ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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英雄奪還編 後編

七章 第八十八話 北西の料理屋

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 昼下がりのボーンネル上空。ゴールはジンを抱きかかえて空を飛んでいた。

「ばあば、何処行くの?」

「二人でご飯にでも行きたくてな。ジンに会いたい奴はまだまだいたみたいだが、今だけは私のものだ」

「ほんと!? ばあばとご飯楽しみ······なんだけどガルがいないと歩けないんだ。ずっとばあばに抱っこしてもらうのも申し訳ないかな? 座るのも最近はガルに支えてもらってるから」

「寧ろその方が嬉しいが、大丈夫だ。ガルならもう向こうにいるよ」

「そっかぁ、よかった」

 ゴールはその後も暫く飛び続け、建物が多く見え始めた頃地上に降りた。場所はボーンネル北西部。ジンの暮らす南西に比べれば未だ発展途中であるものの以前よりも活気に溢れていた。

「バゥ!!」

「あっ、ガル!」

 降り立った場所にお座りしていたガルは嬉しそうにジンの元へと駆け寄った。ジンを支えるためゴールも背に乗り一向は街の中を歩き始める。

「昔に比べて随分活気に満ちてるな」

「ここはね、元々何も無くてほとんど誰も住んでなかったんだ。でも国ができてからどんどん発展していって今はこんなに凄い街になってる。みんなが幸せそうに暮らしてて私とっても嬉しい」

「······だな」

 前に座るジンの小さな背中はゴールにとって何よりも大きく、誇らしく見えていた。ジンに挨拶するためいつの間にか集まっていた人集りを抜け、一向は店へと辿り着いた。三階建ての店は旅館のような外観であり入り口にはヴァンが出迎えに来ていた。

「あれ、ヴァンがどうしてここに?」

「この店はな、南西にある俺の店の第二号店なんだぜ。ジンが来るならとびっきり美味しいもの作らねえと思ってな。さあさあ、ゴールさんもガルも上がってくれよ」

 通されたのは三階にある個室。ジンが一人でも座れるように椅子は特別仕様となっていた。ヴァンが二人に手渡したメニューにはどれも考えに考え抜かれた数十種類の料理が写真と共に載っていた。

「どれも自信作だぜ。遠慮なく頼んでくれ」

「えっと·····それじゃあ」

「料理の全メニューで頼む。ジンの飲み物はアップルジュースで私には店で一番強い酒を」

「えっ」

 ゴールの注文に二人は固まった。

「全料理って相当ですよ? ジンはそこまで食べられないと·····」

「私が九割食う。いいか? ジン」

「う、うん。そういえば、ばあば大食いだったね」

「それとガルにもいくつか作ってやってくれ」

「かしこまりました。それではごゆっくり」

 ヴァンは苦笑いをしながら厨房へと走っていった。数十分後、部屋に置かれた大きな机いっぱいに料理が並べられガルには大きな骨つき肉に生野菜の盛り合わせ、そしてミルクが用意された。二人の話には花が咲き、料理を少しずつ食べ進める。ジンとの食事に加えお酒の進むゴールは幸せに溢れ普段は見せないような満面の笑みを浮かべていた。

 しかし状態異常無効のゴールにとって強いお酒は気分を楽しむためのもの。料理を半分ほど食べた頃、ゴールは本題を切り出した。

「······なあジン、一つ聞いてもいいか?」

「いいよ」

「話はデュランから全部聞いた。本当に過去に戻るんだな?」

「うん。こんな私にも、まだ助けられる人が沢山いるから。お父さんもクレースも納得してくれてなかったんだけど決めたんだ」

「戻らなければ、長い間生きられるかもしれないんだぞ」

 ゴールはジンに対して珍しく語気を強めて言った。その態度から、ゴールもジンの決定に否定的なのは明白であった。

「お前には幸せになって欲しい」

「もう幸せだよ。それに個人的な願いだけど、どうしても助けたい人がいるんだ」

「·······両親か」

「そう。流石だね、ばあば」

「だけど二人は、娘の命を守るために死んだんだ」

「お父さんもお母さんも、それに昔の私も助ける。それでね、呪いを作ったオリバって子と話して呪いそのものが作られなかったことにするんだ。別の世界線にいた私はロードが覚醒した後、呪いで魔法を使えなかったけど、今の私ならそれもできる」

「······待てよ、その場合どうなるんだ? ジンも助かるのか?」

「過去で助けた私は呪いの影響を受けずに生き続けるよ」

「今ここにいるジンだ。目の前にいるお前はどうなる」

「大丈夫。全部上手くいくから私を信じて。ばあば、この話は終わり! 食べよ!」

 この後、ゴールが本題に関して追求することはなかった。そうして話はジンが眠っていた間に起こっていた出来事に加えトキワの結婚式についてまで発展していき最後には笑顔で店を出て行ったのだった。

「やっと食べ終わったか。もう少しで割り込むところだった」

「クレース!」

 店を出るとすぐに待ち伏せていたクレースはジンを抱きかかえた。

「二人で買い物してそのまま私が連れて帰る。独り占めは充分しただろ」

「はぁ、分かった。また後でなジン」

「うん! 美味しかった! また行こうね!」

 ゴールはクレースを前にし、はにかんだ笑顔を見せジンの頬にキスをするとアルムガルドへと帰っていった。
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