ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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ボーンネルの開国譚3

三章 第七話 緊張の前日

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「ジン、いよいよ明日だな。緊張しているか?」

「うん、ちょっとね。でも楽しみでもあるよ」

ラルカやクシャルドの努力もあり、ボーンネルに住む各種族が集まり話し合う場がいよいよ明日に設定できた。

ボーンネル自体は剛人族の一件後各地での争いはかなり減少したため、種族間での軋轢は考えていたよりもなかった。そのためこの数日間、魔力波を使って龍人族や骸族の者たちと通信を図るなどしてあらかじめコミュニケーションをとっていたのだ。

「にしてもエルダン、おめえは真面目なやつだな。この数日間龍人族と骸族に謝りに行ってたらしいじゃねえか」

「いいや、当然のことをしたまでだ。それにジンさんに迷惑をかけるわけにはいかないからな」

「いや大丈夫だよ。わざわざありがとうね」

「ラルカがここの様子を観察しにきてたみたいで、気づけなくてゴメン」

「いいよ、次の日にはもう白状してたからね」

「ジンその服どうしたの? かわいい」

「ああ、これはラルカが作ってくれたんだよ。ほら、ここにパールの分も作ってもらった」

ラルカはこの数日間、話し合いの準備を進めるとともにずっと私たちの洋服を作成してくれていた。忙しいから無理しなくてもいいよ言ったが本人は好きでやっているようだったのだ。

「ジン、何も気負う必要はないぞ。わしや他の皆に頼ればよい」

「うん、ありがとう。でも大丈夫、みんなを信じてるから」

「ああその通りだ。私たちもずっとジンを信じている」

「それにしてもこんなにここが発展するとは思ってなかったよ。本当にみんな頑張ってくれたんだね。本当にありがとう」

「いいえジンさん、とんでもありません。私たち傭兵は貴方様に返し切れないほどの恩がありますので」

ここ数日、辺り一帯はさらに発展していた。ラルカが洋服店を開き、住居もだいぶと完成してきて生活水準はだいぶと高いものになっていたのだ。食料は輸入に頼らず、農作物や近くの海の幸や山の幸を適度に使っている。そのため、人数は増えたがみんなの働きのおかげで未だに食料に困っていることはないのだ。

「そういえばエルシアってもう来てた?」

「ああ、エルシアなら先ほど果樹園でリンギルたちと話をしていた。ここのすぐ近くに新たな商会を作ったようだ。商人の中でも有名なやつだからな、輸入はかなりあいつに助けてもらってる」

するとゼグトスが何かを思い出したように口を開いた。

「ジン様。元エピネール国ですが、どうやら隣国がようやくエピネール王の失脚に気付いたようです。ボーンネルの支配下に入ったという情報を回しジン様の御威光を示しておきました。勝手な真似をして申し訳ありません、今からでも事実を知ったものを殺すことが可能ですが、どういたしましょうか?」

「だ、ダメだよッ。でもありがとうね」

するとそこへタイミングよくエルシアが部屋に入ってきた。

「ジン様、お久しぶりです。相変わらず、お美しいお姿で」

「エルシア、久しぶり!」

エルシアは上品に深々と頭を下げた。

「ジン様に一つご相談したいことがあるのですがよろしいですか?」

「いいよ、どうしたの?」

「どうやら近頃、隣国からここで商売を行いたいと言う商人が多く出てきたのですが、許可証の発行でジン様のお名前をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「全然いいけど、どうしたの?」

「ジン様の名前はここ最近かなり有名になっております。そのため、商人たちを脅せば、こちらの言い値で許可証を売ることも可能なのです」

(さ、さすがエルシア)

「うん、大丈夫だよ。任せるよ」

「かしこまりました、ジン様の御心のままに」

エルシアは嬉しそうな顔でありながらどこか恐怖を感じさせるような雰囲気がした。
しかし同時に改めて金銭面をエルシアに任せられたことにホッとしたのだった。

そして明日に控える話し合いに若干の緊張感を感じつつ、いつものようにみんなで働いた。緊張もあってか、いつもより体に疲労が感じられ夕方ごろにはクタクタになっていた。そして疲れを癒すためにも今日の夜は食事の前にみんなと温泉に入ることにした。

「フゥ······」

温泉は人口の増加とともにさらに大きくなった。そして今では新たに露天風呂がつくられ綺麗な海を眺めながら温かいお湯に浸かれるのだ。

「えへへぇ」

パールは両手両足を大きく広げて幸せそうな顔をしながらぷかぷかと浮かんでいた。

(そ、それにしてもさっきからラルカがずっと見てくる)

ラルカは隠すような素振りも見せず顔を赤らめながらジッとジンの体をガン見していた。
ラルカの顔を見てニコッと笑ってみるとまるで意識が戻ったかのようにしてハッとしてものすごい勢いで湯の中に潜っていった。

「ジン、少し痩せたか? もっと食べないとダメだぞ」

「大丈夫だよ、多分運動してるからかな」

すると近くからブクブクと泡が出てゆっくりとラルカがすぐ隣に出てきた。
さっきよりも顔を赤くしたラルカはジンの顔をじっと見つめると何事もなかったようにスッとジンの隣に座った。

「ラルカ、洋服ありがとうね。とっても可愛かったよ、パールも気に入ってた」

「そ、そうでしたか。それは······良かったです」

(私、ジン様の前だとどうしてこんなにも緊張してしまうのかしら。こんな感じ経験したことがない······胸が苦しい)

「あ、あの······抱きついてもいいですか?」

思わずラルカは本音が溢れた。

「「—ッ!?」」

レイとクレースは驚きの顔を浮かべつつ、ゆっくりとジンの方を向いた。

「いいよ」

「—ッ! で、では、失礼····します······」

ラルカはジンが苦しくならないように後ろからそっと包み込むように抱きついた。

(ッ—!? なに、このシルクみたいにすべすべなお肌は、それに逝ってしまいそうないい香り)

ラルカはこの瞬間を噛み締めつつギュッともう一度抱きしめた。

「大好きです、ジン様」

「私もだよ」

(初めは、見た目に一目惚れしてしまったけど、この方の魅力は見た目だけではないですわ。一挙手一投足が美しくてそれでいて、かわいらしい。まるで守ってあげたくなるくらいに。それに、自分のことが嫌いになってしまうほどにお優しい。見るたびに、話すたびにさらに魅力が出てくる素晴らしい方です)

「ジン様、エルバトロス様は元よりジン様たちとの友好関係を望んでらっしゃいました。ですので何も心配は要りません、安心してくださいませ」

「うん、ありがとう」

(一生この時間が続けばいいのに)

そう考えつつ、ラルカはジンのことをしばらく抱きしめ続けた。
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