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英雄奪還編 前編
五章 第四話 奥手な手紙
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「ジン!? どうやって入ってきたの!?」
自身の攻撃がかき消されたことよりもゼステナの口からは素直な疑問が飛び出した。辺りからは歓声が聞こえるとともに周りの様子を見渡すといつの間にかクリュスの張っていた結界は消え去り、視界には驚き声もでないまま立ち尽くしていた姉の姿が見える。
「急だったから、結界は破壊させてもらったよ」
「で、でもクリュス姉の結界がそんな簡単に潰れるはずがッ—」
「オぅッ!!」
しかしゼステナの声はトキワの魂が抜けたような声にかき消された。
「わざわざ体力を使わなくても、男はここを蹴れば秒で終わる。ジン、怪我してないか」
「大丈夫」
トキワは悶絶しながら下半身を抑えて地面を転がっていた。
「なるほど」
「ゼステナがストレスなく暴れられる場所をつくった方が良さそうだね」
「ゼステナ、ジン様のお手を煩わせるな。それよりも言っていた部隊の編成はできたのですか」
「いいや、だって今日は休みだもん。だからクリュス姉と一緒に散歩してただけだもん!」
するといつも通りの冷静な顔と立ち振る舞いでクリュスが近くまでやってきた。
「ジン様、私の結界をものともしないとは流石の一言でございます。勝手な真似をして申し訳ありません。それよりもゼグトス、今の戦いを見ていたけれどもこの国はどう考えても戦力が未知数よ。確かに他国に戦力を誇示することは早急にやるべきことだけれども、この子にも少し情報が必要よ」
「そうだそうだ!!」
「まあ詳細な情報はゼグトスに教えてもらえ」
「えっ」
「ジン、部隊の編成のために称号や位を与えるのはどうだ?」
「うん、わかった。じゃあゼステナ、後で一緒に考えよ」
「じゃあぼくの寝室で—」
「チッ—」
「ゼステナ、お腹が空いたでしょう。昼食に行きましょう」
「うん!! もう腹ペコだよ」
二人はヴァンのレストランに向かい先程までの激しい戦闘が嘘だったように辺りは元の日常の景色に戻っていった。
「レイ、帰ってたのか。戦いを見た感想はどうだ?」
「私では目で追うのがやっとだ。細かくは全く見えなかった」
その感想は近くで見ていたリンギルやガルミューラも同様だった。
「ジン、ぼく見えてた。すごい?」
「すごいね~よしよしぃ」
ブレンドは褒めてもらうのがとても好きらしい。いつも自慢するようなことがあるときには頭を撫でて欲しいオーラ全開で近づいてくる。それはそうと、木人族は身体能力だけでなく、嗅覚が少し弱い分視力がかなりいいとのことなのだ。それでも二人の戦闘速度を目で追うことができるのはすごい。
「あっ、そういえばレイ。ギルメスド王国はあれから何もないってさ。ハルトさんもすっかり元気になったみたい」
「そうか、まあしぶといやつだからな。わざわざすまない」
ゲルオードからの連絡の少し前、早速ベオウルフから連絡が来て現状を詳しく教えてもらった。どうやら敵は前にいた場所のどこをあたっても一切の痕跡がなかったらしく、怪しい気配も感じられなかったようなので一旦は保留で、ということらしい。ただ剣帝でありながら他国に助けてもらったということが本人曰く申し訳ないらしいが、こっちは許可もなしに勝手に国の中に入り込んだのだからそう言われると少し気が引ける。とはいえひとまずは様子見ということになった。
その後しばらくしてゼステナの家に行き、位や称号についての概要を話し合うことにした。ゼステナは休みなので家にお邪魔するとクリュスは部屋の中にいなかった。そして寝室に招かれると嗅いだことがないような不思議な匂いが寝室の中は充満していたのだ。
「どうしたの」
ベッドの上では少しタイトな白いシャツを身にまとい、下はかなり際どい薄い赤色のパンツを履いていたゼステナが少し顔を赤らめて黙っていた。そしてこちらをジッと見て大きく手を広げ、抱きしめてと言いそうな顔でそのままジッとしていた。よく分からなかったのでとりあえずは隣に座るとこちらの動きについてくるように向きを変え再び同じ姿勢になる。
