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ボーンネルの開国譚3
三章 第六話 王の資質
しおりを挟む同じ骸族であるクシャルドとコッツはあっという間に意気投合し、新たにできたバーで二人仲良く酒を酌み交わしていた。
「いやあ、一緒にお酒を飲んでくださるとは嬉しいものです」
「いえいえコッツ殿、私も光栄でございます。私よりも長き時を生きられている骸族の方とは初めてお会いしました。それにしてもここは良いところですな、全て皆様の努力の賜物と言ったところでしょうか。」
クシャルドは骸族の中でも長命な存在である。そしてそんなクシャルドは多くの骸族のものから一目を置かれる存在でもあった。しかしながらコッツはクシャルドなど比にならないほどの時を生きているのだ。
「ところで今日はどこへいってらっしゃったのですか?」
「ええ、今日は少しここの骸族がいるものたちのところへ行っておりました。ジン様へのほんの一部の恩返しですが、友好的な関係を築けるように説得していまして······」
「も、申し訳ありません! それは私も行くべきでした」
「いえいえっ! 何をおっしゃいますか。ジン様への恩返しなのです。コッツ殿に頼むわけにはいきません」
「そ、そうですか。ですが何でも相談して下さい、一人で抱え込むのはよくありませんから······それで、どうでしたか」
「······ええ、ここのものたちは古くからの知っておりますので素直に聞いてくれると思ったのですが、ご存知の通り骸族というものはかなり警戒心が大きい種族ですゆえ、少し時間を置かせるつもりです。私も流石に急な話であると思いましたので。ですが明日も明後日もジン様たちの素晴らしさを伝えて参りたいと思っております、そして必ず、ジン様をボーンネルの王へとなるお手伝いをしてみせます。······ですが少なくとも、ジン様はもう私たちの王ですね」
その言葉にコッツは感慨深そうに大きく頷いた。
「······そのように言って頂いて、私も嬉しいです。クシャルドさん、私はですね、ジンさんが生まれてきたその瞬間にこの見えない心臓に誓ったのです。この御方に私の持ちうる全てを捧げようと」
そして少し酔った感じのコッツはなぜか悔しそうな顔をした。
「コッツ殿······?」
「私は幸せ者です。ジンさんやゼフさん、クレースさんやインフォルさん、トキワさんにボルさん、たくさんの優しい方々に囲まれて本当に幸せです······ほんっとうに」
コッツ自分の感情を抑えるように持っていたグラスをギュッと握り締めた。
「私は、長い時を生きてきたつもりです。そして実に多くのことを経験してきました。ただどれだけ時が過ぎようとも、私の人生で一番の後悔というものは変わりません············私は、ジン様の両親を守ることが出来なかった」
「——ッ」
「その後悔があって、私は死んでも死にきれません。もし時を戻せるなら、このちっぽけな私の存在全てを賭ける覚悟など、とうにできています。あの時ほど、自分の無力さを呪った時はありません」
コッツは珍しく怒りの表情を顔に表した。だがその顔は何かを思い出すと、いつもの優しい顔に戻っていった。
「でもね、クシャルドさん。ジンさんは私たちに一切の暗い顔を見せませんでした。それどころか、私たちが暗くならないように私たちに笑顔をくださった。そして同時に生きる希望を与えてくださったのです。きっとジンさんの強さというのは力だけではないのでしょう。勇気、優しさ、思いやり、全てがあの方には備わっている。だから、種族関係なく自然とあの方に皆さんが近づいていく。仲間を信頼し、そして仲間に信頼される。王のあるべき姿というものがジンさんにはあるのです······おっと、少々長話をしてしまいましたね、申し訳ありません」
クシャルドはコッツの話を一言一言噛み締めるように聞いた。
(足りなかった。今までの自分が恥ずかしいほどに)
クシャルドは次の日もそしてその次の日も骸族の元へと行った。そして何度も、止められても頭を下げ続けたのだ。ただ一人の存在のために。長きに渡り築いてきた誇りなどもうどうでもよかったのだ。
(この数日間、あの方の姿を見てきただけで分かった。あの方は自然と皆を笑顔にさせ、皆に勇気を与えてくださる。見れば見るほど素晴らしさが溢れ出してくる。ならば私にできることは、あの方を信じ続けるのみ)
クシャルドの努力の甲斐あって、ボーンネルに住む骸族のものたちは納得してくれた。そしてその偉大な功績を誰にも自慢することなく、敬愛すべきジンのことを少しでも助けられたことにクシャルドは小さな笑みを浮かべたのだった。
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