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真実の記憶編
六章 第二話 また君に逢いに行く
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「ジン、ゼフおじいちゃんが帰ってきたぞ~」
「おかえい!」
ゼフはこの頃、今にも増してジンにデレッデレだった。とある理由で意思の宿る地、ウィルモンドとボーンネルを行き来しているためゼフは一日中ボーンネルの鍛冶場にいるわけではない。とはいうもののこちらの世界にほとんど身を置いておりウィルモンドにはたまにしか行かない。
「みてみて!」
「おお、こやつは····見たことのない種類じゃな」
ゼフにとってガルは初めてみる種族だった。見たことがないような毛並みに目の色、それにただのオオカミと分類してしまっていいのかと思うほど、小さなガルからかなりの魔力が感じられたのだ。
興味が湧きジンの顔の位置までしゃがみ込みじっくりとガルを観察しているとジンの満面の笑みがバッと視界に入ってきた。
「ガルなの」
「そうかそうか、ガルか。もう仲良くなれたか?」
「うん!」
ガルは小さな顔に一本の骨を咥えてお腹を見せながらジンの手のひらを転がっていた。おそらく生まれてまだ半年も経っていないように思えるほどで痩せ細った身体をみると随分前に親と離れたのだと容易に想像できた。
「どうやら私の骨が好きなようでして、いやあ光栄ですね」
「まあ身体を見るに異常なところは無さそうじゃが、もっと食わせてやらんとな。世界一優しい子に拾われてこの子も幸せじゃろう」
ゼフはそう言いながら部屋をぐるりと見渡した。今となっては無くなったが、ジンは家族三人でクレースたちも一緒に泊まれるような大きな家に住んでいた。今はインフォルも地上に出てきており全員が家の中にいる。食事の時は、そしてそれ以外でもここに集まっているのだ。そしてゼフにとってこの光景は一番のお気に入りだった。
この時、外部との接触と言えるものは唯一トキワとボルの二人が外に出て依頼を受けに行くことと周りに必要なものを買いに行くだけだった。
そしてそれ以外は外部との関わりをほとんど持つことはなかった。理由は単純で必要がなかったからだ。必要なものは全て揃っており、幸せはいつでもジンが運んでいた。誰もがそれで良かったのだ。
「それでよ、最近は魔帝の侵攻に即した依頼が多いんだよ、楽な割には報酬が弾むぜ」
「だからって、危険なことばかりしちゃ駄目よ」
「大丈夫だよ、この世界はモロイ」
「おかあさん、だっこ」
「いっぱい食べられたかな?」
「うん! ガルもおなかいっぱいなの!」
「ジン、お父さんと一緒に、面白いところに行かないか?」
突然、デュランがジンの視界に入ってきた。
「おもしおい?」
「そうだ、今からみんなで行こう」
「ガルも!」
「そうだ、ガルも一緒に行こうな」
「バゥ!!」
「そうだな。ジン、少し目を瞑っていられるか?」
「うん! ガルも!」
ギュッと目を瞑ってルシアにギュッと抱きついた。
「どこに行くんだ?」
「今が見頃のところだ、ジンは初めて見る景色かな」
「もうあけていい?」
「ま、まだ家の中だからな。寝ててもいいぞ」
「うん!」
ジンにとって外の世界は未知の領域だった。ルシアは過保護気質が強かったためほとんど一人で外に出るということもなく、ジンにとっての世界は家の中や庭だけだったのだ。
その頃、季節は秋だった。暑くもなく寒くもないちょうどいいくらいの気温の中、全員である場所へと向かった。
「奥はエルフがいるから入るわけにはいかないな、ここら辺でいいか」
「おお、綺麗じゃな。ジンは寝てしまったか」
「ええ。ジン、着いたよ起きて。お母さんがアップルジュースを飲んじゃうぞ~」
「はッ!」