「ほんとに何してるの」
「えっ、もしかして効いてない?」
「何が?」
「うわ~、効かない人間なんているんだ。ぼく色気なかったかなぁ」
よくは分からなかったが、ゼステナはしっかりとした服を着てその後は何事もなかったように話し始めた。
しかしは思っていたよりも難航してすぐに決まることはなく持ち越しになった。カッコイイ名前を考えるのが難しかったのだ。
一度ゼステナと分かれてリラックススペースに行き、二階へと登るとトキワが一人で何かを書いていた。その顔は何かに悩みうなだれるほどで周りの気配を一切感じていないようだったので
「うわッ!!」
「ウオォ!!」
急に後ろから驚かせてみると急に正気を取り戻したように顔を上げた。小さい頃から今までゼフじいを始めとしてみんなにやっている驚かせ方だ。
「おお、ジンか」
トキワはそう言いながら書いていた紙を見えないようにしまった。
「それってもしかしてお父さんの?」
「あぁ~まあ、うう~ん。バレたか。書いたはいいがまだ一枚も送ってねえんだよな」
トキワには遠く離れた場所に住む父親がいる。たまに手紙を書いては消してを繰り返して何枚かは完成したみたいだがまだ送ったことはないし逆に向こうから送られてきたこともない。いつも捨てることなく小さな箱にしまってしまう。
「ねえトキワ。一度会ってきなよ」
「いやいや、流石にそれは無理だろ。行ったとしてもすぐに追い返されちまうだけだと思うぜ」
そう言うトキワの顔はいつになく気まずそうだった。
「今ならきっと大丈夫だから」
「でもよ、俺が行ってる間にお前になんかあったら」
「安心して、それよりも今は自分のことを考えて。絶対に会って仲直りした方がいい。だって親だもん、会いたくないわけないよ」
その言葉を聞いて諦めたように息を吸いゆっくりと吐き出した。
「ジンにそう言われれば仕方ねえか。分かった、俺もいい歳だ、いつまでも過去に引っ張られるわけにはいかねえ」
決心したように立ち上がり小箱を持って大きく伸びをした。しかしその顔からは少し緊張したような表情がはっきりとみて取れ少し無理しているようだった。
「悩んでてても仕方ねえから今日に出発しちまうかぁ。ここから遠いからな」
「分かった。ここのことは任せて」
そうして話はスッと進み、トキワは故郷へと帰ることになった。トキワの故郷はボーンネルからはかなり東に移動することになる。途中で山を越える必要があり片道だけでもかなり大変なのだ。
クレースたちとも合流して夜食を食べ、トキワのことを話した。エルダンやリンギルそれにブレンドに特訓がしばらくできなくなるということを伝え、その後温泉にも浸かり出発準備を手伝った。
クレースとボルと一緒にトキワの部屋に行くと、トキワは少し緊張していた。これほどまでに緊張しているトキワは初めて見るかもしれない。トキワとは私含め三人とも長い付き合いだ。互いに信頼関係はとても深く、父親とトキワがどういう関係にあるのかも詳しく知っている。
「一人で行くのか?」
「いや、ガルミューラのやつが暇だから一緒に行ってくれるらしい」
クレースとトキワが普通に会話をしているのはどこか変な感じがする。
「ジン、何かあればすぐに魔力波で伝えろ。すぐに戻ってくる。お前らも頼んだぞ」
トキワは緊張を隠すようにしていつも通りに振る舞い安心させるように言った。本人の心情としては本当はそれどころではないと思うが、性格上緊張している姿を見られるのが苦手っぽいのだ。
そしてしばらくした後、辺りはすっかり暗くなり昼間の喧騒は消え去り静かな中、トキワとガルミューラは出発する。
トキワがいるので道中危険に見舞われるということはほぼないとは思うが、夏にもかかわらず、通る場所はかなり冷え込む。二人は大きな荷物を背負い、季節とは少しズレている服装を身に纏っていた。
ゼグトスの転移魔法でそれなりに近くまで転移できるものの、すぐに会うのは心の準備ができないということで歩いて行くことになったのだ。
「じゃあ行ってくる。また魔力波で連絡する」
