盗人令嬢にご注意あそばせ〜『盗用』スキルを乱用させていただきます!

星見肴

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2話 『盗用』スキルの範囲

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 まずは室内でどの範囲がスキルの発動可能領域なのかを確かめる。
 少なくとも、『盗む』のは他人の物であるのは必須条件なはずだ。人がいないことを確認して、隣室であるサニアの部屋と忍び込む。不用心なことに扉の鍵は開いていた。

 そもそも、スキルってどんな風に使うのだろう。
 クローゼットに向けて、手を伸ばす。

「……『盗用』!」

 スキル発動! と念じながらそう小声で唱える。さすがに大声はバレたら怖いからである。エマも舞も、ビビリなのだ
 すぐにばさばさばさっと大漁の紙が落ちてきた。
 ん? と見下ろすと、それは亜麻色の髪の誰かの写真……。

(誰かじゃねぇ……ロレンスお兄様の写真だわ)

 ちょっと口の悪い舞の性格が抜け切らない。
 拾い上げてみる。
 幼い頃から現在、中等部も卒業間近のロレンスだ。確かにサニアはこの家に仕えて古株だ。エマも可愛がってもらったこともある……それも、本当にただ仕事のため。エマのスキルが『盗用』だと分かってからは、会話はおろか目を合わせてもくれない。露骨に無視されてきた。
 だが、ロレンスへの対応は微塵も変わっていない。エルフィールド家時期当主だからだろう。

 しかし、写真の角度からして明らかに盗撮。しかも、入浴シーンまで完備。

 この世界の写真機は魔道具のカメラのみで、非常に高額だ。だが鮮明ではないと聞いている。だから家の肖像画は全て画家の手描きだ。エマもじっと座っているのが辛かった記憶がある。

 相当頑張らないとメイドの給料ではとても買えないはずだ。だがサニアは身近にいる推しのために頑張っちゃったのだろう。気持ちは分からないでもない。

 写真は、クローゼットの中に隙間なく整然と貼り付けられていた。というか、クローゼットの中は服なんて入ってなかった。サニア最推しの祭壇と言った方が表現適切だろう。

 ロレンスの毛髪であろう亜麻色の髪束が乗った皿があると、ロレンスを呪い殺そうとしている呪術の儀式場にしか見えないが。その皿の横に写真を置いてそっ閉じした。

 だが、このロレンスの祭壇のお陰で分かったことがある。
 クローゼット内の縦横50センチの正方形が発動範囲。クローゼットとエマの距離はおおよそ1メートル。

「そう言えば……」

 エマは慎重に部屋を出て自室へ戻る。
 多分ここら辺だとロレンスの祭壇クローゼットへ向けて手を伸ばす。

「『盗用』!」

 音もなく足元に落ちてきたブツにエマは後退りする。

 サニアの祭壇にあった、ロレンスの髪の毛。
 盗ってきたものは恐怖でしかないが、それでも証明できた。

 エマのスキルは

 ロレンスの毛髪は速攻ゴミ箱に投げ捨てた。
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