ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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英雄奪還編 後編

七章 第七十四話 複製体の出現

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 ボーンネルに出現した複製体は一瞬にして国中に広がり混乱を引き起こしていた。いち早く動き出したゼグトスとクリュスにより確認された複製体は既に五千人を超え被害を出し始める。そしてマニアの複製体が消滅し、暫くするとクリュスの魔力波が国民全員に伝わった。

(こちらクリュス。現在敵の手により我々の複製体が出現中。実力はオリジナルの五割から六割程度。複製体の見分け方は未だ不明です。そのため、今ここで合言葉を設定します。合言葉は———)

 クリュスの魔力波が伝わった直後、慌てた様子のガルミューラから魔力波が伝わる。

(報告ッ———ボルの複製体により街中の機械兵及びエルダン率いる剛人族が全滅! ヒュード族だけでは足りない!! 至急応援を頼む!!)

(こちらラルカ。龍化した龍人族が百体以上出現、被害は甚大です! 至急応援を!)

(ゴメン。ボクの複製体はボクがタオス)

(フハハハハ! 龍が相手ならば我が相手だな! この我に任せろ!!)

(こちらゼグトス。何者かの手によりモンドへの道が封鎖中、中にいる住人の安否は不明。これにより外の住人は一時私の結界領域に避難を)

 混乱が広がる中、レイはモンド内に閉じ込められていた。出入り口に加え内外へ通じる転移魔法陣が全て機能しなくなっていたことに気づいたレイは住民を安全な最深部へ避難させた後、ある部屋へと入っていった。木々が広がるその部屋は高濃度の魔力に満たされ常人であれば数分も居続けることができない。そんな空間に向かいレイは呼び掛けた。

「みんな! 手を貸してくれ!!」

「··········」

 レイが呼び掛けた数秒後、地面は揺れ動き森の中から巨大な魔物達が出現する。モンドに発生した魔物達の強さは野生の魔物達とは比にならない。Sランクの魔物で溢れ返るこの空間にレイは慣れていた。しかし、後方からゆっくりと近づいた存在にレイの息が詰まる。

「····お前は?」

 レイの問いに応えるようにして巨大な魔物はその身体を収縮させた。

「私は気高きジン様に仕える存在。ジン様からグリンという名を頂きました。どうやら急を要する事態のようですね」

(この魔物······Sランクか? いや、私では到底勝てる相手じゃない。まさか····)

「ご安心を、ジン様のお仲間を傷つけるつもりはありません」

 グリンはまるでレイの心を読んだかのようにそう答えゆっくりと歩き始めた。

「ジン様の命に関わる事態。どれだけ強大な力を持ったとしてもあの方を守り切れなければ無意味」

「····待て」

 その険しい表情に何かを感じ取りレイは反射的にグリンを引き留めた。

「お前には何が見えている」

 レイは無意識にそう問いかけていた。グリンは微笑みレイを見る。

「変わることのないこれからの全てを。しかし、変えなければなりません。私は生まれて初めての感情に突き動かされ、今動いています」

 グリンは言い終えると魔物を引き連れ部屋を後にする。レイは言葉の意味をゆっくりと噛み砕きグリンに続いて外に出た。


 ************************************


 魔族が攻め込む少し前。ウィルモンドの中でデュランは一つの可能性についてゴールとゼフと共に話していた。

「つまりはお主のいた世界のジンが死んだ後もこちらの世界に干渉しているということか?」

「可能性としてはかなり高い。主な理由は二つだ。一つはジンの死後、俺のいた世界にあった呪いは暴走することなく消え去った。普通なら暴走し魔族以外が全滅するほどの力を持っていたはずだ。そして二つ目は魔力波を通じてジンらしき声を聞いた者がこの世界に多くいること。もちろん、ジンに出会う前の者やトキワが魔力波を作るよりもずっと昔に聞いたことがある者だ。緋帝もその一人だな」

「少なくとも一つ目の理由については呪いにかかっていたジンが関係していると考えるべきか」

「そうだな。それに呪いを作った張本人の魔族に解呪の方法を聞き出したが、あまりいい答えは得られなかった」

「というと?」

「呪いを消す手段は呪いを宿す者、つまりジンという存在の抹消しかない。しかしそんなことをできるやつは中々いない。向こうの世界で呪いが消え去ったわけではなくここへ呪いが移動してきたと考えるべきだと俺は思う」

「存在の抹消か······ふざけやがって」

「ここやモンドでの蘇生も考えたが呪いの性質上厳しいものがある。もちろんネフティスと協力して解呪の方法は探すつもりだ。それにまだ手はある。諦めるわけにはいかない」

「······ジンのところに行ってくる。ゼフ、ここは任せたぞ」

「ああ」

 ゴールにいつもの冷静さはない。不安は険しい表情と重たい足取りに現れ二人はその背中が見えなくなるまで黙って見つめていた。そしてゴールと入れ替わるようにしてネフティスがその場へとやって来る。

「ネフティスか、どうだった」

「嘘はついていなかったようだ。あの呪い自体、まるで自我を持っているかのように動いておる上に再生能力を持っておる。証拠にゆっくりではあるが相殺した特殊文字が勝手に修復を始めておる。じゃがこれはある程度解呪を進めなければ分からんかったことじゃ。仕方があるまい」

 飄々と放った言葉とは裏腹にネフティスは悔しさを押し殺すようにして唇を噛みしめた。

 デュランの脳裏には一人の存在が過ぎる。デュランの知る限り、生きている存在を消し去る、そんな神のようなことができるのはただ一人であった。
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