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英雄奪還編 前編
五章 第十八話 もう友達なので
しおりを挟む(どうやら閻魁が言うには敵と戦っていただけみたいだぜ。あの黒い空間を使うやつだ)
(分かった、ちょっと凹んでると思うから慰めておいて)
(了解だ)
(ジン様、お部屋にお邪魔しても?)
(入ったら斬るぞ)
(あはは、また明日ね)
メイルさんが用意してくれた寝室はかなり広い部屋に一人用のベッドが四つある。クレースとレイ、ゼステナの分に加えてパールとガルは同じベッドに入る。ちなみにブレンドは寂しくならないようにゼフじいの家に泊まっている。ベッドは四つあるものの今は四つとも横並びにしてくっつけ、巨大な一つのベッドが完成していた。気づけば無言で移動させられていたのだ。
「ふかふかあ」
パールはベッドの中に吸い込まれるようにして落ちていった。いいや、正確にはベッドとベッド間の隙間に挟まれ呑み込まれていったのだ。ベッドはふかふかで弾力性もあり、まるでわたあめの上に寝転がっているようだった。ガルもその隣で心地良さそうに眠っている。
「うーん、今度ラルカに同じベッドをつくってもらいたいなあ。クリュス姉も喜ぶと思うし」
ゼステナだけでなくレイも静かに興奮しているのが分かった。特訓の時には見せないようなほどけた顔だ。
そうしてゼステナとレイの二人も目を瞑ると吸い込まれるようにしてベッドの中で眠りについた。先程色々とありバタついたが、すっかり夜遅くなりもういつもの眠る時間だ。部屋の明かりは消して蝋燭一本のみだけを残しすぐ側に置いた。なので部屋の中の光は蝋燭の火の光と窓から差し込んでくる光だけだ。窓は開いており、涼しく心地いい風が入ってきて夜特有のにおいとともに不思議な感覚がする。
少し目を瞑っていると頭が優しく持ち上げられ首元が温かい何かに触れた。そして目を開けるとクレースの顔が視界に入ってきた。膝枕の状態になっていたのだ。クレースはかわいいパジャマを着ていつもとは違う雰囲気だ。寝るときもつけてくれているペンダントがきらめいている。こっちを向いて優しく笑いながら前髪をなぞるようにして丁寧に撫でてくれた。やっぱりここは安心する。お母さんの膝の上みたいだ。
でも少し落ち着きがないような感じがした。何かに焦って何かを堪えているような感じだ。そう思って再び目を瞑りしばらくすると、頬にポツリと何かが落ちた。ぽたぽたと何滴か落ちてきたので天井から水滴が落ちてきたのかと思い目を開けると、予想とは違った。
「······クレース?」
クレースがこちらをじっと見つめながら涙を流していた。クレースから流れた涙が頬を伝ってこちらに落ちてきていたのだ。こちらが気づくとクレースはハッとなり涙を拭いた。
「何か、あったの」
「いいや、何も無い」
クレースは自分で気づいていないようだったが、顔を見ればすぐに誰でも驚いていることが分かる。
「でも、何もないのにそんな」
「ジン、今日はもう寝よう」
そしてクレースは誤魔化すようにして膝からジンの頭を降ろして寝転び、そのまま抱きついて眠りについた。
翌朝、自室で昨日現れたラグナルク達の魔力から居場所を突き止めようとしていたネフティスの元にメイルがやってきた。
「ネフティス様、ジン様たちがお帰りになられますよ」
「そうか······まあ来てから迷惑しか被っておらんがのう」
自室で考え事をしていたネフティスは面倒くさそうに立ち上がり扉の前に立った。そして扉を引いて下を見ると丁度下からネフティスを見るジンと目が合った。
(フン、本当に小さいやつじゃの。子どもか)
ネフティスの身長は特別高いというわけでは無かったがそれでもネフティスの胸より下に頭があるほどで身長差はかなりあったのだ。
「帰るのではなかったのか。ここはわしの部屋じゃぞ人間」
「見送ってくれようとしてたの?」
宝石のような真っ赤な瞳を眩しく感じ、ネフティスは遮るようにしてそっぽを向いた。
「外の空気を吸いにいくだけだ」
