異世界賢者の魔法事件簿

星見肴

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2章 誘拐・融解事件

59話 夜のお話し合い・上

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 カルロスと別れてから更に具合が悪くなった和葉は、ギルドに戻ってから自室で休ませてもらった。

 目が覚めるともう暗かった。時間を確認してみれば、夜も深まっている。ケイは、いない。まだ眠っていないのだろう。

(ブレーメンとの約束……)

 一昨日、和葉のベッドの上に置かれていた手紙。今日の夜中、指定された場所で待っている、という内容だ。場所は、冒険者ギルドに近い路地。

(もうすぐ時間……)

 和葉はぎゅっと眉間にシワを寄せる。

(会いたくない……!)

 和葉は、布団から飛び出した。

 ■□■□■

 こっそり抜け出すと、ケイ達を含めて冒険者達がまだいるみたいだった。和葉は裏口から出て、目的地へと駆けていく。

 指定された場所に辿り着くと、ゴミ箱の上に座っている。
 金髪の長い髪に、緑色の瞳。眼鏡をかけた優男。

 ブレーメンだ。

「ギメイです。答えをもらいにきました」
「……お久しぶりです。まさか、本当に一人できたんですか?」
「みんな疲れてるから」
「それ言ったら君の方が余程だ。地下のアンデットを逃がすなんて、人を引っ掻き回すのがお上手だ。犯罪者の才能がある」
「(ラノベだと、みんなこんな感じだけど)答えがほしい」
「もう出ているでしょう。言うまでもありません」

 つまり、ペルーナ教会。

「出ていません。犯人達の名前と目的」
「マルセイ・ダーバット、ロメリオ、フェリコ・ブロンスキー、ハナハ、ベティ・ラリンス。目的は、どこかのお馬鹿さんが教会にとって大事な物を持ち出したんです。それもを、無断でね。君は、それを詳しく知らなくて良い。いや、知らない方が良い。知っていれば、逆に審問にかけられるのは君になってしまう。その時、僕と会っているのが分かれば君も犯罪者として捕縛されて、冒険者ギルドが国外へ追い出されるでしょう」

 そうブレーメンは滔々と語る。

「彼ら教会が、『守護の要』を名乗ることができ、貴族や法律に関与できる権力を誇る。だが馬鹿をやったせいで、国と国の間に亀裂が走っておかしくない状況に陥っている」
「……持ち出したらいけないものを持ち出した、のが事件の根幹」
「えぇ」
「それで、その事実を隠蔽するために、更に罪を重ねている?」
「えぇ」
「いや、こっそり戻せばよくないか??」
「それをやらないから馬鹿なんですよ」

 ブレーメンがそうバッサリ吐き捨てた。
 しかしすぐに目を細めて、「あるいは」と呟く。

あるのかもしれませんね」

 しばらく沈黙して、和葉は「まぁいいや」と呟く。

「それがアイリスさんにバレたから彼女は殺された。そして、教会はトラッドを使って君のせいにしようとしている」
「えぇ。そこまで分かっていれば真相は十分です」
「そもそも、ジュリエさんが攫われなければ関係なかったんだが」
「残念でしたね。ですが、あの審問官達を信用しすぎないことだ。決して君達の味方ではない。教会側の不都合が分かれば揉み消しますよ」
「うん? 権力者はみんなそうするだろう?」
「……ギメイ君、いきなり知能指数下がるの、どうにかなりませんか?」
「第一、君のこともそこまで信用してるわけじゃない」

 はぁ、とブレーメンは肩を竦める。

「だったら、何で来たんです? 君が心の底のどこかで、僕を信用しているからでしょう」
「君自身は信用していないが、君のを信頼している。信用できない相手と相対するならば、その相手が必ず取る行動……信条を信じるしかないと思っている。私が信じているのは、君の犯罪に対する美学と、トラッドを救出したいという想い」

 ブレーメンは小さく笑う。

「君、?」

 きっと、普段ならさっさと連れ出していると思う。
 教会の『持ち出してはいけない大事な物』という比喩表現を多用するような物がないことまで知っている。

 そこまで情報を掴んだのなら、彼を連れ出すために準備が整っていそうだ。それなのに、まだブレーメンは手を拱いている。和葉達や帝国に情報提供をしてまで犯人を追い詰めるアシストを行っている。

「教会に、入れない一角があるんですよ。そこは教会と、とある一族だけが入ることを許されている特殊な施錠魔法が施されている。何度も解錠を試みようとしましたが、結局開けられなかった」
「……地下水路内に変わった模様の天井があった。ベートの魔眼が反応したんだ。それだろうか?」
「えぇ。恐らく、私が苦戦したものと同じものです……相変わらず、君の情報収集速度はおかしい。いつから調べていたんです?」
「いつからって、何を?」
「今回の事件ですよ」
「えっと、四、五日前」
「嘘おっしゃい。こちらが、あの地下入口を発見するまでにどれだけ苦労したと……」
「それは、君が手伝ってくれたのもあるだろう?」

 ニコッとブレーメンの笑顔が固まった。
 何でだろう。不快な発言をしたらしい。

「私が、いつ、教会に関する情報を投下しましたかね?」
「…………………言われてみれば、もらった記憶がないな」
「教会に関する情報は君が引っ張ってきたんでしょうが。君の所にきたヴォルグとかいう男のスキル能力反則過ぎませんか? 何ですか、他人の記憶から情報を紙に念写するって。アホですか。犯罪者も真っ青ですよ。あの男ときたら、この前だって……──」

 ごほん、とブレーメンは咳払いする。

(何か、空気変えた方が良い気がする)
「えっと、君、軍法科の女子にファンがいるんだってな。この前、教会とブレーメンファンでいざこざあったとか。どんな舌戦だったんだろう」
「僕がモテてしまうのは仕方がありません。何せ、国内の犯罪者達をも震え上がらせる仕掛け人ですから」

 得意気に、そしてやけに饒舌に語り始めたブレーメンの言葉は全部聞き流す。
 気分を損ねないことが最優先事項。ペラペラと自分自慢できる人を見るのは好きじゃないが仕方がない。

 和葉とブレーメンでは戦闘をくぐり抜けた場数が違う。タイダスを襲撃するなんて大胆な行動は、戦闘にも自信がある証だ。

 戦闘になれば確実に和葉が負ける。
 殺されるなら良いが、フェアリーテイルにお持ち帰りされたら逃げられる未来が見えない。

「まぁ君も、一部では熱狂的なファンが……」
「あぁいや、私の話は要らないし聞きたくないし興味ない。聞くのも怖いし気持ち悪くなるだけだから知ってても頼むから何も言わないでくれ」
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