20 / 73
19話 兄弟喧嘩、そして旅立ち
しおりを挟む
サニアが止めて下さいと半泣きになる。
「お二人は、ご兄弟じゃないですか!」サニアは叫ぶ。
舞の知識がなかった頃のエマも同じく、またあの頃のように兄弟が仲良しに戻れると、サニアも信じてくれていたのだ。
だが、サニアの言葉にロレンスは表情を歪めた。
「このゴミが私の兄弟だと? 笑わせるな」
「あら。血縁関係上、お前は私の兄よ。まぁ、お前は猿が人間の服を纏ってるだけの下等生物だけど。そんなことも分からないお馬鹿さんなのは知ってたわ。無能だし」
「その口を二度と開けないよう処分してやる。我がエルフィールド家を侮辱した罪を命を持って贖うと良い」
エマを見下すように、青い瞳が細めながらロレンスが鞘から剣を抜いた。やっぱりコレも、生きている人の命を、簡単に処分しようとする頭しか持ち合わせていないのだ。
仕方がない。
両親がそうだったのだから。
エマは『縮地』で、距離を一瞬にして詰める。ロレンスが剣を振るうが、その動きは酷く遅かった。
エマは鞘を纏った剣で押し込む。
ロレンスは自分の握っている剣を一瞥すると力いっぱいエマを押し返した。
その力の流れに逆らわず、ロレンスの剣の刃を鞘の上で滑らせる。鍔がぶつかり合ったところでくるりと返し、ロレンスの力が上手く入らなくなったところで払い飛ばす。
ロレンスの剣が壁に突き刺さる。
勝負はあったが、ここで会ったが百年目。
「何故?!」と驚いているロレンスの懐に飛び込み、エマは鳩尾へ思いっ切り剣を叩き付ける。
ロレンスの体がくの字に折れ曲がった。
エマに覆い被さるように前へ倒れるロレンスの顔面をぶん殴って、重心を物理で後方へ転換させる。ロレンスは、背中から倒れた。鼻血もわずかに出ている顔を見ると清々しい。母と似て倒れている姿もきれいなのは、何か腹が立つが。
エマはぽいっと剣を捨てる。
こんな鈍らいらない、と。無駄に高級品だろう、見栄を張りたがる人たちだから。
「さよならは言わないわ。機会があったらまた会いましょう」
「お嬢様……」
エマは、わざとロレンスを踏み付けてから屋敷の扉を押し開く。
エマは、笑顔で手を振る。
「いってきます! もう絶っっっ対に、戻ってこないけど!」
サニアは口を引き結んだ。口元は引きつっていたが、彼女はそれ以上その場所から動かずに、頭を深々と下げた。
「行ってらっしゃいませ、お嬢様!」
サニアの声は潤んでいた。それでも、あなたを見送りますと、そんな声が聞こえてくるようだった。
顔を上げた彼女の瞳には、涙が浮かんでいた。
エマは振り返らない。
いつも見ていたはずの夕焼けの空は、空を茜色に染め、遠くでは夜を誘うように藍色が浮かんでいる。
まだ見ぬ世界と新しい冒険、そして様々な出会いがあると言わんばかりに、橙色に染まった城下町はとてもきれいだった。
エマは『縮地』を駆使して、城下町への道のりを行く。
「お二人は、ご兄弟じゃないですか!」サニアは叫ぶ。
舞の知識がなかった頃のエマも同じく、またあの頃のように兄弟が仲良しに戻れると、サニアも信じてくれていたのだ。
だが、サニアの言葉にロレンスは表情を歪めた。
「このゴミが私の兄弟だと? 笑わせるな」
「あら。血縁関係上、お前は私の兄よ。まぁ、お前は猿が人間の服を纏ってるだけの下等生物だけど。そんなことも分からないお馬鹿さんなのは知ってたわ。無能だし」
「その口を二度と開けないよう処分してやる。我がエルフィールド家を侮辱した罪を命を持って贖うと良い」
エマを見下すように、青い瞳が細めながらロレンスが鞘から剣を抜いた。やっぱりコレも、生きている人の命を、簡単に処分しようとする頭しか持ち合わせていないのだ。
仕方がない。
両親がそうだったのだから。
エマは『縮地』で、距離を一瞬にして詰める。ロレンスが剣を振るうが、その動きは酷く遅かった。
エマは鞘を纏った剣で押し込む。
ロレンスは自分の握っている剣を一瞥すると力いっぱいエマを押し返した。
その力の流れに逆らわず、ロレンスの剣の刃を鞘の上で滑らせる。鍔がぶつかり合ったところでくるりと返し、ロレンスの力が上手く入らなくなったところで払い飛ばす。
ロレンスの剣が壁に突き刺さる。
勝負はあったが、ここで会ったが百年目。
「何故?!」と驚いているロレンスの懐に飛び込み、エマは鳩尾へ思いっ切り剣を叩き付ける。
ロレンスの体がくの字に折れ曲がった。
エマに覆い被さるように前へ倒れるロレンスの顔面をぶん殴って、重心を物理で後方へ転換させる。ロレンスは、背中から倒れた。鼻血もわずかに出ている顔を見ると清々しい。母と似て倒れている姿もきれいなのは、何か腹が立つが。
エマはぽいっと剣を捨てる。
こんな鈍らいらない、と。無駄に高級品だろう、見栄を張りたがる人たちだから。
「さよならは言わないわ。機会があったらまた会いましょう」
「お嬢様……」
エマは、わざとロレンスを踏み付けてから屋敷の扉を押し開く。
エマは、笑顔で手を振る。
「いってきます! もう絶っっっ対に、戻ってこないけど!」
サニアは口を引き結んだ。口元は引きつっていたが、彼女はそれ以上その場所から動かずに、頭を深々と下げた。
「行ってらっしゃいませ、お嬢様!」
サニアの声は潤んでいた。それでも、あなたを見送りますと、そんな声が聞こえてくるようだった。
顔を上げた彼女の瞳には、涙が浮かんでいた。
エマは振り返らない。
いつも見ていたはずの夕焼けの空は、空を茜色に染め、遠くでは夜を誘うように藍色が浮かんでいる。
まだ見ぬ世界と新しい冒険、そして様々な出会いがあると言わんばかりに、橙色に染まった城下町はとてもきれいだった。
エマは『縮地』を駆使して、城下町への道のりを行く。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』
ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。
誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜
青空ばらみ
ファンタジー
一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。
小説家になろう様でも投稿をしております。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる