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ボーンネルの開国譚2
二章 第三十八話 悪魔の武器
しおりを挟む「フンッ、人間風情が調子に乗るなよ」
一度その場から離れたイルマーダは空に止まりジンのことを見下ろした。しかしその言葉とは裏腹にその目はジンに最大限の警戒を向ける。
「ガル、レイお姉ちゃん、シキさんとへリアル達を安全なところまで運んで。それと治癒魔法もお願い、特にへリアルは重症だからありったけの治癒魔法で」
「待ってくれッ、俺は、まだ戦えるッ」
地面に刀を突き刺し、なんとか立ち上がろうとするシキの体はすでにボロボロで意識もはっきりとはしていなかった。
「お前、この身体······」
レイはシキの体を見てあることを確信する。
「エルムはあなたに、お兄ちゃんに会いにきたんだよ。勇気を出したエルムのためにも今はじっとしておいて」
「ジン、しんどくなったらすぐに私と変われ。中断してすぐそっちに向かう」
「ありがとう。でも絶対そっちには危害を加えさせない」
「随分と舐められたものだな、人間。我は10年前から魔力を溜め込んでおったのだ。進行するタイミングで邪魔が入ったが、そやつも今は虫の息だからな。それにシキと言ったか、馬鹿なお主が匿っているもの達の魂もいずれ我の糧となろう。安心して死んでしまえ」
(やっぱり、そうだったんだね)
「でも残念だね、私の仲間がすでに手は打ってるから遅いよ。ここにいる誰も、もう傷付けさせない」
「どういうことだ、まさかすでに全員移動させたとでも言うのか」
「そうだよ、そっちはもう詰んでる」
「······だが、残っている全員を皆殺しにして後で吐かせれば問題ない。圧倒的なまでの破壊の力をお前に見せてやろう。その余裕そうな顔が恐怖に染まるのは見物だな」
するとイルマーダは不適な笑みを浮かべてレイのハルバードよりもひと回り大きな鎌が右手に出現させる。
その大鎌は不自然に歪曲し、武器でありながらも不気味な鼓動を打っていた。
「喜べ、人間。我が「ネージ」を持って恐怖と絶望をその魂にうえつけてやろう」
「ネージ」と呼ばれるその『意思のある武器』はイルマーダからの破壊衝動を得て、さらに邪悪さを増していく。
そしてイルマーダは「ネージ」についていた真っ赤な血を舐め、ネージに更なる破壊衝動が注ぎ込まれていく。
(ロード、あれは流石に武器が可哀想だよね。······きもちわるい)
(うん、ジンなら構わないけどあの悪魔にされるのはちょっと)
そんな二人の会話を知る由もなく、イルマーダは片手で大鎌を軽々と持ち上げ身体全体に破壊衝動を纏わせた。
「行くぞ、ゴミどもが」
大鎌のリーチを生かしてネージの鋭い刃先は一瞬でジンの近くまで近づいてきた。
「チッ」
ジンはネージよりも遥かに小さい剣で正確な位置に刃を重ね、威力を殺す。
ロードとネージは両者互いにせめぎ合い、そんな中イルマーダはニタリと口角を上げた。
「ハイバーデン」
イルマーダは武器に魔力を流し込んだ。ハイバーデンは時間ごとに武器の重さを上げるもので、このようなせめぎ合いの場面においてかなりの効果を発する。そしてイルマーダは魔法の発動と共に急激に力を込め、畳みかけるようにジンに圧力を加えた。
「——ッ! なぜ動かない、それに······ 」
イルマーダは逆に自分の方が押し込まれているのを感じた。
「エルク・レヴェルス(効力反転)」
イルマーダのハイバーデンの効果は反転し、時間と共に大鎌は軽くなっていく。
(ジン、これって)
(面白い魔法ができたから覚えとけって、トキワにこっそり教えてもらったんだ)
「小癪なッ—!」
イルマーダは後ろに飛び立ち大きく息を吸って、喉元に真っ黒な魔力を溜めた。
「バル・インバース(破滅の声)」
耳をつんざくような雄叫びが空気を震わせ、辺りを萎縮させる。
(ロードッ!)
「ッ—!?」
空気を伝わり辺り全体に響き渡るはずのその音はロードによって切り取られ一瞬で霧散する。
一度は驚いたが、すぐに切り替えイルマーダはさらに高度を上げた。
「足らんッ! もっとよこせ、破壊衝動!!」
その声に応じてイルマーダの魔力はさらに渦を巻いて禍々しく進化していく。
「グァああああアアアッ!!!!!」
激しい雄叫びを上げたイルマーダの周りを再び黒いオーラが包み込んだ。
そのオーラを取り込みイルマーダの体は光沢を帯びた。
「あいつ、どこまで進化する気だ」
全てのオーラを取り込み終わったイルマーダは先程までとは違い、ひどく静かで魔力も落ち着いていた。
「認めてやろう、人間。確かにお前は強い。破壊衝動を得た我の持ち得る全てでお前を壊す」
空は不気味な雰囲気を醸し出し、雲が不気味に渦を巻く。
そしてイルマーダの魔力増加は止まることを知らず、時間と共に増加していった。
そんな絶望的な光景をジンは静かに見つめていた。
「久しぶりに使おうか、ロード」
ジンはゆっくりと意識を集中させる。
そして目を閉じた後、ゆっくりと開いたその瞳にはまるで全てを呑み込んでしまいそうな空間が広がっていたのだ。
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