232 / 240
英雄奪還編 後編
七章 第八十一話 魔帝の意思
しおりを挟むジンの家を後にしたデュランとネフティスが向かった先は普段マニアが使用する研究室。その場にいたのは魔帝アルミラである。アルミラは二人を見ると立ち上がりゆっくりと近づいた。
「準備は完了した。状況は?」
「限界に近い状態だ。すぐにでも力を借りたい」
「本当に信用はできるのじゃろうな······と言っても疑う時間も無駄か」
アルミラは太刀を取り出しデュランに手渡す。その太刀の名はニグラム、先代魔帝から受け継いだ意思の宿る武器である。
「使用するには私が近くで作業しないといけない······それでもいいのかしら」
「問題ない。お前は今、ジンを助けるために行動してくれているんだ」
「デュラン、お主何故ロードを持ってきたんじゃ。お主には扱えんじゃろ。会話もできんぞ」
「確証はないが、確かに何かを伝えようとしている。ゴールをここに呼んだ。武器の王を介してなら話も聞ける」
(デュラン聞こえるか、私だ)
(ゴール、丁度いいタイミングに。すぐに来れるか?)
(急ぎだろ? 魔力波を通じてロードの言葉を直接お前達に伝える)
ゴールが言い終えるとロードはひとりでに鞘を抜け床に突き刺さった。
(やっと繋がった。早速だけど時間はない、まずは確認だ。魔帝の持つニグラムの能力は刃に触れた血を記憶し、その者の魂を元に擬似的な魂を作り出すだったね。そしてルシアの魂を使用しジンの意識内に介入させる。そして無理矢理にでも意識を目覚めさせる)
(ああ、その通りだ。ただそれだけだと足りない。呪いが身体の各器官に影響を与えている)
(そこで僕がジンの中に入り、内側から呪いを殺す。ただ僕が入れるかは正直賭けだ。僕が魂と一緒にジンの身体に干渉することはできないんだ。ルシアに無理矢理内側から道をつくってもらうしかない)
(分かった、お前を信じる)
「全員聞いたな。この作戦でいく」
「呪帝、私に力を貸して。この魂を身体に干渉させることは簡単よ。身体に触れさすだけでいいの。でも呪いが邪魔をする。あなたが道をつくって」
「分かった」
そして全員、大急ぎで研究室を後にする。すぐ側にあるジンの家には多くの者たちが集まり心配そうに中の様子を伺っていた。
「全員どいてくれ!! ジンの命がかかっている!! 入口を開けてくれ!!」
デュランの声にすぐさま道は開き、三人は家の中へと入っていった。
中では丁度、トキワが疑似心臓を作り出しラウムにより入れ替え作業が行われようとしていた。
「デュラン、何か策があるようね。少しだけ待って。疑似心臓を移植する」
ラウムは落ち着きジンの胸を切開するとそこには動かなくなった心臓が現れた。ゲルオードは心臓付近に付着している呪いに侵された細胞を焼き切りつつ、クリュスが心臓の周りを凍らせることで呪いの侵食を遅らせた。ラウムは慎重に心臓を取り出しすぐさま疑似心臓を移植する。トキワが作り出した疑似心臓にはガルド鉱石を埋め込まれ魔力が血液をおしだすポンプの役割を果たしていた。
「うまく行っているわ。ゆっくりとだけど血液が全身に行き渡るはずよ」
「なぜ女神が?」
「味方よ。こちらも何故魔帝がいるのか聞きたいけれど····まあいいわ」
アルミラの姿を見たトキワやボルは一瞬戸惑うがすぐに受け入れデュランは皆に作戦を伝えた。
**********************************
クレース対魔王カーンの激戦は突然時が止まったように中断した。カーンの放つ呪いを宿した攻撃は確かにクレースへと直撃した。しかし攻撃を受け倒れたのはカーンであったのだ。
「貴様ッ! 何をした!」
「そのくらい自分で考えてみろ」
(私の放った攻撃がそのまま反射された。ありえない、反射など出来るものではない。待て、奴の持っている武器は······あの武器に宿っている武器は「威雷」か!?)
「ようやく気づいたか、もう遅いがな」
「初めて見た。ロードに続く開闢の意思。自身の受けた攻撃を取り消し対象に反射させる。単純だが攻略法は存在しない。なぜ貴様のような獣人が持っている。その意思は本来、我のように選ばれた者が持つべきものだ。ただの獣人ごときが······図に乗るなよッ——」
「カーン様!!」
その時、カーンの背後から四人の魔族が現れた。魔王の側近であるミレム達四人はカーンを守るようにしてクレースの前に立ちはだかった。
「ご無事ですか魔王様。この者は我ら四人に任せて····」
「貴様達が退がれ」
「ッ————」
カーンは呪いが身体に侵食し始める中、平然と立ち上がり四人の背中を掻き分け真っ直ぐクレースの元へと歩いていった。
「残念だったな。魔族に呪いは通用せん。数分もすれば私の身体に入った呪いは自然消滅する。我らは脆弱な人間とは根本的に違うのだ。そうして貴様ら下等種族はじきに淘汰される。呪いにより選別され我ら魔族の時代が来るぞ」
「その前に私に殺されると思わないのか」
「舐めるなよ獣人の分際で!·····やはり貴様らはあの日、グレイナルではなく我の手で下すべきだった」
「······あの日、グレイナル」
終始カーンの言葉に対し淡々と切り返していたクレースは初めて言葉に詰まった。先代魔帝、マギス・グレイナル。ルシアとデュランの命を奪ったその人物の名をクレースは確かに覚えていた。自身の手で葬ったグレイナルを思い出しクレースははらわたが煮えくり返るような感覚に襲われた。
戦闘開始後、初めて目撃するクレースの焦った様子。カーンは愉悦し噛み締めるようにその表情を見つめた。
「黒幕はお前だったのか。いいや、当然疑うべきだったか」
話の最中に入り込んだ呪いは自然状滅し完全回復した状態でカーンは再びクレースの前に立ちはだかった。
「貴様はまた守れんのだ。あの人間は死ぬ。あの日死んだ両親のように、いいやさらに凄絶な最期を迎えるだろう!!」
————ゴトッ
高々と言い終えたカーンの近くで何かが鈍い音を立てて落下した。黒い雷がカーンの視界を横切り視界の下には大量の血が見える。その目に映り込んだのはミレム達四人の生首。四つの生首は状況も理解できないままカーンをジッと見つめ塵と化していった。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説

スコップ1つで異世界征服
葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。
その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。
怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい......
※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。
※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。
※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。
※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
【草】限定の錬金術師は辺境の地で【薬屋】をしながらスローライフを楽しみたい!
黒猫
ファンタジー
旅行会社に勤める会社の山神 慎太郎。32歳。
登山に出かけて事故で死んでしまう。
転生した先でユニークな草を見つける。
手にした錬金術で生成できた物は……!?
夢の【草】ファンタジーが今、始まる!!
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる