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ボーンネルの開国譚3

三章 第二話 ジンとお酒

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「美味しい! こんな美味しい飲み物飲んだことないです!」

エルムは果樹園で飲んだ初めてのジュースに目を輝かせほっぺに手を当てた。

「それはよかったですわ、エルムちゃんたくさん飲んでいってくださいね」

「はい! ありがとうございます」

するとそこへパールとガルを抱えたジンとレイが入ってきた。

「ジン様! ようこそいらっしゃいました。お待ちしておりましたわ」

「ごめんね忙しい時に。それとこっちはレイだよ」

「いえいえジン様が迷惑だなんて、お顔を見れただけで満足です。初めましてレイさん。これからよろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼む」

「ジンおいで。レイ、お前姿が見えなかったがまさかジンの家に侵入とかしてないだろうな」

ギクッ—

「お前その反応······」

「いや、まあお前には関係のないことだろ。私は満足したからなそれで構わない」

レイは吹っ切れたようにしてそう自慢げに話した。

「クレースも私の家によく侵入してるでしょ」

「二人ともわるい、ジンはわたしの」

「あはは、まあとりあえずレイは何を飲む?」

「そうだな、私は······」

レイはメニューを見て固まった。そして聞いたことのないようなメニューの数々に思考が停止し、頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。

「そのぉジンと······一緒のもので」

「ガルとパールはミルクでよかった?」

「うん、そうする!」

「バゥッ!」

「かしこまりました、少々お待ちを」

「みんな宴の準備楽しそうだね、私たちも飲んだらすぐに手伝いに行こっか」

「そういえば、エルムとレイは今日どうする? 多分今日は宴があるからまだ家が完成できないと思うんだけど·。よかったら私の家に来ない? ちょっと狭いんだけど」

「ああ、もちろん!」

「いいんですか! 私、ジンお姉ちゃんの家がいいです!」

「では私もそうする、レイが何をするか分からないからな」

「お待たせしました、アップルジュースとミルクですわ」

「これが、ジュース······」

レイは初めて見るジュースに不思議そうな顔をした。生まれてからジュースというものに接点がなかった上に今までお酒すらも飲んだこともなかったのだ。そして恐る恐る口に入れたレイはガッと目を見開きゴクリと飲み込んだ。

「おいしい·····」

「よかったぁ、美味しいよねアップルジュース」

「ウフフ、気に入って頂けてよかったですわ」

「宴の準備、夜までに間に合いそうかな?」

「ああ、ゼフも張り切っていたからな。同時並行でボルたちが建設も行なっているようだ」

「ん? エルムどうかしたの?」

エルムはもじもじと何かを言いたそうにして下を俯いた。

「何でも言っていいんだよ、私にできることなら何でもするから」

「その、私も料理をつくってみたいです。私もジンお姉ちゃんみたいに料理ができるようになりたいです」

「ほう、いいじゃないか。料理担当といえばヴァンのところに行くか」

「そうだね、じゃあ取り敢えず行こっか。ありがとうね、リエル、ルース」

「はい、いってらっしゃいませ。また来てくださいね」

果樹園を出た後、外は盛り上がり活気に湧いていた。宴の準備としてヴァンとコッツを中心として大量の食べ物を作るグループ、ボルを中心として建設作業をするグループ、エルダンとガルミューラを中心として会場づくりをするグループに分かれて各種族が関係なく準備を楽しんでいた。

「······そういうことなんだ、コッツ」

「分かりました、エルムさんですね。私もまだまだ未熟ですがよろしくお願いします。ではこちらでやってみましょうか」

「じゃあ私たちも一緒にしよっかな」

そこに疲れたような顔も見せずグゥーっと伸びをしながらヴァンが集会所から出てきた。

「そういうことなら頼むぜ。さっきトキワの兄貴とリンギルが狩りに行ったからもうちょっとで戻ってくるはずだ。」

「あれ、ボル何つくってるの?」

「この際だから公共施設も整えておいたほうがいいかなとオモッテ。広場に噴水と公園をつくっテル。宴の準備はヒュード族に任せテル」

「おーいッ! 持ってきたぜヴァン!」

するとそこに狩りを終えたトキワとリンギルが戻ってきた。トキワの近くには巨大な牛や魚だけでなく、さまざまな山の幸が乗った巨大な荷車があった。

「ありがとよ兄貴、リンギル。よし! じゃあ早速やるか」


その後全員で食事の準備をし、待ちに待った宴を迎える。

「みんな準備ありがとう! みんなお腹空いてると思うから思う存分飲んで食べて楽しんでね! それじゃあ······」

「「カンパァーイッ!!!」」

乾杯の音頭とともに辺りの盛り上がりは最高潮に達する。
するとどこからともなくヒューッという音とともに何かが夜空に打ち上がる。

その音で皆は空に目をやり次の瞬間、巨大な音とともに夜空に美しい花火が煌めいた。

「わぁ! きれい······」

「ゼフか、姿を見ないと思ったら······さすがだな」

「ガハハハハッ!!! 美味いぞ! 我の舌に合うな!!」

そんなことは関係ないとばかりに閻魁は食事にがっついていた。

「閻魁、それはエルムが頑張ってつくったからちゃんと味わって食べなよ」

「うむ、そうだったのか。やるではないかエルム」

それを聞いて閻魁はゆっくりと噛み締めるようにエルムの作った魚料理を食べた。

「そ、そうですか······嬉しいです」

エルムは恥ずかしそうに顔を赤らめながら美味しそうに自分の作った食べ物を食べる閻魁たちに幸福感を覚えた。

(わたし······)