「ジン様、勝手ながらミルのことをよろしくお願いします」
「うん、気をつけて。待ってる」
そして二人の背中が見えなくなるまで見つめ続け無事を祈りながらもトキワと父親との再会に期待した。
自身の攻撃がかき消されたことよりもゼステナの口からは素直な疑問が飛び出した。辺りからは歓声が聞こえるとともに周りの様子を見渡すといつの間にかクリュスの張っていた結界は消え去り、視界には驚き声もでないまま立ち尽くしていた姉の姿が見える。
「急だったから、結界は破壊させてもらったよ」
「で、でもクリュス姉の結界がそんな簡単に潰れるはずがッ—」
「オぅッ!!」
しかしゼステナの声はトキワの魂が抜けたような声にかき消された。
「わざわざ体力を使わなくても、男はここを蹴れば秒で終わる。ジン、怪我してないか」
「大丈夫」
トキワは悶絶しながら下半身を抑えて地面を転がっていた。
「なるほど」
「ゼステナがストレスなく暴れられる場所をつくった方が良さそうだね」
「ゼステナ、ジン様のお手を煩わせるな。それよりも言っていた部隊の編成はできたのですか」
「いいや、だって今日は休みだもん。だからクリュス姉と一緒に散歩してただけだもん!」
するといつも通りの冷静な顔と立ち振る舞いでクリュスが近くまでやってきた。
「ジン様、私の結界をものともしないとは流石の一言でございます。勝手な真似をして申し訳ありません。それよりもゼグトス、今の戦いを見ていたけれどもこの国はどう考えても戦力が未知数よ。確かに他国に戦力を誇示することは早急にやるべきことだけれども、この子にも少し情報が必要よ」
「そうだそうだ!!」
「まあ詳細な情報はゼグトスに教えてもらえ」
「えっ」
「ジン、部隊の編成のために称号や位を与えるのはどうだ?」
「うん、わかった。じゃあゼステナ、後で一緒に考えよ」
「じゃあぼくの寝室で—」
「チッ—」
「ゼステナ、お腹が空いたでしょう。昼食に行きましょう」
「うん!! もう腹ペコだよ」
二人はヴァンのレストランに向かい先程までの激しい戦闘が嘘だったように辺りは元の日常の景色に戻っていった。
「レイ、帰ってたのか。戦いを見た感想はどうだ?」
「私では目で追うのがやっとだ。細かくは全く見えなかった」
その感想は近くで見ていたリンギルやガルミューラも同様だった。
「ジン、ぼく見えてた。すごい?」
「すごいね~よしよしぃ」
ブレンドは褒めてもらうのがとても好きらしい。いつも自慢するようなことがあるときには頭を撫でて欲しいオーラ全開で近づいてくる。それはそうと、木人族は身体能力だけでなく、嗅覚が少し弱い分視力がかなりいいとのことなのだ。それでも二人の戦闘速度を目で追うことができるのはすごい。
「あっ、そういえばレイ。ギルメスド王国はあれから何もないってさ。ハルトさんもすっかり元気になったみたい」
「そうか、まあしぶといやつだからな。わざわざすまない」
ゲルオードからの連絡の少し前、早速ベオウルフから連絡が来て現状を詳しく教えてもらった。どうやら敵は前にいた場所のどこをあたっても一切の痕跡がなかったらしく、怪しい気配も感じられなかったようなので一旦は保留で、ということらしい。ただ剣帝でありながら他国に助けてもらったということが本人曰く申し訳ないらしいが、こっちは許可もなしに勝手に国の中に入り込んだのだからそう言われると少し気が引ける。とはいえひとまずは様子見ということになった。
その後しばらくしてゼステナの家に行き、位や称号についての概要を話し合うことにした。ゼステナは休みなので家にお邪魔するとクリュスは部屋の中にいなかった。そして寝室に招かれると嗅いだことがないような不思議な匂いが寝室の中は充満していたのだ。
「どうしたの」
ベッドの上では少しタイトな白いシャツを身にまとい、下はかなり際どい薄い赤色のパンツを履いていたゼステナが少し顔を赤らめて黙っていた。そしてこちらをジッと見て大きく手を広げ、抱きしめてと言いそうな顔でそのままジッとしていた。よく分からなかったのでとりあえずは隣に座るとこちらの動きについてくるように向きを変え再び同じ姿勢になる。
「ほんとに何してるの」
「えっ、もしかして効いてない?」
