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14話 親子喧嘩だ、Let's 反抗!・下
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マリアエルが詠唱を始めた次の瞬間、エマは『ダーク』を放って視界を暗闇へと飲み込んだ。
何!? と怯えたアリアの声が聞こえたが、マリアエルの詠唱は淡々と続いた。
エマは同時に『身体強化』と『縮地』で距離を詰める。
そこで、ブワッ!! と闇が晴れた。マリアエルとの距離は、もう30センチもなかった。
さすがにこの距離にはマリアエルも驚いたように目を見開いた。
今まで散々酷い目に遭わされてきた憎悪、
存在を否定してきた罵詈雑言への不満、
マリアエルが魔法詠唱しているその掌へ、エマは渾身の力を込めて拳を叩き込んだ。
「くたばれクソババァアアアアーーーー!!」
全力でスキルを行使する。
魔力も、体力も、ステータスすべてを、スキルを、持っている属性を、全てのアビリティ、全てを奪い取る!
ウィンドウが、ターナーの時と同じようにものすごい勢いで出現しては消えた。
体力を、魔力を、攻撃力を、防御力を、魔法攻撃力を魔法防御力を、速度を、『300入手しました』と書かれた文字列。さらに、スキルの『聖属性魔法強化』、その他アビリティが次々とエマの中へと吸い込まれていく。
マリアエルの腕は、バキバキバキっと不快な音をたてながら折り曲げられ、腕の形をしていた肉が押し潰されていく。
母の顔が歪む。胸の奥に、ザクりと何かが突き刺さる。
でも、もう後戻りはできない。
母の魔法陣が消える。エマはその勢いのままアリアに膝蹴りをかまし(たまたまぶつかった)、向かいの壁にぶつかる直前に身を翻して壁を蹴る。アリアを殴られたと動揺した母の顔目掛けて、再び握り拳を向ける。
「ライトニングアロー……なっ?! でない?!」
大きく見開いた母の顔に、エマはもう一度拳を叩き込む。もう一度、スキルを使いながら。
理不尽にもウインドウは再び現れた。
ステータスに表記されているもの全てがまた『300入手しました』と書かれている。
ぽろりと、何故か涙が零れた。
*
いつもマリアエルは全てエマのせいだと言っていた。
お前の前世が犯罪者だからと、いつも罵倒した。
そんなお前が生まれてきたから、全てが台無しだと泣き叫んだ。
確かに、エマが『盗用』スキルを得てから、マリアエルを馬鹿にする使用人が現れた。メイドと浮気しているターナーならまだしも、夜の外出もないマリアエルが別の男と浮気したんだろうと罵られていたのも知っている。エマは、その不義の子供だと思われていた。
それを、エマは自分のせいだと思っていた。
自分さえ生まれこなければ良かったと思うほどだった。
母が悲しんでいることが一番苦しかった。
今なら分かる。エマは、母にこそ愛してもらいたかった。笑っていてもらいたかった。
でもそれは、エマのせいではない。母が弱かったから。
いつも誰かの評価に流されていて、自分がない人だったからだ。自分の存在が他者からの認識しかないから、母は『自分』という人間を保てなかったから、全てをエマのせいにして自分を守ろうとしたのだ。
倒れている姿すら美しい母……マリアエルを見下ろして、エマは言う。
「さようなら、お母様……いえ、マリアエル様。お望み通り、もう二度とお会いしません」
遠の昔から、あなたの娘ではなかったのだから。
杖を放り投げて腰を抜かしているアリアにエマは振り返る。アリアは涙目で、ひっ! と悲鳴を上げた。
性懲りもなく、また言いつけてエマを痛ぶろうとしたのだろう。
「このゴミクズが」
そう吐き捨てて、エマは極限まで力を抜いて、アリアの頬を軽く叩いた。
頬を横にも振れないほどの衝撃はなかった。本当にぺちんと頬に触れる程度だったが、それでも、アリアはそれだけで失禁した。
生まれて初めて、エマはアリアをゴミを見るような目で見ることになった。
何!? と怯えたアリアの声が聞こえたが、マリアエルの詠唱は淡々と続いた。
エマは同時に『身体強化』と『縮地』で距離を詰める。
そこで、ブワッ!! と闇が晴れた。マリアエルとの距離は、もう30センチもなかった。
さすがにこの距離にはマリアエルも驚いたように目を見開いた。
今まで散々酷い目に遭わされてきた憎悪、
存在を否定してきた罵詈雑言への不満、
マリアエルが魔法詠唱しているその掌へ、エマは渾身の力を込めて拳を叩き込んだ。
「くたばれクソババァアアアアーーーー!!」
全力でスキルを行使する。
魔力も、体力も、ステータスすべてを、スキルを、持っている属性を、全てのアビリティ、全てを奪い取る!
