ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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中央教会編

四章 第九話 地下の暗躍

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「ラグナルク様、序列三位「ラダルス」の始末は完了致しました」

「そうか、ご苦労。あいつの憎しみに歪んだ顔が見たいものよ。自分の部下すら守れない哀れな贋物にはもう帝王の資格などない。そうは思わんか? ベイガル」

「ええ。ラグナルク様が帝王となる世界をこの私が実現させてみせましょう」

鍛え上げられた黒い皮膚を火の光に照らしベイガルという男はラグナルクの前に跪いた。

「クシャシャシャシャッ! 剣帝が選んだ騎士は雑魚しかいねえのかよぉ!?」

「ギシャル、ラグナルク様の前で無礼であるぞ。場を弁えろ」

「うっせぇなぁ、八雲の雑魚一人殺したからって調子に乗るなよッ!」

「騒がしいぞ」

「「ッ—」」

ラグナルクの声に二人の息は一瞬詰まる。

「申し訳ありません。ラグナルク様」

(私があるべき場所に行くまで、これから失われる部下の死に絶望しておけ。この国に帝王は私一人で十分だ)




龍の里近くでは傭兵たちの激しい訓練が続き悲鳴が響き渡っていた。

「なんでここにバトルスコーピオンの群れがいるんだよおぉおおーッ!!!」」

バンブルやナリーゼ達は現在、バトルスコーピオンという魔物の群れから必死に逃げ回っていた。
バトルスコーピオンは硬い外骨格と巨大な身体に加え、その尻尾にはアブアラーネアをも凌ぐ超猛毒の針を持っておりその強さからAランクの魔物とされている。そのため群れの状態でいる場合は裕にSランクを超えるのだ。

「反撃しないと勝てナイヨ」

ボルは少し離れた場所からその様子を見つめていた。バトルスコーピオンが大量に発生したのはボルの仕業である。
ただでさえ高いこの場所の魔力濃度をさらに濃くして、より大量の強力な魔物が出現するようにしたのだ。

「オッ」

バンブルは一人立ち止まり迫り来るバトルスコーピオンの群れの方を向いた。
巨大な足音とともに群れは急速に近づきバンブルはその場にどっしりと構えた。
しかし群れが近づくにつれその顔からは大量の汗が出てきた。

「やっぱ無理ぃいいいいッ!!」

その後も傭兵たちは命の危険を感じつつ逃げて逃げて逃げまくりなんとか逃げ切ることには成功したのだ。
その日の訓練が終わり、傭兵たちは気絶するように倒れ込んだ。そしてそのままゼグトスの転移魔法陣で温泉まで直行したのだ。

「あのサソリ、夢に出てきそうだ」

「ええ、全くもってその通りね。でもあれを倒せないとジン様のお役には立てないのでしょうね」

「ゼグトス、わざわざ魔法陣を設置してくれてありがトウ」

「問題ありません。ですがしばらくの間、私は留守にさせていただきますので他の場所へは転移できませんのでご注意を」

「えっ、ゼグトスさんどこか行くんですか?」

「ええ、ジン様が偉大なる王となられこれからさらに忙しくなります。ですので昔の知り合いをこの国でこき使おうと思いまして」

「そうナンダ。ジンはナンテ?」

「「気をつけて」と言っていただき少し悲しそうなお顔をしてくださいましたがこれもジン様のためです。私の気が変わらないうちに早く出発し急いで帰ってくるつもりです。断られても力ずくでこちらにつれてくるので」

「ワカッタ。こっちのことは任せてオイテ」

そしてゼグトスはその日の夜、ジンと少し挨拶を交わした後ボーンネルをたった。



次の日。

「ジッン~、ジッん~どこだ~」

クレースはレイとの朝の訓練を終えて鼻歌交じりにジンを探していた。
集会所のジンの部屋を開けるとクレースは何やら考え込む様子のジンを見つけた。

「ん? どうかしたか?」

「うーん。ゼグトスが昨日の夜出て行ったんだけどちょっと心配で」

クレースは嬉しそうな笑みを浮かべてジンを膝の上に乗せ椅子に座った。

(······ジンの体重、こんなに軽かったか?)

そうクレースは少しの違和感を感じたが、可愛かったので気にせず話を進めた。

「まああいつの知り合いだからな。普通じゃないのは確かだろうが」 

ゼグトスなら仕方ないと思い見送ったが正直なところ内心ハラハラしていた。まあまあ強いとゼグトスがいう知り合いをここに来させて働かせるらしい。あのゼグトスが「まあまあ強い」と言うのだからまず間違いなく強いのだろとは思いつつも従わないなら力ずくで連れ出すらしい。向こうからすれば労働か暴力かの二択を選ばされるというのだから一応ゼグトスに手荒なことはしないでと言っておいたのだ。

「まあ任せよう。そういえば朝は何か食べた? 今からヴァンのところに行こうと思うんだけど」

「ああ、そうしようか」

そしてその時だった。二人の頭の中にブルファンからの魔力波が入ってくる

(ジンさん、朝早くに申し訳ありません。至急お願いしたいことがございます)

(どうしたの?)