目を開けると同時にジンの視界には明るい光とともに真っ赤な何かが目に入ってきた。それは見たこともない綺麗な景色だった。目の前には真っ赤な紅葉が広がり地面には飛び込みたくなるような落ち葉が辺り一面に敷き詰められていた。エルフたちが住んでいないシュレールの森、入り口付近に来ていたのだ。
「うわぁ!! まっか! まっか!」
「そうだね、真っ赤だね」
顔に眩しいほどの笑みを浮かべて目の前に広がる真っ赤な世界に目を輝かせた。
「—クシュン!」
「大丈夫? 少し風があるわね」
「おいたい!」
落ち葉が敷かれた地面を踏むと感じたことのないような気持ちのいい踏み心地がした。そして確かめるようにして同じ場所に立ち何度も足踏みをした。
「ふかふかぁ」
「足踏みしてるジンもかわいいなあ」
「あそぶ!」
ガルを抱えて全員が見守る中、美しい真っ赤な景色にジンは走り出していった。
「あんまり遠くに行かないでね~」
紅葉が生い茂っている木々に近づき根元でしゃがむと落ち葉の下にうごめいている何かが見えた。
「なにこえ」
指で優しくつつくと葉は応えるようにしてもう一度動き、もぞもぞとし始めた。
「あぅ····」
ガルが鼻で葉を裏返すとそこには小さな木のかけらのようなものがあった。ジンの細くて手のひらにも満たないような大きさの木のかけらは近くでよく見ると人のような形をしている。
(こんにちは)
「ガル、ちゃべった?」
ジンの頭の中には誰かの声が聞こえてきた。
(ぼくがしゃべったんだよ)
「もっかい」
(もっ、もう一回?)
今度は耳を塞いでみたがやはり声が聞こえてきた。
「だーれ?」
(ぼくは目の前にいる小さな存在。君のお名前は?)
「ジン!」
よくは分からなかったが、ジンは取り敢えず聞かれるままに答えた。そして目の前の木のかけらを優しく包み込むようにして手に取り耳の近くに寄せた。
(そうそう、それがぼくだよ。本当はもう少し大きかったんだけど、色々あってね)
手の中に収まっていたその木のかけらはその小さな手を大きく広げ自分であることを身体全身で表現した。
「どーぞ」
右手に持っていたアップルジュースをその木の近くまで持っていき、飲みやすいように顔のすぐそばに置いた。
(くれるの?)
「うん!」
その木は自分の手を少し変形させて入れ物のような形を作り出し、ジュースをすくうとゴクリと飲み干した。
「おいし?」
(うん、とっても美味しいよ! ジンは優しいんだね)
その木はジンの手のひらに乗って真っ赤な瞳をジッと見つめた。
「いっしょいく?」
(······そうだなぁ、出来れば一緒に行きたいけどね。ぼくはもう少しでいなくなっちゃうんだ。ぼくはね、実は木人族という種族なんだ。ぼくたち種族はあまり数がいないんだけど、数百年に一度生まれ変わることで命を繋いでいくんだ)
「······うーん」
(そんなに悲しそうな顔はしなくていいよ、死ぬわけじゃないんだ。丁度今から土の中で眠ろうとしていたんだ、その前に君に会えてとても嬉しったよ。ぼくにも次いつ起きられるか分からない、記憶のほとんどは失われて、今の君との思い出も失われるかもしれない。
「かなしぃ」
(うーん····じゃあそうだな、君のお誘いは生まれ変わったぼくにお願いしよう)
「ほんと?」
(ああ、本当さ。君はこれからも優しい君でいてね)
大きく頷き、その木の頭を優しく撫でた。
「おなーえは?」
(そうだ、まだだったね。ぼくの名前はブレンド)
ブレンドはジンの細い指にギュウッと抱きつくと手のひらから降りた。
「····ばいばい」
(バイバイ、生まれ変わったらぼくは必ず君に会いにいく。あっ、そうだ。ぼくと会ったことは信頼できる人以外には話しちゃ駄目だよ)
「わかった!」
(じゃあね)
ブレンドはもう一度ジンの顔をと見て、後ろに振り返ると大きく手を振って落ち葉の裏に消えていった。
「いっちゃった」
「ジン、どうしたんだ? こっちにおいで」
