盗人令嬢にご注意あそばせ〜『盗用』スキルを乱用させていただきます!

星見肴

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30話 エルフィールド家へ

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 ターナーが所属している魔法師団の第4部隊に乗り込んで所在確認をと思ったら、彼は数日前から無断欠勤をしていた。

 ただでさえ敵の多いスキル特務部隊の人間が来たら悪意をぶつけてくるだけ。普通の会話もろくにできない連中で心底面倒だ。

 ターナーが犯罪者と同等のことをしているという証拠品は師団長に見せてきた。捜査中に乗り込んでくれば、特務部隊に何故そんな物を持っている、偽造品だろうと、うだうだ騒いでくるだろう。 

 案の定、ヴォルグが乗り込めば「犯罪者部隊」と初っ端から罵られた。
 正式な特務部隊員に犯罪者はいない。ただ、特殊スキル持ちの犯罪者を、上層部の指示で管理する立場であるだけで、この言われようだ。

 面倒臭い。

 ヴォルグの師匠は、更生しようとする犯罪者にも一般人と同じように対応する。ひねくれ者だったヴォルグにも、普通の人と同じように接してくれた。

 ヴォルグよりも年下でありながらも、人徳のある師匠と比べては、この国の貴族に辟易してしまう。

 あと3年の任期、早く終わらないだろっか。

 *

 ターナーの屋敷はそれはもう、豪奢なお貴族様の家だ。花が咲き、庭は整頓されている立派なお屋敷だ。
 ノックで呼び掛ければ、出てきたのはメイド。ちょっと慌てたように用件を尋ねながら今日の来客はなかったはずだと驚く彼女に、ヴォルグは令状を見せる。
 ところが、彼女はそれを見て逆に冷静さを取り戻したようだった。両扉を開き、ヴォルグ達を中へ入るのを促した。

「貴方がサニアさんか?」
「え? は、はい。その通りです……」

 ヴォルグはキャシーに持たせていた茶封筒から手紙を取り出す。その手紙を受け取ったサニアは文字を読んで、え?? と目を瞬かせる。

「エマがしたためたものだ。きっと、貴方には罪はないと私達に知らせるためでしょう」
「お嬢様……」

 彼女の背後から執事長と思しき老年の男がやって来た。改めてヴォルグが令状を見せると目を丸くし、腰を低く頭を下げる。中へどうぞと促す声には、少なからず焦りが見える。サニアとは対照的だ。

 つまり、彼女は何か事情を知っている。
 慌てた様子を執事長と態度が明らかに違う。やはり、事前にエルフィールド家を摘発するとエマから教えてもらっていたのだろう。執事長が案内を買って出たがサニアに頼む。執事長にはそれ以外の使用人たちをリビングへ集め、その場から動かないように指示を出す。

 サニアは中へ招き入れれば、すぐにターナーの書斎はこちらだと言って先を歩き始める。

「申し訳ございません。実は現在、ターナー様は不在……いえ、数日前から行方が分からず、マリアエル様は入院されておりまして」
「入院?! ご病気ですか?!」

 驚くキャシーに、いえ、と一度言葉を切ったサニアは玄関の正面にある大きな階段の手前で振り返った。

「親子喧嘩です」
「「えっ?」」
「ちなみに、エマ様が勝利しました」
「「「!」」」

 同伴するメンバーが動揺を露にする。話の流れとしては、ターナーの書斎で不正書類を発見したエマを見付けたことで親子喧嘩(?)に至ったらしい。元第2部隊の隊長だろと驚く騎士の声に、サニアは誇らし気な笑顔を浮かべた。

「当然です。誰が何と言おうと、マリアエル様のご息女ですから」
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