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32話 家宅捜索・中

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 エマのスキルについては黙っているように言って、ヴォルグはアリアが最後にターナーと会っていた場所……マリアエルの衣装部屋へ。会っていたというよりは、エマに嫌がらせするためにわざわざターナーを呼び付けたといった方が正しい。

 衣装ケースに突っ伏すように眠っていたエマを蹴り起こしたターナー。それを、アリアは笑って見ていた。
 何もしていない姉を面白半分で悪者にしてきた子供。これが今、世間で『聖女』と謳われている人間の正体だ。これでは世も末だ。
 だが、目覚めて秒、エマはターナーをノックアウト。その交戦後である床にはへこみがある。
 しばらくキャシーが辺りに話しかけながらスキルを使っていると、へっ?! と大きな声を上げた。

「ま、まって、エマちゃん! それは……きゃああああ!」途端に顔を覆ったキャシー。
「何だ、エマがターナーを殺したか?」
「違います!! 違いますよっ!! そうじゃなくて!!」

 ガタン! 大きな音がする。今度は、声にならない悲鳴と、ガタガタと揺れる音。音源を辿ってみれば、衣装ケースが激しく揺れている。
 ヴォルグはサニアと非戦闘員であるキャシーを下がらせ、騎士と一緒に衣装ケースを開ける。

 そこには青いドレスに身を包み、赤いリボンを頭に付けて拘束されているターナー。
 一瞬、時間が止まったようだった。

「ぶっ!」
「ぶわはははははははっ!!」

 突然現れた視覚の暴力にヴォルグは堪え切れずに腹を抱えて笑い声をあげた。床をバシバシ叩いてもまだまだ笑いが収まらない。隣の騎士は一度踏みとどまったものの、横で抱腹絶倒しているヴォルグにつられて笑い出す。もごぉ! とターナーは怒りの声を上げた。
 様子を見に来たサニアがターナーの姿をしっかりばっちり見ると、彼女はふくぅ! と噴き出したものの、すぐに代えの服を持ってくると言い残してその場をそそくさと離れて行った。

 *

 服を着替えたターナーはあっという間に連行となった。
 ちなみに、下着を履いてなかった事実に再度噴き出した。あの服を着せた挙句ノーパンにした犯人は言うまでもなくエマだ。さっきの悲鳴は、エマがスカートをめくった状態で下着を摺り卸したから。キャシーも見たくないものを見せられたわけである。
 しかし、殺されそうになっていることを知ってキレた娘の、何て女の子らしくて可愛らしい報復だろうか。やられた男は間違いなく精神大ダメ―ジだ。

 ターナーの発見に至らなかったのは、掃除を得意とするスキルを持っていたメイド長が辞表だけ置いて消え、数少ない使用人で屋敷全体を回すには人手が足りず、入院となったマリアエルの持ち部屋を掃除していなかったからだ。

 魔法契約書を見せるとターナーは驚愕した顔で自分ではない、何かの陰謀だと叫んだが、詳しい話は一部の騎士達に任せた。
 残った騎士達と共に、ヴォルグ達は引き続き屋敷の調査――……児童虐待、否、暴行事件の余罪だ。
 この世界では『児童虐待』という概念が、まだない。これはヴォルグの師匠、異世界人が持つ概念。他者から見て酷いものは家族内でも暴行事件として摘発可能となっている。蹴り起こす父親に、魔法を向ける母親。日常的にエマを痛め付けて遊ぶアリア。何も出てこない訳がなかった。
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