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1章 魔法とスキルと、魔法ポーション
44話 ギルドに現れたハウル
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「だが、メメルの研究が狙いだとして、何でハウルが冒険者ギルドに潜伏したと思う? それなら、学校に潜伏して手伝った方が正解じゃないか?」
そうデイヴィスが首を傾げる。
「勝手な想像でいいなら」
「構わない。帝国軍に報告するために、何でも良いから情報がほしいんだ」
「ベナードが共犯者前提で話すと、学校はそのデブブタハゲに任せていたが、ろくな情報を持って来ないから、ジェペットさんの出入りが多い冒険者ギルドに目を付けたんじゃないだろうか」
職員として来たのはメメルが冒険者ギルドで荒稼ぎするお金と、購入する素材の額からおおよその分量を割り出すため。
学校側は資金提供なんてしなかっただろう。貧乏学生の資金繰りなんてたかが知れている。必要最低限のお金しか集めないはずだ。
素材を集めたらすぐに実験に使われてしまい、ベナードはいつも素材の数量を確認できなかったのかもしれない。少しでも工面してやればすぐに分かったことを、彼は奪い取ることばかりに気を回してやらなかったのだ。
ハウルはタタの店にも行っている。他の店にも顔を出して、メメルが購入している素材をそれとなく聞き出しているだろう。あの社交性だ。それでも正確な情報をすべて入手できなかった。一部の店舗は守秘義務を守っていたから。
ハウルはメメルの使っている素材を探し当てるために、備品管理を専属で行えるように調整した。
だが備品を管理するだけでは、実験内容までは分からない。だから、実験の進捗具合だけは確認したがっていたのだ。
自分も魔法が使えるようになりたい……それらしい言い分を使って、言葉巧みに近づいた。
和葉が考えつくのは、この程度だ。
「だが、まだ容疑を晴らすには十分な状況でハウルが白状した理由は分かる。私の頭が良いという勘違いと、私のスキル効果でハウルさんに認識できない言葉が山程あったからだ」
ハウルは話術に長けている。会話の全貌が聞こえれば、機転を利かせるぐらいできたのだろう。しかし、会話の中に認識できない言葉が度々出てきた。さらに和葉の頭が良いという勘違いが加わっていた。
自分の窮地に、頭がキレる和葉がしゃべりまくっている。自分を摘発するための言葉を並べ立てているのではないかと推測するしかなかったのではないか。少なくとも、見た目は完全に勘違いであることには気付いていたはずだ。だから、パトリックを和葉の目印として置いた。
「証拠がない以上ハッタリでしかないが、それでもハウルさんからは『ボス』の二文字を引きずり出せた……――めちゃくちゃ会いたくない」
「さすがに、アイツもすぐに仕掛けてはこないだろう」
そうデイヴィスが言う。
「ハウルの逮捕を知れば、必ずアイツは動く。接触してくるにしても、逃がすなり殺すなりした後のはずだ」
「そうか……やだなぁ、こわいなぁ」
「全然怖くなさそうねぇ、カズハ君?」
「元の世界では体験したことがなさすぎて、めちゃくちゃ逃げたいです。明日から他国のギルドに転勤になりませんか? 私の身の安全が保証されます」
「それがないんだ。というか、いなくならないでくれ! 頼む!」
和葉はそう言いながら、仕分けされた領収書を見る。
和葉の予感は的中していた。タタの薬屋で換金した金額が書かれた領収書は、女性らしい繊細な筆跡だったタタのものとは違って、全てハウルのものだった。
カラアゲの漬けダレのレシピを横一列に書いた時に見た、元気な彼らしい力強い文字だった。
■□■□■
そうは問屋が卸さねぇ。
「やぁ」
