ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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ボーンネルの開国譚2

二章 第三十三話 破壊衝動

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ヘリアルは人型の姿で空中に止まり、ジンと閻魁の様子を観察していた。

(今の奴は完全に破壊衝動に呑み込まれている。おそらく精神に語りかけることは不可能だろうな)

閻魁はただひたすらに暴れ回り、あたりの目に入ったものを次々と破壊していた。
その姿はまさに災厄そのものであり、かつてギルゼンノーズで破壊をし尽くした”閻魁”がそこにはいたのだ。

(これは私の知ってる閻魁じゃない。本当の閻魁は子どもっぽくて、抜けてて、それでいて真っ直ぐで優しい)

ジンは小さな体で巨大な姿の閻魁に近づいていく。

(ん?······気のせいか?)

その時、へリアルは妙な違和感を感じた。
ヘリアルの下で暴れ回る閻魁は無差別にありとあらゆるものを壊していた。
しかしながら閻魁はゆっくりと近づいていたジンの周りをまるで故意に避けるようにして移動していたのだ。

(やはりあの娘が現れてから明らかに動きが鈍っているな。破壊衝動に閻魁の意識が干渉しているというのか。
 だとすれば、厄介だな······それにあの人間)

ヘリアルは高度を下げてジンの少し上の辺りまで下がってきた。
ジンを見るその目からは一切の油断が感じられず、完全なる警戒体制をとったへリアルは一瞬のうちに右手へ魔力を集中させた。そしてその魔力は燃え上がるように赤く、激しく渦を巻く。

「ジークフレア」

へリアルから放たれたそのジークフレアはまさに太陽そのもののように辺りの温度を上げて時間と共に巨大化していった。洗練されたへリアルの魔力はジークフレアの魔力密度を最大限まで引き上げ、空気を揺らす。

「よいのかレイ? あの状況ではお主が大事そうにしていた小娘は死ぬぞ」

しかしレイはさらに距離を詰めてトウライの体制を崩す。
巨大なハルバードとレイの剛力にトウライの刀は弾き返され、トウライの腕に強烈な痺れが走った。

「····グハァッ!」

さらに体制を崩され隙ができた脇腹に重たい拳が繰り出され、トウライの体は軽々と遠くまで吹き飛ばされた。

「ジンが任せろと言ったんだ。舐めるなよ、私の全てであるあの子を」

へリアルから放たれたジークフレアは轟音とともにジンへと向かっていった。

(この魔法は······)

しかし、魔法がジンに放たれたタイミングで突然閻魁はピタリと動きを止めた。
ジークフレアをじっと見つめた閻魁は地面を強く蹴ってその巨体は空を飛んだのだ。

「なっ」

閻魁は空中で拳に妖力を纏わせる。そして目の前のジークフレアとは比にならないような強大な妖力を纏ったその拳は最も簡単にジークフレアを掻き消した。

閻魁は爆風と轟音とともに着地し、その目はすぐ前にいたジンのことをはっきりと捉えた。

「ガァアアアアアあああッ!!!!」

閻魁の中では破壊衝動と元の意識が混じり合い反発していた。
両者は拮抗し、ひどくけたたましいような叫び声とともに閻魁はその場で悶える。

苦しそうに顔を歪め、その感情を発散させるように閻魁は再びその巨体で暴れ回った。

しかしジンは暴れ回る閻魁の足元まで近づいて、足に触れた。
すると閻魁は落ち着いたように再び動きを止め、ゆっくりと下にいるジンを見た。

「帰るよ、閻魁」

その言葉に閻魁は呆気に取られたような顔を見せた。その瞬間、閻魁の身体から何かが一瞬姿を現し、刹那のうちに空気中に霧散したのだ。

そして閻魁は下を俯き、ニヤリと口角を上げた。

「······我、ふっかぁーつッ!!」

「おかえり、閻魁」

「おう、ジン。すまんな少し破壊衝動のやつを抑えるのに時間がかかった」

「なんじゃとっ!? 破壊衝動じゃぞ!」

「どうした、トウライ。だから舐めるなと言っただろ」

「トウライ! さっさと終わらせろッ!」

その叫びとともにヘリアルは龍化する。鋭い牙と黒く硬い爪を生やし、漆黒の翼を羽ばたかせたへリアルはおぞましいほどの雄叫びを上げた。

「止む終えん。龍人族最強たる龍化の力を見せてやろう」

(やっぱり、そうだ)

その時、ジンはあることを確信したのだった。
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