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ボーンネルの開国譚2

二章 二十一話 古き災厄

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「誰か来るな、やっぱり気づかれたか」

鬼の社にいるベインはヘリアル達がこちらに近づいてきたのを感じ取っていた。そして同時にいち早く危機を感じたベインは神棚の封印をさらに強める。しかしながら鬼の社が存在するその岩山は鬼幻郷の他の場所と全く関わることなく、ただ独立してそこに存在しており、それに加えてベインがカモフラージュを施していたため正確な位置を把握していない限り辿り着くことは不可能に近いのだ。

だが感知部隊との連携により、ヘリアル達は魔魁玉の妖力の位置を完全に特定していた。
そしてアイルベルはゼグトスと同じく転移魔法を使用し、鬼の社のすぐ近くにまで転移をする。

「おそらくこのあたりかと」

「······誰だ、あやつは」

「警戒しろ、かなりのてだれじゃぞ」

「やあ、よくここがわかったね」

ベインはヘリアル達が鬼の社に入り込む前にその目の前に現れた。
ベインは数百年振りに少し興奮して客人を笑顔で迎える。


「お前達、10年前にここに来て悪さをしてる奴らだろ?僕がここから離れられない間、好き勝手やってくれたみたいだね。

············僕結構キレてるんだよ」

その言葉を言い終えたとき、ベインの笑みが消える。
それと同時に底知れぬ恐怖を感じさせるような虚ろな貌を見せた。

ベインの強烈な圧から危険を感じ取ったトウライはその刹那に抜刀する。
そして老体とは思えないほどの動きで、音も立てず、一瞬にしてベインとの距離を詰める。
軽く片手で持った刀は、ただ一つの剣筋をなぞるようにベインの右腕を捉えた。

「!?······」

しかしトウライのその刀はベインの生身の腕を切り落としすことはなく、刀同士がしのぎを削るような激しい音を立てて火花を散らした。
そしてトウライは腕に触れる刀を強く前に押し、反動で後ろに引き下がった。

「やはりバケモンじゃな」

「この先には行かせないよ」

「いいえ、通して頂きますよ、グラビティ・プライア」

アイルベルが前に手を翳すと四本の黒い柱がベインを取り囲むように配置された。
柱は互いに共鳴しあい、真っ黒な空間をつくりだす。
そして柱の中では強力な重力場が発生し、自身の体重の何十倍もの重みがベインを襲ったのだ。

「熟練度が足りないね」

「なに?」

しかしその強力な重力場をものともせず、アイルベルに向かって同じように手を翳した。

「グラビティ・プライア」

今度は十本の柱がその四本柱とは比べ物にならないほどの魔力を帯びてアイルベルを取り囲む。

「グハアッ!」

ベインのグラビティ・プライアにアイルベルはたまらず身体全体が地面に押し潰される。

「ー確かに流石と言ったところか」

「······!」

ベインがアイルベルへの攻撃に意識を向ける中、ヘリアルは重力場の中でほんの少し動きが鈍るベインの後ろを取った。

ヘリアルは腕に力を込め、柱の中にいるベインに体全体の重さを乗せた一撃を繰り出した。

しかしベインは一瞬でその存在に気づき、右腕で防御をとる。

「グッ」

だがほんの一刻対応が遅れたベインは横腹にヘリアル重たい一撃を食らう。

「どうした、動きが鈍ったぞ」

ベインはその重力場から一度抜け出すが、トウライがベインの上空から追撃を仕掛ける。

「あまり調子に乗るなよ」

しかし、トウライを風圧で吹き飛ばし、一度三人から距離をとった。

(でもちょっと面倒だな、一人ずつならなんとか······ん?)

その時、ベインはこの場に近づいていたある一つの存在に気が付いた。

(一か八か······まあやる価値は十分にあるな)

ベインは妖力を使い、巨大な黒い空間を創り出す。

「何をする気だ?」

「さあ、お楽しみってことで静かに見ておきなよ」

「これは、近づけませんね。近づいたところで大量の妖力を浴びて身体に支障をきたします」

ベインは少し嬉しそうに笑みを見せてその空間に向けてさらに妖力を流し込んだ。

「来い、古き災厄よ」

黒い空間は渦を巻いてその場の空気の流れを変える。それに伴い辺りの空気は冷たく、そして重たく変化し、ゆっくりとその空間から何かが出てくる。

「なんだ、あれは」

その巨体は地面に降り立つと、轟音を響かせてその振動で岩山から岩石が下へと転がり落ちていく。

「ん? いつの間にこんなところに」

降り立ったその”鬼”は辺りを見渡して不思議そうな顔をした。

「やあ、数百年ぶりだね」

「チッ、厄介なやつを呼び出しおったな」

その鬼はベインのことをじっと見て何か思い出したように驚いた顔を見せた。

「少しは落ち着くようになったじゃないか······閻魁」
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