(ネフティス様は前に本で読んだツンデレキャラというものなのでしょうか)
「じゃあ帰る前に一つだけお願い聞いてよ」
「願いじゃと?」
「うん。人間じゃなくてジンって呼んで」
「······すまんが無理じゃ。わしは人間のガキが一番嫌いじゃからな」
「子どもじゃない。もう19歳と六ヶ月だもん」
「そうか、わしからすればガキじゃな人間」
「違う、ジン。二文字だからこっちの方が呼びやすいでしょ」
「気が向いたらな」
「····それと迷惑かけてごめんなさい。取られたのは私が必ず取り返すよ」
「ああ、期待はしておらんがな。閻魁にも言っておけ」
「うんそれじゃあ行くね、ありがとう。いつか呪いが解けたらちゃんと名前で呼んでね」
そしてネフティスはそれ以上何も言うことなく外に出ていった。
「愛想のない人で申し訳ありません。また来てくださいねジン様、いつでもお待ちしております」
こうしてメイルさんや城にいた夜士族の人に見送られ転移魔法陣を使ってあっという間にボーンネルへと戻っていった。無理矢理自分を納得させるみたいだけど、今回事前に考えていた目的を何も達成することのできないままなのはただの力不足だ。また今度にしよう。
それよりも問題なのは敵が動き出したことだ。ラグナルクが現れたというのは既にボルが魔力波でベオウルフに伝えてくれた。どうやらベオウルフも急にラグナルクの魔力が現れたことに気づいており正確な居場所を探していたそうだ。
そして最も厄介に思えたのが天生をしたと思われるラグナルクだ。天生自体が厄介とも言える。前回あった時よりもかなり強くなっているようだったので、おそらく帝王くらいの強さの人が天生して敵側につくなどということがあれば大変なことになる。
天使の力を身に宿す天生については魔力波を通じてベオウルフから詳しく聞いた。まず天生を行う手段としては、天使が自身で選んだ者に対して時間をかけ力の全てを譲渡する。そしてこの際、天生する者からの了承などは必要ないが時間が必要になるものなので無理矢理力で抵抗されれば天生はうまくいかない。裏を返せば力がない者は強制的に天生させられる危険があるということだ。この天生をすれば天使は地上において受肉することができ安定した存在になれる。
天使が強ければ強いほど天生体は上位存在へとなるため今回ラグナルクについた天使は少なくとも上級天使の可能性が高い。そしておそらくこれからあの黒い空間を使う人や他の敵も天生体になると思われる。
まあ考えるのはやめて今は頑張って仕事をしてくれていたクリュスと話をしに行こう。
しばらくして集会所に行き総合室の扉の前まで来ると声が聞こえてきた。ゼグトス、ゼステナ、クリュスの三人の声だ。
「それで、いつ帰るんですか」
入ろうと扉に手をかけた時、ゼグトスの気になる声が聞こえてきた。なので手を離しそのまま扉の前に止まった。
帰る? 帰るって誰のことだろう。
「ゼステナ、あなたは各部隊の編成に加え武具の輸入などこの国における軍事の大幅強化を実現しました。クリュス、あなたは小国相手ですがそれなりに成果を出して帰ってきました。私があなた達二人をこの国にくるように誘ったとき私に言いましたよね、クリュス、ゼステナ。興味本位の暇つぶし程度で行く、少し手伝えば帰ると。あなた達に仕えていた龍はどうするのですか、すぐに帰ると言って置いてきたままでしょう?」
これは聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。確かにゼグトスが急に連れてきた二人は元いた場所でやることもあっただろう。二人の元に仕えている龍がいるということは初耳だけどその事実があるのなら私が二人を無理矢理この場に止めることはできないのだ。こうなるとは考えていなかったが二人がいなくなるのは悲しい。
クリュスとゼステナは頷くことも相槌を打つこともなくゼグトスの言葉を聞き静かになった。そして先にクリュスがゆっくりと口を開いた。
「確かに、そう言いましたわね。だから何ですか?」
しかしクリュスの口から出たのはあまりにもあっさりした言葉だった。