厨房で働いているところにリーセルから呼び出しを受けた和葉は、休憩スペース近くの裏口に立っているハウルに幻かと目を擦った。満面の笑みを浮かべて、「夢じゃないよ」と、黒いコートに黒い服という、全身黒まみれのハウルが、和葉を見て一瞬硬直する。
ハウルと、初めて視線が合った。
「……初めまして、ハウルさん。私の名前は、カズハ・ハマナカという。名前、聞こえただろうか?」
「へぇ、カズハっていうんだ。興味ないけど」
彼は、すぐに黒いシャツの裾を捲り上げた。
割れた腹筋の上に黒い変な模様。何かが埋め込まれたように、赤い石のようなものが脈打つように光っている。
「何だそれ? 気持ち悪いな……」
「条件を満たさないと俺の心臓を潰しちゃう呪い。一緒に来てくれるだろう? 神様を信じている敬虔な――」
「あぁ、分かった」
ハウルの言葉を上書きするように即答した和葉に、ハウルを含めてメンバーが和葉を見る。
「いや、お前! もう少し考えろ?! 相手はフェアリーテイルのメンバーだぞ!?」デイヴィスがすぐに声を荒げた。
「でも、言う通りの呪いなんだろう?」
デイヴィスの顔が苦々しく歪む。
もう一回、デイヴィスにどんな効果があるのか説明を頼めば、術者の意思でどんな場所にいても心臓を握り潰せる呪いだと返答された。
「リーセルさん、出掛ける準備を手伝ってほしい」
「へっ?」
「目眩がする。何となくだが、この前一日中眠った日があっただろう? あの時の前兆と似ている気がする。途中で倒れたら、誰か呼びに行ってほしいんだ」
突然、指名されたリーセルが間抜けな声を上げる。自分を指差して、君だ、と一言。
「それに、君以外の他の三人だと脱走の手伝いをしてしまうだろう。ハウルさん、三〇分もらうのは問題ないか?」
「はぁーあ。何でそう偉そうなんだろうね? 一〇分までだ。俺だって死にたくない」
「この後、ボコられるんだろう? ちょっと覚悟する時間がほしい。二〇分」
「一〇分だ」
裏口の扉に背を預けたハウル。普通にオッケーもらえて驚いた。
和葉は近くにあったクリップボードを手に取って、リーセルと共に階段を上がっていった。
そうデイヴィスが首を傾げる。
「勝手な想像でいいなら」
「構わない。帝国軍に報告するために、何でも良いから情報がほしいんだ」
「ベナードが共犯者前提で話すと、学校はそのデブブタハゲに任せていたが、ろくな情報を持って来ないから、ジェペットさんの出入りが多い冒険者ギルドに目を付けたんじゃないだろうか」
職員として来たのはメメルが冒険者ギルドで荒稼ぎするお金と、購入する素材の額からおおよその分量を割り出すため。
学校側は資金提供なんてしなかっただろう。貧乏学生の資金繰りなんてたかが知れている。必要最低限のお金しか集めないはずだ。
素材を集めたらすぐに実験に使われてしまい、ベナードはいつも素材の数量を確認できなかったのかもしれない。少しでも工面してやればすぐに分かったことを、彼は奪い取ることばかりに気を回してやらなかったのだ。
ハウルはタタの店にも行っている。他の店にも顔を出して、メメルが購入している素材をそれとなく聞き出しているだろう。あの社交性だ。それでも正確な情報をすべて入手できなかった。一部の店舗は守秘義務を守っていたから。
ハウルはメメルの使っている素材を探し当てるために、備品管理を専属で行えるように調整した。
だが備品を管理するだけでは、実験内容までは分からない。だから、実験の進捗具合だけは確認したがっていたのだ。
自分も魔法が使えるようになりたい……それらしい言い分を使って、言葉巧みに近づいた。
和葉が考えつくのは、この程度だ。
「だが、まだ容疑を晴らすには十分な状況でハウルが白状した理由は分かる。私の頭が良いという勘違いと、私のスキル効果でハウルさんに認識できない言葉が山程あったからだ」