「レイ、どう? 楽しいでしょ?」

「ああ、祭りというものは聞いたことがあったが······その、楽しいな」

「よかった。でもレイはお酒飲めるんだね、二杯目?」

「ああ、これはお酒だったのか。てっきり昼に飲んだアップルジュースだと」

レイは気にせずさらにグビグビとお酒を飲んでいった。

そんなお酒を飲んでも全く平気なレイとは対照的にガルミューラは酔い潰れ、いつものクールなキャラがすっかり壊れていた。

「おぉい、トキうぁもっと飲めッ! まだまだ宴は始まったばきゃりだぞッ」

「ああそうだよ、まだ始まったばかりなのになんでお前はこんな酔ってんだよ」

「あぁあ? 私の、どこがよってぇるっていうんだ」

「それが酔ってるんだよ」

「ごめんトキワお兄ちゃん、お姉ちゃんはお酒がとっても弱くて」

「俺は止めたんっすよ、トキワさん! あとは頼むっす!」

スタンクは我関せずといった顔でニカッと笑うとどこかへいってしまった。

「はぁ、おいおいまじかよ。お前それ何杯目だ?」

ガルミューラが右手に持っていたグラスにはまだ半分以上たっぷりとお酒が入っていた。

「············」

「お姉ちゃんまだ一口しか飲んでない」

「何で飲んでんだよッ!!」

「だめぇ、なのか?······」

「おいおい、今度はどうしたんだよ」

ガルミューラの酒癖の悪さにため息を吐きながらもトキワはその後もだるそうに付き合った。そんな二人の姿をみてミルは笑顔でその場から離れたのだった。



「クレース、何をしとるんじゃ?」

花火を打ち終えたゼフはインフォルとともにお酒を飲み少し顔を赤くしながらクレースにそう聞いた。クレースは何やら鼻歌を歌いながらモコモコのパジャマを畳んでいたのだ。

「今日はジンの家に泊まるからな、そういえばジンは······ あっいたいた」

クレースがジンを見た時ちょうどジンは何かを口にしていた。

「おいクレース、ありゃあ······」

ゼフはジンの持っていたグラスを見て「あっ」という顔をする。

「ジンちゃん! それは!」

ジンはその飲み物を口にすると一瞬だけ顔がポッと赤くなった。

「ジン··········? どうしたんだッ!?」

するといきなり、ジンは下を俯いてうとうとし始めた。そしてゆっくり顔を上げると目の前にいたレイの胸に向かってバッと抱きついた。

「ッ!!?」

「レ~イ~だっこぉ」

「「!!???」」

いきなりのジンの行動に周りの視線が一瞬にして集まった。クレースとパールに加えてゼグトスが大慌てでその場に駆け寄っていった。

「もっとギュッてしてぇ」

「ああああ、ああわわわ、分かった。こうか」

「レイ、もしかしてジンの持ってるそれは、酒か?」

「いいい、いやっ、たたた確か普通の」

顔を真っ赤にしながらレイは自分の手に持ったグラスを見た。

「あっ、いいいい、入れ替わってる!」

「あ、クレースだぁ。クレースぅ、だっこしてぇ」

それを聞くなりクレースはバッとジンを抱きかかえお姫様抱っこをした。

「もうねむたい、でもとなりでなでなでしてくれないとねむれない」

((かっ、かわいい))

「あぁあかわいいなぁジン、そうかぁ眠たいかぁ。一緒に寝ようなぁ。その前に一緒にお風呂に入ろうなぁ~よしよし~」

デレッデレになった顔でクレースはジンの頭を優しく撫でた。

「えへへぇ、うん、しょうする」

そしてクレースの胸に顔を埋めるとジンはそのまま眠ってしまった。

「クレースさん、お願いです! もう少しだけ見させてください!!」

「おうジンは酔うと随分変わるのだな。ガハハハ! つまりお酒の強さは我の方が上ということだな!!」

「ジンお姉ちゃん、かわいい」

「わたしもジンにあまえてもらう」

「お、おいクレース。今日ジンは私と寝るんだぞ」

「フッ、早い者勝ちだろ。では私はこれで、後片付けは頼んだぞ」

「リョウカイ。ゆっくり寝させてアゲテ」

そしてクレースはジンを抱きかかえてレイとパールと一度集会所の温泉まで戻っていった。

「ジンは相変わらずお酒にめっぽう弱いのうインフォル」

「せやなあ、ほんであの状態のジンちゃんは意味わからんぐらいかわええなあ」

一同は幸せな気分になりながらも宴は夜通し続いたのであった。
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