「ブレンド!」
クレースに呼ばれ、無意識のうちに落ち葉の方を指差し、その名前を口に出していた。
「おかえい!」
ゼフはこの頃、今にも増してジンにデレッデレだった。とある理由で意思の宿る地、ウィルモンドとボーンネルを行き来しているためゼフは一日中ボーンネルの鍛冶場にいるわけではない。とはいうもののこちらの世界にほとんど身を置いておりウィルモンドにはたまにしか行かない。
「みてみて!」
「おお、こやつは····見たことのない種類じゃな」
ゼフにとってガルは初めてみる種族だった。見たことがないような毛並みに目の色、それにただのオオカミと分類してしまっていいのかと思うほど、小さなガルからかなりの魔力が感じられたのだ。
興味が湧きジンの顔の位置までしゃがみ込みじっくりとガルを観察しているとジンの満面の笑みがバッと視界に入ってきた。
「ガルなの」
「そうかそうか、ガルか。もう仲良くなれたか?」
「うん!」
ガルは小さな顔に一本の骨を咥えてお腹を見せながらジンの手のひらを転がっていた。おそらく生まれてまだ半年も経っていないように思えるほどで痩せ細った身体をみると随分前に親と離れたのだと容易に想像できた。
「どうやら私の骨が好きなようでして、いやあ光栄ですね」
「まあ身体を見るに異常なところは無さそうじゃが、もっと食わせてやらんとな。世界一優しい子に拾われてこの子も幸せじゃろう」
ゼフはそう言いながら部屋をぐるりと見渡した。今となっては無くなったが、ジンは家族三人でクレースたちも一緒に泊まれるような大きな家に住んでいた。今はインフォルも地上に出てきており全員が家の中にいる。食事の時は、そしてそれ以外でもここに集まっているのだ。そしてゼフにとってこの光景は一番のお気に入りだった。
この時、外部との接触と言えるものは唯一トキワとボルの二人が外に出て依頼を受けに行くことと周りに必要なものを買いに行くだけだった。
そしてそれ以外は外部との関わりをほとんど持つことはなかった。理由は単純で必要がなかったからだ。必要なものは全て揃っており、幸せはいつでもジンが運んでいた。誰もがそれで良かったのだ。
「それでよ、最近は魔帝の侵攻に即した依頼が多いんだよ、楽な割には報酬が弾むぜ」
「だからって、危険なことばかりしちゃ駄目よ」
「大丈夫だよ、この世界はモロイ」
「おかあさん、だっこ」
「いっぱい食べられたかな?」
「うん! ガルもおなかいっぱいなの!」
「ジン、お父さんと一緒に、面白いところに行かないか?」
突然、デュランがジンの視界に入ってきた。
「おもしおい?」
「そうだ、今からみんなで行こう」
「ガルも!」
「そうだ、ガルも一緒に行こうな」
「バゥ!!」
「そうだな。ジン、少し目を瞑っていられるか?」
「うん! ガルも!」
ギュッと目を瞑ってルシアにギュッと抱きついた。
「どこに行くんだ?」
「今が見頃のところだ、ジンは初めて見る景色かな」
「もうあけていい?」
「ま、まだ家の中だからな。寝ててもいいぞ」
「うん!」
ジンにとって外の世界は未知の領域だった。ルシアは過保護気質が強かったためほとんど一人で外に出るということもなく、ジンにとっての世界は家の中や庭だけだったのだ。
その頃、季節は秋だった。暑くもなく寒くもないちょうどいいくらいの気温の中、全員である場所へと向かった。
「奥はエルフがいるから入るわけにはいかないな、ここら辺でいいか」
「おお、綺麗じゃな。ジンは寝てしまったか」
「ええ。ジン、着いたよ起きて。お母さんがアップルジュースを飲んじゃうぞ~」
「はッ!」
目を開けると同時にジンの視界には明るい光とともに真っ赤な何かが目に入ってきた。それは見たこともない綺麗な景色だった。目の前には真っ赤な紅葉が広がり地面には飛び込みたくなるような落ち葉が辺り一面に敷き詰められていた。エルフたちが住んでいないシュレールの森、入り口付近に来ていたのだ。