「私はたとえジン様が非力な存在になろうと、これからも配下としてそしてひとりの友としてお側に居続けるつもりです。もし離れれば一生後悔すると思いますからね」
「そうそう、それと配下の者達はここで住まわせばいいからね。きっとジンは快く承諾してくれる。もちろんぼくだってこれからずっとジンの側に居続けるよ、まだキスもしてないし」
二人の言葉を聞いて自然と笑みが溢れた。単純に嬉しく思って再び扉に手をかけ今度はそのまま勢いよく開けた。
「クリュス、ただいま」
「ジン様! おかえりなさいませ。ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした」
三人とも笑顔で迎え入れてくれた。そしてそのままの流れで部屋の中に座りクリュスの話を聞くことにした。
「今回会談に来ていた国はハインツ国を含め五国でした。その内これからも関係を持つに値すると考えたのは一国のみです。それ以外の国は利用できるだけ利用して関係を切るつもりです」
「その一国はどこの国?」
「ボーンネルともこれまで何度か貿易を行っているアルーバ国という国です。そしてアルーバ国以外の国への対応としましては我が国に賠償金の支払いをすること、商人へは一切の圧力はかけないこと、ボーンネルから四国に対する如何なる干渉をも黙認することの三つを要求しました。正確に言えば賠償金の支払いは命じておりませんが支払いたいようなのでそうさせます」
何に対しての賠償金かというのが少し気になるがここまでできたのは流石クリュスだ。これならエルシアに負担がかかる心配はない。
「ありがとうクリュス、流石だよ。疲れたと思うから休んでね」
「ええ、それと一つお願いしたいのですが少し離れたところに住む私たちの配下をここへ住まわせてもよろしいでしょうか」
「もちろん、歓迎するよ」
「ほらね、ジンならそう言うと思ったよ」
クリュスが無事に帰ってきてくれたことも嬉しかったがクリュスとゼステナの二人がここへ正式にきてくれることもとても嬉しい。
「あー! ジンが嬉しそう、よかったねクリュス姉!」
また自然と笑みが溢れた。
(分かった、ちょっと凹んでると思うから慰めておいて)
(了解だ)
(ジン様、お部屋にお邪魔しても?)
(入ったら斬るぞ)
(あはは、また明日ね)
メイルさんが用意してくれた寝室はかなり広い部屋に一人用のベッドが四つある。クレースとレイ、ゼステナの分に加えてパールとガルは同じベッドに入る。ちなみにブレンドは寂しくならないようにゼフじいの家に泊まっている。ベッドは四つあるものの今は四つとも横並びにしてくっつけ、巨大な一つのベッドが完成していた。気づけば無言で移動させられていたのだ。
「ふかふかあ」
パールはベッドの中に吸い込まれるようにして落ちていった。いいや、正確にはベッドとベッド間の隙間に挟まれ呑み込まれていったのだ。ベッドはふかふかで弾力性もあり、まるでわたあめの上に寝転がっているようだった。ガルもその隣で心地良さそうに眠っている。
「うーん、今度ラルカに同じベッドをつくってもらいたいなあ。クリュス姉も喜ぶと思うし」
ゼステナだけでなくレイも静かに興奮しているのが分かった。特訓の時には見せないようなほどけた顔だ。
そうしてゼステナとレイの二人も目を瞑ると吸い込まれるようにしてベッドの中で眠りについた。先程色々とありバタついたが、すっかり夜遅くなりもういつもの眠る時間だ。部屋の明かりは消して蝋燭一本のみだけを残しすぐ側に置いた。なので部屋の中の光は蝋燭の火の光と窓から差し込んでくる光だけだ。窓は開いており、涼しく心地いい風が入ってきて夜特有のにおいとともに不思議な感覚がする。
少し目を瞑っていると頭が優しく持ち上げられ首元が温かい何かに触れた。そして目を開けるとクレースの顔が視界に入ってきた。膝枕の状態になっていたのだ。クレースはかわいいパジャマを着ていつもとは違う雰囲気だ。寝るときもつけてくれているペンダントがきらめいている。こっちを向いて優しく笑いながら前髪をなぞるようにして丁寧に撫でてくれた。やっぱりここは安心する。お母さんの膝の上みたいだ。
