30 / 73
29話 スキル特務部隊・下
しおりを挟む
「よし、寝たな。今日は仕事サボれる」
「なっ?! ダメですよ! この殺害依頼書、もうエマちゃんの殺害許可日を過ぎてるんですよ?!」
キャシーがそう吠える。
確かに、リンクしている契約書には殺害完了の報告に印鑑が押されていない。まだ殺されていない可能性は高い。
「それに、あのマリアエル様が自分の娘を家から追い出すなんてことを許容するとは思えません!」
マリアエルの評判はヴォルグも知っている。かつて第2師団の隊長を務めた優秀な女性。彼女は、娘のアリアが『浄光』のスキルを得てから突然湧き出たように話題の人物になった。そのせいで、興味もないマリアエルの情報をあちこちで聞く嵌めになったのだ。
だが、エマ。彼女の名前をヴォルグは聞いたことがない。
エマは、2日前の夜にはアルフレッドに会っている。ぱっと見じゃ分からないよう少年に変装していた。これらを推察するに、エマが自衛のために家から逃げ出した可能性は高い。まだ王都内で身を潜めている可能性はある。
「だがまぁ、んなもんは家に乗り込めば分かる。ターナーの野郎はウザかったし、ちょっとオウチにお邪魔しようじゃねぇか。こい、キャシー。寝落ちしたボスの代行は俺の役目だ」
「隊長の紅茶に睡眠を薬入れたのは、あなたですよ。私、見てましたからね」
「眼の前で見てたくせに、何も言わなかったのはどこのどいつだ」
溶け切てっいない睡眠薬がカップの底に沈殿しているのに気づいてないアルフレッドの方が問題だ。普段なら疲れていても気づく。
無理しているのは分かり切っている。アルフレッドの脳に残存しているアスカの記憶は、彼自身の記憶とほとんど相違することがない。口から呟けば大体、何を指しているか普段の彼なら気づくのだ。
ともあれ、アルフレッドが寝てる間に少しは仕事を片付けなければ無理をする。こんな小さな子供が殺害対象だ。絶対に行くと言って聞かない。
彼には世界各国に拠点を持つ邪龍神信仰のカルト教団『ファフニール』の捜索と逮捕に本腰入れさせるべきだ。
。いざという時、やはり彼の力はあった方が良い。
「で、何が見えたんだ? じゃないと、こっちまでお前が持ってくる案件じゃねぇだろ」
キャシーは明るい水色の瞳をそろりとズラして。
「これらの資料、全てエマちゃんが用意したみたいなんです。でも、差出人は『サニア』というメイドの人になっていて……」
キャシーから渡された手紙に目を通す。確かに、手紙にはサニアという女性がエルフィールド家の不正な証拠を見付け、帳簿は一部を自分のスキルが念写したものを同封したと書いてある。ターナーは交友関係が広いが、あまりスキル特務部隊の人たちとは関係がないから、もみ消されないだろうと思ったとも。
「念写スキルを、エマが使ったのか?」
「そうです。私から見ると、そういう状況にしか見えませんでした。私のスキルからは、終始エマちゃんしか映り込んでないんです。でも、何でそんな嘘を書いたのでしょうか?」
最後の文末には、エマを助けてほしいと書いてあるが、手紙を用意したのはキャシーの『思念読取』でエマ自身だと判明している。一方でエマ自身は自力で脱走済み。事情が分かってて、マリアエルが逃がしたとか、だろうか?
