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35話 顛末書
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目を開くと、遠くに薄暗い天井が見える。
窓の外は闇。室内にはデスク上のライトスタンドが灯っている。
ヴォルグだ。髪を上に結っている。どうやら、上機嫌らしい。
師匠から、いざという時髪に魔力を備えておくようにと教えられているヴォルグはめったに髪をくくらない。すぐに髪を切れるようにするため。
アルフレッドの起床に気付いたヴォルグが、こちらに顔を向ける。
「おはよう。よく寝れたか」
「……睡眠薬を入れたな。頭が重い……」
「気づかねぇお前が悪い」
「犯罪だ」
「知ってる。師匠ならもっとうまくやる」
「お前の師匠は人道を知ってるのか甚だ疑問だ」
「合法的なやり方があるんだよ。まぁ、脱ぎ癖がないから良いだろ」
言い返せなかった。
よろよろと、明かりに吸い寄せられる虫のようにアルフレッドがデスクに向かうとヴォルグが駆け寄って来た。
寝てろと言われたが、ヴォルグが珍しく夜まで働いているのに寝る訳にはいかない。「面倒な性格だな」とはっきり言われた。
小難しいことを言われたが、アルフレッドの不眠はストレスが原因だと断言された。思い当たる節がある。
「食うか、カラアゲ」
「……今は遠慮する」
「聞いてくれよ。これ作ってくれた料理人、師匠と知り合いの人でさ! 師匠から直伝のレシピもらってたんだよ! 通りで師匠の作るカラアゲと同じ味なわけだ!」
ヴォルグがこの時間まで明るい理由は、思いもよらないところで尊敬する師匠の情報が手に入ったからか。
「詳しい話は明日だ。今日はもうそこで寝てろ」
「寝る気が失せた」
「寝る気が失せるってなんだ。鳩尾に見舞うか?」
「結構だ」
「そうか? じゃあ、何飲む? ジャスミンか、カモミール……あぁ、ホットミルクにするか? 蜂蜜をたっぷり入れてやろう」
「子供扱いされる歳じゃない。ジャスミンで頼む」
彼が持ってくるまでに、顛末書を見ようとしたが、思った以上に体が重たかった。一緒に飲みながらヴォルグの話を聞いていたが、仕事ではなくずっと彼の師匠の話だ。そのうちに瞼が重たくなってきた。そのまま、横になると意識を飛ばす。
アルフレッドは知らない。
ヴォルグが提示した3つの飲み物は、眠りを促す成分が含まれていることを。
そして『師匠』が使う合法手段である。自然由来で薬とは言えないものの効果のある飲み物だ。
*
顛末書の流れは、5日前。妹のアリアに階段から突き落とされたエマが目を覚ましてからの、怒涛の2日間……そこに書かれていた事実に、アルフレッドは言葉を失う。あのマリアエルすら実の娘に魔法攻撃を向けたという衝撃的な話だった。
貴族の子供の虐待はよくある話だ。人間を道具としか見ていない貴族が多いため、不都合な人間を排除しようとする。女子であれば、親のいう事を聞く人形として扱う連中が多い。
かくいうアルフレッドも無能だと虐げられ、家から追放されたクチだ。
頭の中であらぬ方向に進んでいった思考を軌道修正する。
キャシーとユリウスを連れて行っている。スキル特務部隊でも現場検証と、状況証拠の収集に長けた2人だ。彼らが向かったのならば、間違いなく調書に書かれていることは事実だ。
「……」
「スゲェだろ、エマちゃんのスキル」
顛末書から顔を上げたアルフレッドに、ヴォルグは新しいおもちゃを見付けたように楽しそうに笑った。
窓の外は闇。室内にはデスク上のライトスタンドが灯っている。
ヴォルグだ。髪を上に結っている。どうやら、上機嫌らしい。
師匠から、いざという時髪に魔力を備えておくようにと教えられているヴォルグはめったに髪をくくらない。すぐに髪を切れるようにするため。
アルフレッドの起床に気付いたヴォルグが、こちらに顔を向ける。
「おはよう。よく寝れたか」
「……睡眠薬を入れたな。頭が重い……」
「気づかねぇお前が悪い」
「犯罪だ」
「知ってる。師匠ならもっとうまくやる」
「お前の師匠は人道を知ってるのか甚だ疑問だ」
「合法的なやり方があるんだよ。まぁ、脱ぎ癖がないから良いだろ」
言い返せなかった。
よろよろと、明かりに吸い寄せられる虫のようにアルフレッドがデスクに向かうとヴォルグが駆け寄って来た。
寝てろと言われたが、ヴォルグが珍しく夜まで働いているのに寝る訳にはいかない。「面倒な性格だな」とはっきり言われた。
小難しいことを言われたが、アルフレッドの不眠はストレスが原因だと断言された。思い当たる節がある。
「食うか、カラアゲ」
「……今は遠慮する」
「聞いてくれよ。これ作ってくれた料理人、師匠と知り合いの人でさ! 師匠から直伝のレシピもらってたんだよ! 通りで師匠の作るカラアゲと同じ味なわけだ!」
ヴォルグがこの時間まで明るい理由は、思いもよらないところで尊敬する師匠の情報が手に入ったからか。
「詳しい話は明日だ。今日はもうそこで寝てろ」
「寝る気が失せた」
「寝る気が失せるってなんだ。鳩尾に見舞うか?」
「結構だ」
「そうか? じゃあ、何飲む? ジャスミンか、カモミール……あぁ、ホットミルクにするか? 蜂蜜をたっぷり入れてやろう」
「子供扱いされる歳じゃない。ジャスミンで頼む」
彼が持ってくるまでに、顛末書を見ようとしたが、思った以上に体が重たかった。一緒に飲みながらヴォルグの話を聞いていたが、仕事ではなくずっと彼の師匠の話だ。そのうちに瞼が重たくなってきた。そのまま、横になると意識を飛ばす。
アルフレッドは知らない。
ヴォルグが提示した3つの飲み物は、眠りを促す成分が含まれていることを。
そして『師匠』が使う合法手段である。自然由来で薬とは言えないものの効果のある飲み物だ。
*
顛末書の流れは、5日前。妹のアリアに階段から突き落とされたエマが目を覚ましてからの、怒涛の2日間……そこに書かれていた事実に、アルフレッドは言葉を失う。あのマリアエルすら実の娘に魔法攻撃を向けたという衝撃的な話だった。
貴族の子供の虐待はよくある話だ。人間を道具としか見ていない貴族が多いため、不都合な人間を排除しようとする。女子であれば、親のいう事を聞く人形として扱う連中が多い。
かくいうアルフレッドも無能だと虐げられ、家から追放されたクチだ。
頭の中であらぬ方向に進んでいった思考を軌道修正する。
キャシーとユリウスを連れて行っている。スキル特務部隊でも現場検証と、状況証拠の収集に長けた2人だ。彼らが向かったのならば、間違いなく調書に書かれていることは事実だ。
「……」
「スゲェだろ、エマちゃんのスキル」
顛末書から顔を上げたアルフレッドに、ヴォルグは新しいおもちゃを見付けたように楽しそうに笑った。
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