ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
上 下
91 / 240
中央教会編

四章 第四話 混乱の前兆

しおりを挟む

「ああ、そうみたいや。かなり凶暴化しとった」

「うむ、原因が分からぬ限りはこちらも注意が必要じゃな」

早朝、インフォルとゼフは鍛冶場で二人話をしていた。

「どうしたんだ」

「おおクレースはん。いやあこの前ロンダートっちゅう鬱陶しいやつがおったやろ? ちぃと気になったからギルメスドまで調査しにいっとったんや。ほしたらどうも魔物が凶暴化しとるみたいでな。教会の奴らが処理しとったけど物騒やなおもて」

「バチが当たったんだろ」

「まあそうじゃな、こちらまで来なければよいのじゃが」

「教会の騎士らは結構苦戦しとったで。八雲の奴らが現れてその場はなんとかなったけど、あんなけAランクが凶暴化しとるとSランクになる言われてもおかしないで」

「ああそうだゼフ。レイのハルバードを見てやってくれ、少し手入れが必要だ。私はジンを起こしに行ってくる」

「おう、任せとけ」



今日は朝からエルシアが来てくれている。どうやらエピネールでの建設も順調そうでみんなの要望に応えて公共施設を増やしていった結果、生活水準がグンっと上がったそうだ。そしてどうやらエピネールのみんなが私にあって是非お礼をしたいとのことらしい。

「そう言うことですので是非、今日はこちらにいらしてください。まだジン様のお姿を知らないものも多くいます」

「でもなんだか申し訳ないな。私はエルシアたちに言っただけで実際には何もしてないから」

「何をおっしゃいますかジン様。国民のために財産を惜しげもなく出し住みやすいような環境づくりをするなんていうことは前国王では考えられませんでした。胸を張ってくださいませ」

「······うん。分かった」

そしてゼグトスの転移魔法を使用しエピネール国まで飛んでいった。あまり目立つつもりもなかったので、エルシアに加えてガル、クレース、レイ、ゼグトスとパールの少数で行くことにした。エピネールに着くと以前クレースと行った時とは違ってみんなの顔に光があるのが分かった。建物の多くは一新されどうやら住み心地もかなり良さそうだったのだ。

少し歩くと以前ベルぶ、ベトベット? だったか、名前は忘れた嫌な貴族から助けた小さな女の子がいた。その女の子はこちらに気づくと顔を輝かせてこちらまで走ってきた。

「綺麗なお姉ちゃん! この前はどうもありがとうございました! 私聞きました、お姉ちゃんは悪い人たちをやっつけてここの王様になったんですよね!? エルシアさんが自慢してました!」

その声に周りがざわつき始めた。

「えっ、あの可愛らしい方が」

「あっ、あの獣人の人はこの前の······」

「あの方がジン様······」

そしてエルシアが前に出ると国民たちは再び静かになった。

「皆さん、今のエピネールがあり私たちが自由に生活できるようになったのはここにおられるジン様のお陰でございます」

「ちょっ」

慌てて止めようとしたがエルシアはそのまま続けた。

「そして以前お話しした通り私たちエピネールの民は過去を捨て去りジン様の治められるボーンネルの民としてこれから生きていく、この考えにどなたか反対意見はございますか?」

そんな聴き方をすれば断った時殺されそうだが、エルシアは民たちの顔をしっかりと見つめそう問いかけた。
エピネールのものはジンの方を向いて一斉に跪いた。
ジンは思わず後ろにたじろくが民たちの顔には期待の笑みが浮かび、誰もがジンの言葉を待っていたのだ。

「その、私はまだ二十年も生きてなくてまだまだ未熟だけど、これからもよろしくね。いつか、みんなが誇れるような王様になってみせるから、だからずっと信じていて欲しい。それと困ったことがあれば私に相談してね」

「ハイッ!」

「ゼグトス、ここに設置型の転移魔法をおけたりする?」

「お安い御用でございます、ガルド鉱石を使用し半永久的に展開させます」

そして元エピネール王国から集会所の近くにつながる転移魔法が設置された。これで仮にここが危険に晒されてもすぐに駆けつけられるようになったのだ。その後しばらく感謝を伝えられて多くの人と話をした。

「じゃあそろそろ行くね。私にできることがあればなんでもするからまた言って」

「何をおっしゃいますか、ジン様はすでに十分すぎるほど私たちを助けてくださっています。ジン様、お気をつけて」

そしてみんなの歓声を背にエピネールを後にした。

集会所に戻ると休む間もなくすぐにボルがやって来た。

「ジン、魔力波でブルファンから急ぎのレンラク。近くのメスト大森林で凶暴化した魔物が多数出現したから助けてほしいってキタ。どうスル?」

「凶暴化か、そういえばバーガルとギルメスドはメスト大森林挟んですぐだったな。インフォルによればギルメスド王国の近くで凶暴化した魔物が大量発生したそうだ。おそらくその魔物が近くまで来たんだろ」

「分かった、すぐに行く」

「でもジンはダメ。王になった今もだけど、危険な場所に行かせるわけにはイカナイ。判断を下してくれるだけでジュウブン」

「で、でも」

「ジン、ここはボルの言う通りだ。お前はもうひとりの可愛い女の子じゃない、一国の王なんだ」

(こう言われると、何も言い返すことができない。少しでも私が危険に晒されるということがきっと今の状況ではこの国にとって大きなリスクになるんだ)

「そうであるぞ、我に任せておけ」

「いいや、お前もジンと私とここで留守番だ。お前が行けばことが厄介になる、それにそちらに戦力を割きすぎるのもよくないからな」

「じゃあボクたち傭兵とトキワでイク?」

「では俺も行く、トキワとの訓練だけでなく実践経験を積むことも重要だからな」

ということでリンギルも加わり、傭兵たちとトキワ、ボル、リンギルの三人がメスト大森林へと向かうことになった。

「······気を付けて。怪我したら······怒るから」

自分でも変なことを言っているのは分かるが、もどかしい思いでついそう言ってしまった。しかしみんなはそれを聞いてプッと笑ってしまった。

「よっしゃお前ら、怪我したら怒られんぞ。怒られたい奴は傷だらけで戦え」

そんなトキワの冗談交じりの言葉に皆は笑みを浮かべ、そのままメスト大森林に向かっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【草】限定の錬金術師は辺境の地で【薬屋】をしながらスローライフを楽しみたい!

黒猫
ファンタジー
旅行会社に勤める会社の山神 慎太郎。32歳。 登山に出かけて事故で死んでしまう。 転生した先でユニークな草を見つける。 手にした錬金術で生成できた物は……!? 夢の【草】ファンタジーが今、始まる!!

「完結」余命7日間の令嬢に転生したら旦那様が優しすぎた

leon
恋愛
ある日目を覚ますと余命7日の令嬢に転生していた。 その絶望感の中で旦那様の優しさに触れ、最後の生活を送っていく

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

処理中です...