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ボーンネルの開国譚3

三章 第四話 龍の里

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「どの国も今まで一切接点がなかった国ばかりだな。こんな辺境までどういう風の吹き回しだ」

手紙はどれも一度も交流のない国からのものであり、小国から大国まで様々だった。

「ちょっと見てみるね」

手紙の内容は、ボーンネルと友好関係を結びたいという言葉やぜひ一度お会いしたいと丁寧に書かれたものから、一度国に招いて話をしてやろう、王である我が直々に話し合いの席を設けてやろう、自分の国の支配下に入れてやろうといった強引で上から目線のものもあった。

「突然どうしたんだろ。誰か知ってる?」

「いいや、心当たりがないな」

「あっ、ブルファンからも来てる。近く話がしたいだって」

「まさかとは思うが、ゲルオードが何かしたのか?」

「確かに最近で考えるとしたらそれか。トキワ、ゲルオードに繋げられる?」

「おう、任せとけ············よしっ大丈夫だ、つなげるぜ」

(おはようゲルオード、今ちょっといいかな)

(おお、ジンか我も一度話をしたかったところだ。鬼幻郷の礼がまだ言えてなかったな、感謝するぞ。それで要件はなんだ、何でも話してみよ)

(ここに色んな国から手紙が届いてるんだけど何か知らない?)

(そうか、すまんが知らぬな。関係することといえば、近国にお前たちの功績を言いふらしたぐらいだが)

(それだよ)

(おいゲルオード、具体的には何を言ったんだ)

(お前たちが鬼帝ゲルオードを救ったと言っただけだ。我も鬼幻郷の問題はいずれ処理すべきことだと思っていたからな、事実を言ったまでだ。いずれ王となれば外交関係も複雑になってくる。経験することも大切であるぞジン)

(まあそうかあ。でもどうして全部こんな辺境にきたんだろ)

(ああ我がお前の家を調べ、部下に言いふらした)

(このストーカーッ!!)

(申し訳ありませんジン様、追いかけたのですが振り切られました。ですがご安心を怪しいものがいれば全員殺りますから)

(ハッハッハッ、あの時は本気で焦ったな。まあ良いではないか。ああ、そういえば閻魁は破壊衝動に呑まれたか? かなり凶暴化しただろ)

(うん、結構暴れてた。でもすぐ元に戻ったよ。やっぱり根はいい子なんだよ)

(フゥ、全く、あの時お前が入ればだいぶと楽だったであろうな。やはりお前に任せて正解だった。まあ取り敢えずは一刻もはやく国をまとめ上げ正式な王となれ、そこが始まりだ)

(分かった、ありがとう。じゃあまたね)

「あいつだったか、閻魁と似てるところがあるな」

「でもどう返そう、王様でもないのに何か変だよね」

「取り敢えずこの上から目線の国は無視だな、腹が立つ。会えば殺してしまいそうだ」

「そ、それは確かにダメだね」

「じゃが先に龍人族の問題を解決するのが早そうじゃの」

「そうだね、建国も忙しいけどまずはそれかな」


一方、ボーンネルのジンたちの住む場所から北東、ここには多くの龍人族が暮らしている。
ボーンネルの国の中でも龍の里と呼ばれるこの場所では魔力濃度が非常に高く、龍人族は日常的に龍化した巨大な姿をしている。
そのため普通の人間がその場に立ち入ると魔力濃度の激しい差で最悪の場合絶命してしまうことまであるのだ。
この龍の里はエルバトロスという者が長きに渡り治めている。そして現在、エルバトロスは悩んでいた。

「うむ、どうしたものか······」

「どうされましたか? 鱗が剥げてきたのは仕方ありませんよ、歳ですから」

「違うわ、そんなことで悩んでおらん。問題は南側の存在だ。予想よりも力が強大すぎる、もしここに攻め込まれでもすれば危ういかもしれん。できれば友好的に行きたいものだが······」

「一度話し合いだけでもしてみませんか? その場合、事前に私が偵察に向かいますが」

「そうだな、では頼むぞラルカ」

「了解」

ラルカと呼ばれるその女の龍は龍の里から出ると人型の姿に戻った。艶やかな紫色の髪の毛をしたラルカは芸術品のような美しい容貌をしている。その顔には笑みが浮かび、久しぶりの人間との交流を少し楽しみにしていた。

(でも人間と会うのは本当に久しぶりね、怖がられないかしら)

そしてラルカは龍人族であることがバレないように大きなローブを着てジンたちのいる場所へと向かっていった。
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