(先程、メスト大森林に住む魔物たちが多数凶暴化したとの報告が入りました。感知部隊によれば凶暴化した魔物たちはメスト大森林全域に存在しております。ギルメスド王国の騎士団も朝から対応に追われているようでこのままでは国に侵入される可能性がございます。おそらく我が国や救援要請の頼める周辺国では戦力が不足してしまいます。ですので恥を承知でお願い致します。もう一度我が国にお力をお貸ししただけないでしょうか)

(······分かった。今の状況は?)

(現在、より活動が活発化しているようでいつ動き出してもおかしくはない状況です)

(数はどれくらいだ?)

(感知部隊によれば数はおよそ三千、どれもが高ランクの魔物ばかりだとのことです。さらにはSランクの魔物の存在も確認されという情報が)

(三千か、多いな。分かった。では待っておけ)

「ジン、そんな顔をするな。頼られているだけだ、心配する必要はない」

「····うん。今すぐみんなを総合室に集めてくれる?」

「わかった」

そして朝から総合室には大勢が集まり緊急の会議が開かれた。

「······というのが今の状況。ごめん、またみんなを危険な目に合わせる形になって」

「ダイジョウブ。安心して待っテテ」

「今回は我らヒュード族も出陣させていただきます。お任せを」

その時「バンッ」という大きな音とともに閻魁が入ってきた。

「おい、我抜きで楽しそうなことをするでない。我も混ぜろ」

「おう、閻魁。お前も俺らと一緒に来るか? 魔物と一緒に暴れてたら多分問題にもならねえぜ」

トキワの言葉に目を輝かせて閻魁はガッツポーズをする。

「そうかッ! では何の話かは分からんが我も行く」

そして余程うれしかったのか叫びながら再び外に出て行った。

「では出撃するのはボル、トキワ、リンギル、閻魁、ヒュード族、それに傭兵達で問題ないか? すまんが私はジンとここに残るぞ。すぐに終わらせて帰ってこい」

「おう任せておけ」

「ブルファンが言うにはSランクも含むらしいから本当に気をつけて。それとみんなに渡したいものがあるから出撃準備ができたら全員外に集まって」

そうジンに言われ広場には、トキワ、リンギル、やる気満々の閻魁に加えガルミューラ率いるヒュード族の空撃部隊、そしてボル率いるバンブル、ナリーゼたち傭兵部隊が集まり全員がジンの渡したいものというものにワクワクしつつ待っていた。

「私にはこれしかできないけど。みんなどうか気をつけて。クレースお願い」

「ああ」

そう言ってクレースは目を瞑り腕を組んでその場に立った。

(ロード・オブ・マティア【王の瞳】)

その瞬間、クレースの周りだけに激しい重圧がのしかかりクレースの立っていた地面の部分がひび割れる。しかし本人は嬉しそうでじっとそのまま立っていた。

「ラストエント」

ジンが魔法をかけた瞬間、百人を超える全員の身体が赤い光に包まれた。

「ディア・インフィニティ」

さらに上から被せられるように魔法が加わる。そしてそれが終わるとクレースを襲っていた圧がスッと消えた。
そしてその場にいたものたちが自分の体に明らかな違和感を感じる。

「ウオォおおおおおッ!! なんだこれは、力がみなぎってくるぞ」

ヒュード族も自身とは違う体の違和感を不思議に思いつつジッとジンの方を見つめた。

「ねえドルトン。ジン様は何をしたの? 私が私じゃないみたい」

「信じたくはないですが、これは最上位の強化魔法です。ジン様は今の一瞬で私たち全員にその魔法をかけたのでしょう」

「それだけではない。この効果が切れないようにさらに上から魔法をかけられたのだ。だが······」

ガルミューラと同じことを思ったナリーゼがその場で声を上げる。

「ジン様、私たちにこんなに魔力を使われては危険です。これではもしここが攻められた場合······」

そう、必要な魔力量が尋常ではないのだ。一人にラストエントとディア・インフィニティをかけるだけでもその魔力量は熟練の魔法使いおよそ百人ほどの総魔力量を使用してやっとできるかどうかというレベルなのだ。

「あっ、大丈夫。魔力消費してないから」

全員一瞬「えっ」となったが全員はただ一言でその理不尽な言葉を無理やり納得させた。

(何でもありだな。うちの王)

「私にはこんなことしかできないけど、気をつけてね。ただ一つ、誰も死なないこと」

「「ハッ」」

前回はボルに訓練にならなくなると言われやめておいたのだ。しかし今はそんなことを言える状況ではないので惜しみなく使用した。

そして過剰とも言える戦力が今まさに動き出そうとしていたのだ。
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