「さぁ? 詳しくは行ってみれば分かるだろ。令状取ってくる。徹底的に潰すぞ」
「分かりました。他のメンバーは?」
「ユリウスぐらいで良いだろ。暴れたら取り押さえるのは騎士連中の仕事だ。ソイツらは俺が連れてくるから、ユリウスに声掛け頼むわ」
完全に寝落ちしているせいで、やたら重たく感じるアルフレッドを、隊長室に私物として置かれているベッドに押し込んだ。
寝ている時でさえ眉間に皺が寄っているアルフレッドを一瞥して、ヴォルグは証拠品を持って騎士団本部へと向かった。
「なっ?! ダメですよ! この殺害依頼書、もうエマちゃんの殺害許可日を過ぎてるんですよ?!」
キャシーがそう吠える。
確かに、リンクしている契約書には殺害完了の報告に印鑑が押されていない。まだ殺されていない可能性は高い。
「それに、あのマリアエル様が自分の娘を家から追い出すなんてことを許容するとは思えません!」
マリアエルの評判はヴォルグも知っている。かつて第2師団の隊長を務めた優秀な女性。彼女は、娘のアリアが『浄光』のスキルを得てから突然湧き出たように話題の人物になった。そのせいで、興味もないマリアエルの情報をあちこちで聞く嵌めになったのだ。
だが、エマ。彼女の名前をヴォルグは聞いたことがない。
エマは、2日前の夜にはアルフレッドに会っている。ぱっと見じゃ分からないよう少年に変装していた。これらを推察するに、エマが自衛のために家から逃げ出した可能性は高い。まだ王都内で身を潜めている可能性はある。
「だがまぁ、んなもんは家に乗り込めば分かる。ターナーの野郎はウザかったし、ちょっとオウチにお邪魔しようじゃねぇか。こい、キャシー。寝落ちしたボスの代行は俺の役目だ」
「隊長の紅茶に睡眠を薬入れたのは、あなたですよ。私、見てましたからね」
「眼の前で見てたくせに、何も言わなかったのはどこのどいつだ」
溶け切てっいない睡眠薬がカップの底に沈殿しているのに気づいてないアルフレッドの方が問題だ。普段なら疲れていても気づく。
無理しているのは分かり切っている。アルフレッドの脳に残存しているアスカの記憶は、彼自身の記憶とほとんど相違することがない。口から呟けば大体、何を指しているか普段の彼なら気づくのだ。
ともあれ、アルフレッドが寝てる間に少しは仕事を片付けなければ無理をする。こんな小さな子供が殺害対象だ。絶対に行くと言って聞かない。
彼には世界各国に拠点を持つ邪龍神信仰のカルト教団『ファフニール』の捜索と逮捕に本腰入れさせるべきだ。
。いざという時、やはり彼の力はあった方が良い。
「で、何が見えたんだ? じゃないと、こっちまでお前が持ってくる案件じゃねぇだろ」
キャシーは明るい水色の瞳をそろりとズラして。
「これらの資料、全てエマちゃんが用意したみたいなんです。でも、差出人は『サニア』というメイドの人になっていて……」
キャシーから渡された手紙に目を通す。確かに、手紙にはサニアという女性がエルフィールド家の不正な証拠を見付け、帳簿は一部を自分のスキルが念写したものを同封したと書いてある。ターナーは交友関係が広いが、あまりスキル特務部隊の人たちとは関係がないから、もみ消されないだろうと思ったとも。
「念写スキルを、エマが使ったのか?」
「そうです。私から見ると、そういう状況にしか見えませんでした。私のスキルからは、終始エマちゃんしか映り込んでないんです。でも、何でそんな嘘を書いたのでしょうか?」
最後の文末には、エマを助けてほしいと書いてあるが、手紙を用意したのはキャシーの『思念読取』でエマ自身だと判明している。一方でエマ自身は自力で脱走済み。事情が分かってて、マリアエルが逃がしたとか、だろうか?
「さぁ? 詳しくは行ってみれば分かるだろ。令状取ってくる。徹底的に潰すぞ」
「分かりました。他のメンバーは?」
「ユリウスぐらいで良いだろ。暴れたら取り押さえるのは騎士連中の仕事だ。ソイツらは俺が連れてくるから、ユリウスに声掛け頼むわ」
完全に寝落ちしているせいで、やたら重たく感じるアルフレッドを、隊長室に私物として置かれているベッドに押し込んだ。
寝ている時でさえ眉間に皺が寄っているアルフレッドを一瞥して、ヴォルグは証拠品を持って騎士団本部へと向かった。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』
ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。
誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜
青空ばらみ
ファンタジー
一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。
小説家になろう様でも投稿をしております。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる