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ボーンネルの開国譚3

三章 第一話 宴の準備

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(やあゲル、久しぶりだね。元気かい?)

ジンたちが帰った後、ベインは久しぶりにゲルオードに妖力波を飛ばした。

(おう、ベインか! 久しいな、数百年ぶりか。お前がこちらに連絡できるということは、閻魁が力を取り戻したのか)

(うん、まあ色々あったんだけどね、これで僕は久しぶりに自由の身さ。それよりも、閻魁の仲間たちはすごいのばっかりだね。流石の僕でも驚いたよ。ここが無事だったのは彼女たちの存在が大きいね)

((やってくれたか······))

(そうか、後で感謝を伝えておく。それで、お前はこれからどうするつもりだ? 長い間その場所に縛ってしまったな)

(まあ取り敢えずいくつかやりたいことがあったからね。一つ一つやっていくよ。まあ案外あんまりないんだけど。それで全部終わったら······やりたいことが見つかったからそれをするよ)

(そうか、またいつでも会いに来い古き友よ)

ゲルオードは妖力波を切ると部下を呼び出した。

「お前たち、これから我が伝えることをこの国の民に加え、バーガル国及びその周辺国に伝えろ······」

「ハッ! 了解致しました!」

ゲルオードの言葉を聞くと、部下たちは慌てた様子でその場から出ていったのだった。


そしてボーンネル。

ギルゼンノーズから転移魔法を使い、ジンたちはその日の昼頃にボーンネルに辿り着いた。

「ッ!」

それを感じ取ったゼフは立ち上がり、エルフや剛人族たちもそれに続いて魔法陣が展開された場所に集まった。
一同は帰ってきたジンたちに喜びの歓声を上げ、騒ぎ出す。

「ただいま、みんな!」

「おかえり、ジン」

ゼフは安堵の表情とともに笑顔で全員を出迎えた。

「すげぇ······」

傭兵やヒュード族は辺りを見回して目を輝かせた。
エルムは不思議そうに周りを見渡し少し怖そうにしてジンの後ろに隠れた。

「おう、随分仲間を引き連れてきたな、歓迎するぜ! 全員腹減ってるだろ、俺が飯作ってやんよ」

「そうですね、私も粉骨砕身頑張らせていただきます」

「うん。頼むよ、ヴァン、コッツ」

「エルダンありがとう、順調みたいダネ」

「おうよボルさん。この設計図のおかげで剛人族の住居はもうバッチリだ。それとインフォルさんと協力して連れてくるって言ってた人らの住居づくりにも取り掛かってるぜ」

エルダンの言う通り辺りには多くの建物が建てられ、現在は街道の整備と新たな住居の建設が行われていた。

「ガハハハハッ!!! ならばまた我の出番だな! 任せろ、この閻魁が一瞬にして終わらせてやろう!」

「まあ待て閻魁、折角だ。これだけの人数がここに住むんだから交流の意味も踏まえて今日は宴にするっつうのはどうだ?」

「いいね、そうしよう! じゃあみんな今日は取り敢えず宴にしよう!!」

巨大な歓声とともに皆は挨拶を交わしながら宴の準備をすることにしたのだった。

広場の近くは宴の準備で活気が溢れ、皆は楽しそうに盛り上がる。

そしてそんな中、ジンの家の前には一つの人影があった。


「ここが、ジンの住む家······」

レイはジンの家の前に立つと周りに誰もいないことを確認してササッと忍び込むように家の中に入っていった。
家の中に入ると、すぐに心地のいいあたたかさとともに落ち着くいい匂いがスッとレイの鼻に入ってくる。
じっくりと家の中を見渡しながらさらに奥へと入っていき、レイはふかふかで飛び込みたくなるようなベッドを発見する。

「ここで、ジンは······」

ゴクリと息を呑みその場に立ち止まる。

(いいや、ダメだ。落ち着け、私。理性を保て、理性を····)

レイは逡巡し、しばらく時が経つ。

「フゥ、久しぶりの家ッ············」

帰ってきたジンは幸せそうな顔で自分の枕に顔を埋めながら頬をスリスリしているレイの姿を見つける。

「ジン~」

満ち足りたような声を出すレイは次の瞬間、硬直し肩をビクリっと震わせた。

「·····ッ!?」

嬉しそうに顔を埋めていたレイは誰かの気配を感じると恐る恐る首を回してゆっくりとジンの方を向く。
二人は見つめ合い、その場に静寂の時が流れた。次の瞬間、レイは顔を真っ赤にして、バッとベッドから起き上がった。

「ちっ、違うんだジン!! 私は決してそういうつもりは······あったけど、そうではなくて。いい匂いだったからつい」

「しょうがないなあ、まあクレースもよくやってるんだけど。そうだ、もし喉が渇いてるなら一緒に果樹園に行く? すごいおいしいジュースを出してくれるんだ。 今エルムとクレースが一緒にジュースを飲んでるんだけど」

「そ、そうだなそうしよう。それと気になったんだが······宴というのは一体何をするんだ? すまない、あまりよく分からないのだが」

「そうだったんだ。宴っていうのはみんなで一緒に食べ物を食べたり飲み物を飲んだりしながらおしゃべりをしたりして楽しむの。きっと楽しいよ」

「そうなのか。その、手伝わなくてもいいのか?」

「うん。今宴の準備は閻魁たちが張り切って頑張ってくれてるんだ」

レイの腕を取ったジンは外へと走り出す。

「これから、もっと楽しいことが待ってるよ。だってもうレイは何にも縛られてなんていない」

笑顔で言うジンの言葉を聞いてレイの口角は自然に上がった。そして抑えきれない感情はレイの胸を埋め尽くし全身を満たしていく。

(そうか、私はもう······)

「うんッ!」

その顔には太陽のように眩しい満面の笑みが浮かんでいた。
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