「うわぁ!! まっか! まっか!」
「そうだね、真っ赤だね」
顔に眩しいほどの笑みを浮かべて目の前に広がる真っ赤な世界に目を輝かせた。
「—クシュン!」
「大丈夫? 少し風があるわね」
「おいたい!」
落ち葉が敷かれた地面を踏むと感じたことのないような気持ちのいい踏み心地がした。そして確かめるようにして同じ場所に立ち何度も足踏みをした。
「ふかふかぁ」
「足踏みしてるジンもかわいいなあ」
「あそぶ!」
ガルを抱えて全員が見守る中、美しい真っ赤な景色にジンは走り出していった。
「あんまり遠くに行かないでね~」
紅葉が生い茂っている木々に近づき根元でしゃがむと落ち葉の下にうごめいている何かが見えた。
「なにこえ」
指で優しくつつくと葉は応えるようにしてもう一度動き、もぞもぞとし始めた。
「あぅ····」
ガルが鼻で葉を裏返すとそこには小さな木のかけらのようなものがあった。ジンの細くて手のひらにも満たないような大きさの木のかけらは近くでよく見ると人のような形をしている。
(こんにちは)
「ガル、ちゃべった?」
ジンの頭の中には誰かの声が聞こえてきた。
(ぼくがしゃべったんだよ)
「もっかい」
(もっ、もう一回?)
今度は耳を塞いでみたがやはり声が聞こえてきた。
「だーれ?」
(ぼくは目の前にいる小さな存在。君のお名前は?)
「ジン!」
よくは分からなかったが、ジンは取り敢えず聞かれるままに答えた。そして目の前の木のかけらを優しく包み込むようにして手に取り耳の近くに寄せた。
(そうそう、それがぼくだよ。本当はもう少し大きかったんだけど、色々あってね)
手の中に収まっていたその木のかけらはその小さな手を大きく広げ自分であることを身体全身で表現した。
「どーぞ」
右手に持っていたアップルジュースをその木の近くまで持っていき、飲みやすいように顔のすぐそばに置いた。
(くれるの?)
「うん!」
その木は自分の手を少し変形させて入れ物のような形を作り出し、ジュースをすくうとゴクリと飲み干した。
「おいし?」
(うん、とっても美味しいよ! ジンは優しいんだね)
その木はジンの手のひらに乗って真っ赤な瞳をジッと見つめた。
「いっしょいく?」
(······そうだなぁ、出来れば一緒に行きたいけどね。ぼくはもう少しでいなくなっちゃうんだ。ぼくはね、実は木人族という種族なんだ。ぼくたち種族はあまり数がいないんだけど、数百年に一度生まれ変わることで命を繋いでいくんだ)
「······うーん」
(そんなに悲しそうな顔はしなくていいよ、死ぬわけじゃないんだ。丁度今から土の中で眠ろうとしていたんだ、その前に君に会えてとても嬉しったよ。ぼくにも次いつ起きられるか分からない、記憶のほとんどは失われて、今の君との思い出も失われるかもしれない。
「かなしぃ」
(うーん····じゃあそうだな、君のお誘いは生まれ変わったぼくにお願いしよう)
「ほんと?」
(ああ、本当さ。君はこれからも優しい君でいてね)
大きく頷き、その木の頭を優しく撫でた。
「おなーえは?」
(そうだ、まだだったね。ぼくの名前はブレンド)
ブレンドはジンの細い指にギュウッと抱きつくと手のひらから降りた。
「····ばいばい」
(バイバイ、生まれ変わったらぼくは必ず君に会いにいく。あっ、そうだ。ぼくと会ったことは信頼できる人以外には話しちゃ駄目だよ)
「わかった!」
(じゃあね)
ブレンドはもう一度ジンの顔をと見て、後ろに振り返ると大きく手を振って落ち葉の裏に消えていった。
「いっちゃった」
「ジン、どうしたんだ? こっちにおいで」
「ブレンド!」
クレースに呼ばれ、無意識のうちに落ち葉の方を指差し、その名前を口に出していた。
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