「何が?」
「うわ~、効かない人間なんているんだ。ぼく色気なかったかなぁ」
よくは分からなかったが、ゼステナはしっかりとした服を着てその後は何事もなかったように話し始めた。
しかしは思っていたよりも難航してすぐに決まることはなく持ち越しになった。カッコイイ名前を考えるのが難しかったのだ。
一度ゼステナと分かれてリラックススペースに行き、二階へと登るとトキワが一人で何かを書いていた。その顔は何かに悩みうなだれるほどで周りの気配を一切感じていないようだったので
「うわッ!!」
「ウオォ!!」
急に後ろから驚かせてみると急に正気を取り戻したように顔を上げた。小さい頃から今までゼフじいを始めとしてみんなにやっている驚かせ方だ。
「おお、ジンか」
トキワはそう言いながら書いていた紙を見えないようにしまった。
「それってもしかしてお父さんの?」
「あぁ~まあ、うう~ん。バレたか。書いたはいいがまだ一枚も送ってねえんだよな」
トキワには遠く離れた場所に住む父親がいる。たまに手紙を書いては消してを繰り返して何枚かは完成したみたいだがまだ送ったことはないし逆に向こうから送られてきたこともない。いつも捨てることなく小さな箱にしまってしまう。
「ねえトキワ。一度会ってきなよ」
「いやいや、流石にそれは無理だろ。行ったとしてもすぐに追い返されちまうだけだと思うぜ」
そう言うトキワの顔はいつになく気まずそうだった。
「今ならきっと大丈夫だから」
「でもよ、俺が行ってる間にお前になんかあったら」
「安心して、それよりも今は自分のことを考えて。絶対に会って仲直りした方がいい。だって親だもん、会いたくないわけないよ」
その言葉を聞いて諦めたように息を吸いゆっくりと吐き出した。
「ジンにそう言われれば仕方ねえか。分かった、俺もいい歳だ、いつまでも過去に引っ張られるわけにはいかねえ」
決心したように立ち上がり小箱を持って大きく伸びをした。しかしその顔からは少し緊張したような表情がはっきりとみて取れ少し無理しているようだった。
「悩んでてても仕方ねえから今日に出発しちまうかぁ。ここから遠いからな」
「分かった。ここのことは任せて」
そうして話はスッと進み、トキワは故郷へと帰ることになった。トキワの故郷はボーンネルからはかなり東に移動することになる。途中で山を越える必要があり片道だけでもかなり大変なのだ。
クレースたちとも合流して夜食を食べ、トキワのことを話した。エルダンやリンギルそれにブレンドに特訓がしばらくできなくなるということを伝え、その後温泉にも浸かり出発準備を手伝った。
クレースとボルと一緒にトキワの部屋に行くと、トキワは少し緊張していた。これほどまでに緊張しているトキワは初めて見るかもしれない。トキワとは私含め三人とも長い付き合いだ。互いに信頼関係はとても深く、父親とトキワがどういう関係にあるのかも詳しく知っている。
「一人で行くのか?」
「いや、ガルミューラのやつが暇だから一緒に行ってくれるらしい」
クレースとトキワが普通に会話をしているのはどこか変な感じがする。
「ジン、何かあればすぐに魔力波で伝えろ。すぐに戻ってくる。お前らも頼んだぞ」
トキワは緊張を隠すようにしていつも通りに振る舞い安心させるように言った。本人の心情としては本当はそれどころではないと思うが、性格上緊張している姿を見られるのが苦手っぽいのだ。
そしてしばらくした後、辺りはすっかり暗くなり昼間の喧騒は消え去り静かな中、トキワとガルミューラは出発する。
トキワがいるので道中危険に見舞われるということはほぼないとは思うが、夏にもかかわらず、通る場所はかなり冷え込む。二人は大きな荷物を背負い、季節とは少しズレている服装を身に纏っていた。
ゼグトスの転移魔法でそれなりに近くまで転移できるものの、すぐに会うのは心の準備ができないということで歩いて行くことになったのだ。
「じゃあ行ってくる。また魔力波で連絡する」
「ジン様、勝手ながらミルのことをよろしくお願いします」
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