ウィンドウが、ターナーの時と同じようにものすごい勢いで出現しては消えた。
体力を、魔力を、攻撃力を、防御力を、魔法攻撃力を魔法防御力を、速度を、『300入手しました』と書かれた文字列。さらに、スキルの『聖属性魔法強化』、その他アビリティが次々とエマの中へと吸い込まれていく。
マリアエルの腕は、バキバキバキっと不快な音をたてながら折り曲げられ、腕の形をしていた肉が押し潰されていく。
母の顔が歪む。胸の奥に、ザクりと何かが突き刺さる。
でも、もう後戻りはできない。
母の魔法陣が消える。エマはその勢いのままアリアに膝蹴りをかまし(たまたまぶつかった)、向かいの壁にぶつかる直前に身を翻して壁を蹴る。アリアを殴られたと動揺した母の顔目掛けて、再び握り拳を向ける。
「ライトニングアロー……なっ?! でない?!」
大きく見開いた母の顔に、エマはもう一度拳を叩き込む。もう一度、スキルを使いながら。
理不尽にもウインドウは再び現れた。
ステータスに表記されているもの全てがまた『300入手しました』と書かれている。
ぽろりと、何故か涙が零れた。
*
いつもマリアエルは全てエマのせいだと言っていた。
お前の前世が犯罪者だからと、いつも罵倒した。
そんなお前が生まれてきたから、全てが台無しだと泣き叫んだ。
確かに、エマが『盗用』スキルを得てから、マリアエルを馬鹿にする使用人が現れた。メイドと浮気しているターナーならまだしも、夜の外出もないマリアエルが別の男と浮気したんだろうと罵られていたのも知っている。エマは、その不義の子供だと思われていた。
それを、エマは自分のせいだと思っていた。
自分さえ生まれこなければ良かったと思うほどだった。
母が悲しんでいることが一番苦しかった。
今なら分かる。エマは、母にこそ愛してもらいたかった。笑っていてもらいたかった。
でもそれは、エマのせいではない。母が弱かったから。
いつも誰かの評価に流されていて、自分がない人だったからだ。自分の存在が他者からの認識しかないから、母は『自分』という人間を保てなかったから、全てをエマのせいにして自分を守ろうとしたのだ。
倒れている姿すら美しい母……マリアエルを見下ろして、エマは言う。
「さようなら、お母様……いえ、マリアエル様。お望み通り、もう二度とお会いしません」
遠の昔から、あなたの娘ではなかったのだから。
杖を放り投げて腰を抜かしているアリアにエマは振り返る。アリアは涙目で、ひっ! と悲鳴を上げた。
性懲りもなく、また言いつけてエマを痛ぶろうとしたのだろう。
「このゴミクズが」
そう吐き捨てて、エマは極限まで力を抜いて、アリアの頬を軽く叩いた。
頬を横にも振れないほどの衝撃はなかった。本当にぺちんと頬に触れる程度だったが、それでも、アリアはそれだけで失禁した。
生まれて初めて、エマはアリアをゴミを見るような目で見ることになった。
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