ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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英雄奪還編 前編

五章 第十一話 嫉妬心は敵をつくる

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季節は秋へと変わりすっかり涼しいくらいの気温になった。今はネフティスさんの護衛の人と魔力波で会話をしている最中で、前の会談の時に国にお邪魔するということを後押ししてくれたメイルさんという女性だ。ちなみにネフティスさんは連絡を取ってくれない。人間が嫌いな理由はまだ分からないが、仲良くなりたい。一方メイルさんは人族が嫌いというわけではなく、優しく話しかけてくれる。

(ジン様、でしたら一週間後などどうですか? 一週間後ならばネフティス様は何もございません。忙しいふりをなさいますが全くの暇です)

(じゃあその日にお邪魔しよっかな。ありがとう、無理なお願い聞いてもらって)

(いいえジン様。お越しくださるのを心待ちにしております。それともう一つ。前回でお察しの通り、ネフティス様は人間をひどく嫌われています。失礼をなさることがあると思いますがどうかよろしくお願い致します)

(ううん、全然大丈夫。それじゃあ一週間後)

「ジン様、少しお時間よろしいでしょうか」

魔力波が終わりすぐに扉からクリュスが入ってきた。

「いいよ、どうしたの?」

「実は近々、ハインツ国という国を中心にして小国が集まり会議をするそうです。それだけならば放っておいてもよいのですが、その会議の議題がボーンネルだとのことです」

「えっ、もしかしてここ有名になってる?」

「はい。ジン様の功績を始めとして、エルシアさんの商業面での活躍、エピネール王国の支配など、注目を浴びるのは時間の問題だったのでしょう」

流石エルシアにゼグトスだ。本当にいい友達をもった。

「どんな感じの内容かは分かる?」

「インフォルさんにも協力してもらったのですが、どうやらこちらの国力を恐れているようでして、ゴミどもッ—、小国が団結してボーンネルに経済的な圧力をかけようと計画しているそうです」

「経済的な圧力‥‥ここに来ている他国の商人や貿易が他の国から弾圧されればエルシアにかなり負担をかけるし、それは避けたいね」

「ええ、小国と言えども貴重な存在ではあります。ですのでジン様、私はその会議に出席したいと考えております」

「‥‥そっか。ちなみにその会議はいつ?」

「今から丁度一週間後です」

ネフティスさんの国に行く日と丁度被ってしまう。偶然というのは意地悪だ。

「ごめんクリュス、その日はネフティスさんの国に訪問する予定が入っていて。でもクリュスだけに嫌な思いはさせたくないし‥‥」

「何をおっしゃいますか。私はこの国で外交という誇らしき仕事を与えられた身。あなた様のためなら、何も苦ではありませんわ。それに‥‥」

クリュスは少し笑みを浮かべながら目を閉じ、ゆっくりと開いた。

「小国如き、いくつ集まろうとも簡単に滅ぼせますもの」

まずい、これは本当の目だ。ゼステナとは対となるような冷たく見透かされるような綺麗な目。

「分かった。それと会議で発言する内容はクリュスに任せるよ。この国の外交の権限はクリュスにあると思っていいからね」

「かしこまりました。お任せくださいませ」

クリュスなら大丈夫だ。信頼してる。最悪何が起ころうとも、私が責任を負えば問題ない。できる限りの権限を与えて責任は王様が取る。こうするのがベストだ。

「そういえば、誰と一緒に行く?」

「いいえ、一人で問題ありません。そちらの方がしたいようにできますので」

「分かった、じゃあ気をつけて」

少し怖い、見られるとまずいことなのだろうか。でもゼステナのお姉さんだ、一人でも十分なのだろう。

「ジン様も呪帝の領土に行かれるのでしたらくれぐれもお気をつけて下さい。人族が嫌いなあの者は何を企んでいてもおかしくありません」

ということで申し訳ないが、そっちはクリュスに任せよう。


「ジン、今日はなにもない? どこにもいかない?」

パールとガルと部屋にいるとパールが珍しくそう聞いてきた。いつもは抱きついてくるだけなのに。

「うん、今日は午前中でやることは終えたから午後は何もないよ」

「そうだんしたいことがあるの」

「相談? いいよ」

パールが相談なんて初めてだ。しかも顔はいつになく真剣に見える。

「あのね、知らない人からはなしかけられたんだけど、その人天使族だった」

「何て話しかけられたの」

「私がパールかどうかって。それでうんって答えた」

服の裾をギュッと握って不安そうな顔で見上げてくる。

「どんな人だったか詳しく教えて」

「男の人で青色のかみの毛だった」

「いつ、どこで会った?」

(ジン、いつもよりしんけん)

