ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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ボーンネルの開国譚2

二章 第三十五話 真の正義

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激情の念ととも放たれたそのブレスは空気に重たくのしかかりゆっくりとジンに近づいていった。

「ジンッ!!」

「ロード・オブ・ヴォイド(虚無の支配者)」

ブレスは吸い込まれるように虚無空間に消えていき、すぐにその一撃は吸収された。

「ほう、その魔力量は飾りではなかったか、ならば」

するとヘリアルの尻尾は鞭のようにしなり、その先は剣のように鋭く変形し意思を持つように動いた。
その尻尾は剣のようにジンを襲い、轟音を響かせてロードとぶつかり合った。

くらってしまえば、一瞬にして即死させられるほどの威力と普通の人間の動体視力では目で追うことさえ到底かなわない一撃一撃をジンは正確に裁いていった。

(あの時のヘルメスよりも皮膚が硬いし、一撃一撃が鋭い)

しかしその光景を目の当たりにして一番驚きを隠せないでいたのはレイであった。

(成長していたと思い込んでいた自分が恥ずかしい。私ならば数秒ももたない。今の私ではジンの足元にも及ばない。この戦いは、異次元すぎる)

その強さに驚いていたのはへリアルもであった。ヘリアルは尻尾での猛撃に加え、次の行動を予測してブレスでの迫撃を同時に行っていた。しかしどの攻撃も致命傷は与えられず、尻尾とブレスを連携させた攻撃には距離をとって回避され、巨大な翼から繰り出される暴風も何故かジンのことを空中に浮かせることすら叶わなかった。

(俺が今まで磨いてきた力ではこのような小さき人間に勝つことも出来ないというのか)

ヘリアルの攻撃パターンは徐々に単純になっていき、逆に押し込まれていった。

「もうやめよう。この戦いは意味がない、ヘルメスもきっとこんなこと望んでなんかない」

「お前にッ! お前にあいつの何がわかるッ——!!!」

ヘルメスの雄叫びにジンはゆっくりとして前を向いて答えた。

「分かるよ······私がヘルメスを倒したから」

「——ッ!?」

その言葉を聞いてヘリアルの頭は一瞬真っ白になった。ただその場でピタリと動きを止めたのだ。何故か空っぽになったその頭の中で一番はじめに出てきたのは怒りの感情でもなく憎しみの感情でもなく、目の前に立つ少女に対しての感謝の気持ちだった。そしてゆっくりと何かを思い出す。

(俺は力という名の正義を求め続けた。俺が力は求めたのは、アイツを、ただ一人の残された家族を守るため。ただアイツが生まれた時から俺の目的はただ一つだった。なあ俺達は馬鹿だと思わないか、ヘルメス。俺は正義のためとぬかしてお前を置いてただ力を求めた。そしてお前はいつの間にか俺が求めたように貪欲に力を求めた。ただ一番の馬鹿野郎は俺だったな。俺は兄として、暴走するお前止めなければならなかった。······ならば)

へリアルは人型の姿に戻り、背中に携えていた剣を取り出した。
その顔は何かを決心するようでその瞳にもう光はなかった。

「正義が善だとしても、大切な存在を守れなければそんなものは等しく悪だ」

そしてへリアルは剣を自分に向けた。

「へリアル! お前何をしているッ!!」

レイの言葉にヘリアルはなにも反応することなくただ一度空を見つめた。

(俺も、お前の元に。たとえ地獄でもお前となら構わない)

そして次の瞬間、グッと剣を強く持ち自分の心臓に向かって剣先を近づけた。

「——ッ!!」

しかしその剣は弾き飛ばされ、カランカランっと音を立てて地面に落ちた。

「後悔してるなら、生きてヘルメスに会いに行けばいい。またヘルメスを一人にさせる気なの」

「······どういう、ことだ」

ヘリアルは驚いた顔でジンのことを見つめた。

「確かに、ヘルメスは一度死んだ。でも、ヘルメスはウィルモンドで死んだからある人に生き返らせてもらったの」

「ッ······」

「ちゃんと心を入れ替えて、今はウィルモンドのニュートラルドで意思たちのことを守っている。
それにヘルメスは言ってたよ。いつか、面と向かって兄に謝りたいって。もう一度会って昔みたいに切磋琢磨したいって。ヘルメスは知ってたんだよ、お兄ちゃんが自分のために誰よりも力に執着したことを」

ヘリアルの目からは自然と涙が流れていた。そして抑えきれない感情を外に出すように涙は頬を伝わりゆっくりと落ちていく。

「······そうかッ、あいつは、生きて、俺のことを思ってくれていたのか」

へリアルは膝から崩れ落ち、涙が溢れないように空を見つめた。

「もう大丈夫だから、二人でまたゆっくりしゃべればいい。きっと今なら素直になれるよ)

「そうか、俺が間違っていた。俺は弟にッ——」

しかし、ヘリアルは何かをいう前に口から真っ赤な血を吐いた。

「へリアルッ!!」

突然、ヘリアルの胸を何かが貫き、ヘリアルは前に向かってバタリと倒れ込んだのだ。
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