でも少し落ち着きがないような感じがした。何かに焦って何かを堪えているような感じだ。そう思って再び目を瞑りしばらくすると、頬にポツリと何かが落ちた。ぽたぽたと何滴か落ちてきたので天井から水滴が落ちてきたのかと思い目を開けると、予想とは違った。
「······クレース?」
クレースがこちらをじっと見つめながら涙を流していた。クレースから流れた涙が頬を伝ってこちらに落ちてきていたのだ。こちらが気づくとクレースはハッとなり涙を拭いた。
「何か、あったの」
「いいや、何も無い」
クレースは自分で気づいていないようだったが、顔を見ればすぐに誰でも驚いていることが分かる。
「でも、何もないのにそんな」
「ジン、今日はもう寝よう」
そしてクレースは誤魔化すようにして膝からジンの頭を降ろして寝転び、そのまま抱きついて眠りについた。
翌朝、自室で昨日現れたラグナルク達の魔力から居場所を突き止めようとしていたネフティスの元にメイルがやってきた。
「ネフティス様、ジン様たちがお帰りになられますよ」
「そうか······まあ来てから迷惑しか被っておらんがのう」
自室で考え事をしていたネフティスは面倒くさそうに立ち上がり扉の前に立った。そして扉を引いて下を見ると丁度下からネフティスを見るジンと目が合った。
(フン、本当に小さいやつじゃの。子どもか)
ネフティスの身長は特別高いというわけでは無かったがそれでもネフティスの胸より下に頭があるほどで身長差はかなりあったのだ。
「帰るのではなかったのか。ここはわしの部屋じゃぞ人間」
「見送ってくれようとしてたの?」
宝石のような真っ赤な瞳を眩しく感じ、ネフティスは遮るようにしてそっぽを向いた。
「外の空気を吸いにいくだけだ」
(ネフティス様は前に本で読んだツンデレキャラというものなのでしょうか)
「じゃあ帰る前に一つだけお願い聞いてよ」
「願いじゃと?」
「うん。人間じゃなくてジンって呼んで」
「······すまんが無理じゃ。わしは人間のガキが一番嫌いじゃからな」
「子どもじゃない。もう19歳と六ヶ月だもん」
「そうか、わしからすればガキじゃな人間」
「違う、ジン。二文字だからこっちの方が呼びやすいでしょ」
「気が向いたらな」
「····それと迷惑かけてごめんなさい。取られたのは私が必ず取り返すよ」
「ああ、期待はしておらんがな。閻魁にも言っておけ」
「うんそれじゃあ行くね、ありがとう。いつか呪いが解けたらちゃんと名前で呼んでね」
そしてネフティスはそれ以上何も言うことなく外に出ていった。
「愛想のない人で申し訳ありません。また来てくださいねジン様、いつでもお待ちしております」
こうしてメイルさんや城にいた夜士族の人に見送られ転移魔法陣を使ってあっという間にボーンネルへと戻っていった。無理矢理自分を納得させるみたいだけど、今回事前に考えていた目的を何も達成することのできないままなのはただの力不足だ。また今度にしよう。
それよりも問題なのは敵が動き出したことだ。ラグナルクが現れたというのは既にボルが魔力波でベオウルフに伝えてくれた。どうやらベオウルフも急にラグナルクの魔力が現れたことに気づいており正確な居場所を探していたそうだ。
そして最も厄介に思えたのが天生をしたと思われるラグナルクだ。天生自体が厄介とも言える。前回あった時よりもかなり強くなっているようだったので、おそらく帝王くらいの強さの人が天生して敵側につくなどということがあれば大変なことになる。
天使の力を身に宿す天生については魔力波を通じてベオウルフから詳しく聞いた。まず天生を行う手段としては、天使が自身で選んだ者に対して時間をかけ力の全てを譲渡する。そしてこの際、天生する者からの了承などは必要ないが時間が必要になるものなので無理矢理力で抵抗されれば天生はうまくいかない。裏を返せば力がない者は強制的に天生させられる危険があるということだ。この天生をすれば天使は地上において受肉することができ安定した存在になれる。
