来てくださいよ、ヴォルグさん!!」
「あぁ、必ず行く! 後は任せろ!」
「待て、エマ!」

 アルフレッドからの呼び声に構わず、顔を覆われる前にエマは大きく息を吸って黒い沼の中に頭を突っ込んだ。

 真っ暗闇。何も聞こえない。それでも目を開けば、紫色の靄が揺らめく闇が広がっている。
 ずるずると引っ張られる感覚。エマは自ら天地を逆にして、引っ張られた方へ潜っていく。足をバタバタさせれば、勢いよく体は下へ下へと沈んでいった。
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