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英雄奪還編 後編
七章 第八十話 幽明の間
しおりを挟む巨大な結界が大陸を覆う少し前。マニアはニルギス達の元へと到着していた。覚悟の決まったマニアの表情はいつになく真剣であり天から差し込む光をゆっくりと見つめていた。装備する杖はこの日のためにゼフが用意した特注品。四人の帝王がいる中、マニアの存在感は人目を引いていた。
「マニアちゃん、あとは頼んでいいんだよな!! 俺らそろそろ限界だぜ!!」
「ええ、問題ありません」
普段のマニアとは違い、言葉の節々から落ち着きが見られた。帝王四人とも天から降り注ぐ光線を受け止めるほどの魔力は既に残っていない。限界近くまで上昇していた光線の威力は防御壁の悉くを破壊しその場にいた者たちの身体はボロボロの状態になっていた。
そして放たれる光線。ニルギスがマニアに呼びかけようとした瞬間、光線は一瞬にして消滅した。誰がやったことなのか疑う余地がないほどにマニアの放つ強大な力は常軌を逸していた。そしてマニアは静かに全員へと魔力波を繋げる。
(どうか、ジンちゃんの元へと向かってください。彼女は今、世界中のみんなを助けようと必死に呪いと戦っています。足を引き摺ってでも、魔力がなかったとしても彼女の元へと向かってください。きっとその思いが彼女の支えになります。ここは全て私に任せてください)
マニアの言葉を受け止めた皆は再び士気を取り戻し、息を吹き返すようにして大きな雄叫びを上げた。四人の帝王は頷き鼓舞するようにしてマニアの背中を強く叩いた。そして皆を引き連れボーンネルの方角へと進んでいく。マニアは天を見上げたまま強く祈りを捧げた。
(今の私ならきっとできる。ジンちゃんのいるこの世界は誰にも壊させない)
再び空は眩い光を放ち、マニアの頭上に降り注ごうとしていた。
「神級魔法———」
マニアの魔力に応えその頭上には複数の魔法陣が展開される。魔法陣の大きさは天に近づくにつれ巨大化していき数秒のうちに国土を呑み込んだ。
「幽明の間」
放たれた光線は国一つを消滅させるほどの威力を持つ。しかしマニアの創り出した巨大な結界は最も容易くその光線を掻き消した。
「みんなのいるこの場所は誰にも傷つけさせたりしない」
マニアの強い意志を反映するようにして連なる数多の結界は大陸を囲い空を飛ぶ魔族達を消滅させる。息つく間も無く視界に飛び込んできた光景にマニアは目を見開いた。
「クレース!」
魔王とクレースの剣戟はまるで光線の衝突。そんな戦闘の最中、クレースはマニアを一瞥した。そのアイコンタクトのみでマニアは全てを悟りすぐさま振り返るとジンの元へと向かっていった。
*********************************
「まさか、これ程の者が存在したとはな!! いいぞ!! もっと本気を出せ!!」
「··········」
興奮する魔王とは裏腹にクレースは落ち着いていた。剣術のみで考えればカーンの実力はクレースの足元にも及ばない。クレースの視界に映るカーンの剣筋はまるでスローモーションで動いているかのように見えた。
「勝利を決定するのは剣術ではない、能力が全てを決定する。これならどうだ獣人!!」
目を血走らせカーンは複製体を生み出した。カーンが生み出した複製体は目の前にいるクレースをコピーしたもの。二体一の状況を作り出し満足げなカーンは高々と笑った。
「この能力は、龍帝の兄が所持していた能力だ。しかし我の能力は一つではない! 貴様を殺す術は無限にッ——」
「————雷震流、黎明」
「······は?」
カーンの隣に立っていたクレースの複製体は動き出す間も無く一撃で消滅していた。状況が理解できないまま、カーンが無理矢理に頭を回転させ次の一手を考える。そしてすぐさま数百人の複製体を出現させた。
「行け! 彼奴を抹殺しろ!」
カーンは力を溜め、複製体を肉壁にし時間を稼ぐ。魔力は数秒も経たず一点に集約しカーンはクレースに照準を合わせる。
「獣人、貴様の隙をついての攻撃など不可能·····とでも思ったか?」
「———!」
手早く複製体を切り倒すクレースは突然その場に立ち尽くした。
「ジンの······複製体」
クレースの動きが僅かに鈍った瞬間、カーンは魔力を光線にし発射した。光線はクレースの胸に直撃し、カーンはニタリと笑みを浮かべる。
「ハッハッハァ!! その光線を受けた者は呪いにかかるぞ。勿論、ジンというガキがかかっている呪いと同じものだ。よかったなぁ」
呪いを纏った光線。数万年に一度という制限はあるもののカーンに迷いはなかった。
そしてたカーンは満足げに笑みを浮かべジンの複製体を隣に引き寄せた。
「こいつの能力は強い·····いや、強かっただな。今となれば魔力も持たぬただの人間。複製体もこれでは使い物にならん。肉塊当然だ」
クレースに見せつけるようにしてカーンはジンの複製体を殴りつけた。
(怒れ、貴様のような強者の敗因は感情に左右され冷静さを失った時)
「お前、私に勝てないと悟ってこんな真似をしているのか。惨めだな」
「あぁ?」
カーンはクレースを強く睨み付けジンの顔面を激しく殴打した。
「気に入らないことがあればものに当たる。まるでガキだろ。少なくともジンの幼少期は今のお前よりも落ち着いていた。それで魔王を名乗るのだから、面白い。本当に面白い奴だよな、お前は」
「貴様、状況を理解できていないようだな。このまま貴様は死ぬ。呪いにかかり無力な人間になり死ぬのだ。そして貴様の能力は我が手······」
しかし突然、カーンは脈打つような激しい痛みに襲われ膝をついた。
「どうだ、呪いにかかった感覚は」
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