天使が強ければ強いほど天生体は上位存在へとなるため今回ラグナルクについた天使は少なくとも上級天使の可能性が高い。そしておそらくこれからあの黒い空間を使う人や他の敵も天生体になると思われる。
まあ考えるのはやめて今は頑張って仕事をしてくれていたクリュスと話をしに行こう。
しばらくして集会所に行き総合室の扉の前まで来ると声が聞こえてきた。ゼグトス、ゼステナ、クリュスの三人の声だ。
「それで、いつ帰るんですか」
入ろうと扉に手をかけた時、ゼグトスの気になる声が聞こえてきた。なので手を離しそのまま扉の前に止まった。
帰る? 帰るって誰のことだろう。
「ゼステナ、あなたは各部隊の編成に加え武具の輸入などこの国における軍事の大幅強化を実現しました。クリュス、あなたは小国相手ですがそれなりに成果を出して帰ってきました。私があなた達二人をこの国にくるように誘ったとき私に言いましたよね、クリュス、ゼステナ。興味本位の暇つぶし程度で行く、少し手伝えば帰ると。あなた達に仕えていた龍はどうするのですか、すぐに帰ると言って置いてきたままでしょう?」
これは聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。確かにゼグトスが急に連れてきた二人は元いた場所でやることもあっただろう。二人の元に仕えている龍がいるということは初耳だけどその事実があるのなら私が二人を無理矢理この場に止めることはできないのだ。こうなるとは考えていなかったが二人がいなくなるのは悲しい。
クリュスとゼステナは頷くことも相槌を打つこともなくゼグトスの言葉を聞き静かになった。そして先にクリュスがゆっくりと口を開いた。
「確かに、そう言いましたわね。だから何ですか?」
しかしクリュスの口から出たのはあまりにもあっさりした言葉だった。
「私はたとえジン様が非力な存在になろうと、これからも配下としてそしてひとりの友としてお側に居続けるつもりです。もし離れれば一生後悔すると思いますからね」
「そうそう、それと配下の者達はここで住まわせばいいからね。きっとジンは快く承諾してくれる。もちろんぼくだってこれからずっとジンの側に居続けるよ、まだキスもしてないし」
二人の言葉を聞いて自然と笑みが溢れた。単純に嬉しく思って再び扉に手をかけ今度はそのまま勢いよく開けた。
「クリュス、ただいま」
「ジン様! おかえりなさいませ。ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした」
三人とも笑顔で迎え入れてくれた。そしてそのままの流れで部屋の中に座りクリュスの話を聞くことにした。
「今回会談に来ていた国はハインツ国を含め五国でした。その内これからも関係を持つに値すると考えたのは一国のみです。それ以外の国は利用できるだけ利用して関係を切るつもりです」
「その一国はどこの国?」
「ボーンネルともこれまで何度か貿易を行っているアルーバ国という国です。そしてアルーバ国以外の国への対応としましては我が国に賠償金の支払いをすること、商人へは一切の圧力はかけないこと、ボーンネルから四国に対する如何なる干渉をも黙認することの三つを要求しました。正確に言えば賠償金の支払いは命じておりませんが支払いたいようなのでそうさせます」
何に対しての賠償金かというのが少し気になるがここまでできたのは流石クリュスだ。これならエルシアに負担がかかる心配はない。
「ありがとうクリュス、流石だよ。疲れたと思うから休んでね」
「ええ、それと一つお願いしたいのですが少し離れたところに住む私たちの配下をここへ住まわせてもよろしいでしょうか」
「もちろん、歓迎するよ」
「ほらね、ジンならそう言うと思ったよ」
クリュスが無事に帰ってきてくれたことも嬉しかったがクリュスとゼステナの二人がここへ正式にきてくれることもとても嬉しい。
「あー! ジンが嬉しそう、よかったねクリュス姉!」
また自然と笑みが溢れた。
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