ハウルは話術に長けている。会話の全貌が聞こえれば、機転を利かせるぐらいできたのだろう。しかし、会話の中に認識できない言葉が度々出てきた。さらに和葉の頭が良いという勘違いが加わっていた。
自分の窮地に、頭がキレる和葉がしゃべりまくっている。自分を摘発するための言葉を並べ立てているのではないかと推測するしかなかったのではないか。少なくとも、見た目は完全に勘違いであることには気付いていたはずだ。だから、パトリックを和葉の目印として置いた。
「証拠がない以上ハッタリでしかないが、それでもハウルさんからは『ボス』の二文字を引きずり出せた……――めちゃくちゃ会いたくない」
「さすがに、アイツもすぐに仕掛けてはこないだろう」
そうデイヴィスが言う。
「ハウルの逮捕を知れば、必ずアイツは動く。接触してくるにしても、逃がすなり殺すなりした後のはずだ」
「そうか……やだなぁ、こわいなぁ」
「全然怖くなさそうねぇ、カズハ君?」
「元の世界では体験したことがなさすぎて、めちゃくちゃ逃げたいです。明日から他国のギルドに転勤になりませんか? 私の身の安全が保証されます」
「それがないんだ。というか、いなくならないでくれ! 頼む!」
和葉はそう言いながら、仕分けされた領収書を見る。
和葉の予感は的中していた。タタの薬屋で換金した金額が書かれた領収書は、女性らしい繊細な筆跡だったタタのものとは違って、全てハウルのものだった。
カラアゲの漬けダレのレシピを横一列に書いた時に見た、元気な彼らしい力強い文字だった。
■□■□■
そうは問屋が卸さねぇ。
「やぁ」
厨房で働いているところにリーセルから呼び出しを受けた和葉は、休憩スペース近くの裏口に立っているハウルに幻かと目を擦った。満面の笑みを浮かべて、「夢じゃないよ」と、黒いコートに黒い服という、全身黒まみれのハウルが、和葉を見て一瞬硬直する。
ハウルと、初めて視線が合った。
「……初めまして、ハウルさん。私の名前は、カズハ・ハマナカという。名前、聞こえただろうか?」
「へぇ、カズハっていうんだ。興味ないけど」
彼は、すぐに黒いシャツの裾を捲り上げた。
割れた腹筋の上に黒い変な模様。何かが埋め込まれたように、赤い石のようなものが脈打つように光っている。
「何だそれ? 気持ち悪いな……」
「条件を満たさないと俺の心臓を潰しちゃう呪い。一緒に来てくれるだろう? 神様を信じている敬虔な――」
「あぁ、分かった」
ハウルの言葉を上書きするように即答した和葉に、ハウルを含めてメンバーが和葉を見る。
「いや、お前! もう少し考えろ?! 相手はフェアリーテイルのメンバーだぞ!?」デイヴィスがすぐに声を荒げた。
「でも、言う通りの呪いなんだろう?」
デイヴィスの顔が苦々しく歪む。
もう一回、デイヴィスにどんな効果があるのか説明を頼めば、術者の意思でどんな場所にいても心臓を握り潰せる呪いだと返答された。
「リーセルさん、出掛ける準備を手伝ってほしい」
「へっ?」
「目眩がする。何となくだが、この前一日中眠った日があっただろう? あの時の前兆と似ている気がする。途中で倒れたら、誰か呼びに行ってほしいんだ」
突然、指名されたリーセルが間抜けな声を上げる。自分を指差して、君だ、と一言。
「それに、君以外の他の三人だと脱走の手伝いをしてしまうだろう。ハウルさん、三〇分もらうのは問題ないか?」
「はぁーあ。何でそう偉そうなんだろうね? 一〇分までだ。俺だって死にたくない」
「この後、ボコられるんだろう? ちょっと覚悟する時間がほしい。二〇分」
「一〇分だ」
裏口の扉に背を預けたハウル。普通にオッケーもらえて驚いた。
和葉は近くにあったクリップボードを手に取って、リーセルと共に階段を上がっていった。
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