「ほんの少し前。ジンをさがそうとしてひとりで空をとんでるときにいきなり出てきた」

「他に何か言われた?」

「また会いにくるって。いつかは分からない」

パールからはまだ出会って間もない頃に過去に起きたことを教えてもらった。ミーナさんのことも、他の天使族からよく思われていないということも。だからこそ何かあってはいけない。

「しんぱいしてくれてありがとう。もう大丈夫になった」
 
「パール」

「はい!」

「もうこれからはひとりで行動しないで、できる限り私のそばにいて。ネフティスさんのところにも一緒に行こうね」

「うん!」

嫌な予感がする。ギルメスド王国に現れた天使族の存在があるせいか、かなり引っ掛かる。



一方、モンドのある部屋では特訓場所をこの中に変更した傭兵集団が倒れ込むようにして休憩していた。

「ボルさんの特訓、最近更に激しいメニューになったか?」 

「きっと私たちを思ってのことよ」

ボルの特訓における理念は死に物狂いだ。たとえ傭兵の中で実力差が離れていても関係なく、同じ特訓内容をこなす。

「それに昨日思い知らされたでしょ。どれだけ鍛えたと思っていてもただの数では極められた個のまえでは無力なのよ」

昨日、モンドの中ではボル一人対傭兵部隊全員での戦いが行われた。しかし数とは裏腹に決着は直ぐにつき、いつの間にか部屋の中ではほとんどのものがその場に倒れ込んでいたのだ。

「あの人に勝てる想像というか、あの人が負ける想像ができねえな。ジン様と戦ったことあんのかな?」

「いいえ、前に気になって聞いたことがあるけれども、そもそも絶対に攻撃することはないと言っていたわ。そんな状況になれば自害するらしいわ。ボルさん、ジン様の前ではかなり雰囲気が違うもの」 

「全員いる?」

その時、部屋の中にボルが入ってきた。

「‥‥いますが、どうしました?」

「全員少しついてきてほしい」

しかし、ボルの声を聞いていた全員が警戒態勢に入り、その場から動かず立ち止まった。

「それは、無理なお願いだね」

ナリーゼは剣先をボルに突きつけ強く睨みをきかせる。

「何のつもり? 口調を合わせているみたいだけど、ボルさんとは全く語尾が違うのよ」

するとボウっとしていたボルの顔が急にキリッとなった。

「チッ、もうバレたか。こんな辺境の国でもマシなやつがいるもんだな」

「マシだと? 俺らなんてこの国の中じゃ底辺中の底辺だ。見る目ねえな」

「あぁあぁ、そうだろよ。まだほとんど人と会ってねえからな」

「名を名乗れ、何が目的だ。それと、ボルさんの見た目のままいるな」

「細かいやつだな」

男は一度魔力の渦に包まれるとボルの顔は一瞬で変わり、つり目で血色の悪い男の顔に変化した。
 
「俺の名はイミタル、自己紹介はこれだけだ。それと、目的? まあお前らの国、最近調子乗りすぎなんだよ。エピネールとかいうクソみたいな国を乗っ取った、商人をうまく利用した、王がちょっと活躍した。てめえらの国なんて言っちまえばそんなもんだろ。王が帝王に認められたかなんだか知らねえけどよ、正直言っててめぇらムカつくんだよ。だからこれ以上調子に乗らねえうちに、俺らで分からせてやんだよ」

「今ナンテ?」

「あっ、ボルさん!」

そして今度は本物のボルが部屋の中に入ってきた。右手にはゼルタスが握られ、底知れない暗い瞳でイミタルを見つめている。

「おっ、おう。本物の化け物が来たな」

「何処からキタ?」

「まあ、それだけは言えないな。でもその代わり、一つだけ確かなことを教えてやるよ。てめぇらが思ってるより敵は多いぞ。今日は忠告だけだ、またな」

「待て!」

「追わなくてイイ」

「ですがボルさッ—」

「すぐに感情的になる必要はナイ。相手はただボクらに嫉妬しているダケダ」

「たっ、確かにそうですよね」

「‥‥‥ただ、ジンを馬鹿にしたのは許セナイ。此処での暴力行為はジンがイヤガル」

冷静にそう判断しつつも、ボルは静かに、怒りを抑えていた。
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