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ボーンネルの開国譚2
二章 第十五話 絶望と憤怒
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十分お腹を満たした後、閻魁は仰向けになり少し暗くなりかけていた空を見ながら大の字に寝転んでいた。そしてその時、閻魁は眠りにつきそうな薄い意識の中で何かを感じ取った。
「ん? これは······妖力波か?」
妖力波とは妖力を持つ鬼族のみが聞き取ることのできる特殊な周波数を発する波のことで、しばしば鬼族の連絡手段として重宝されているものだ。ギルゼンノーズにいた時、閻魁はいくつもの妖力波を感じ取っていたが、あまり気になることはなかった。しかしながら今回の妖力波はしばらく経っても何度も訴えるようにして頭に入り込んできたのだ。そしてこれは他の鬼族の者達も同様だった。
「んあぁ、鬱陶しい。何なのだこれは」
閻魁は起き上がると両手で耳を塞いだ。
「どうしたの閻魁、大丈夫?」
「ああ、鬼族だけに聞こえる特有の妖力波というものがあってな、さっきからそやつがちとうるさいのだ。まあ我は久しぶりであまりよく聞こえんのだがな」
そしてそれと同時に自身の家に戻っていたメルトが慌てた様子で近くにいたイッカクとガランの元まで駆け寄ってきた。
「ガランじい、キルトの様子がおかしい! 妖力波を何度送っても、返事がねえ!」
「落ち着くのじゃメルト、先程からワシも多くの妖力波を感じ取っておる」
するといきなりジン達の頭にも何者かの声が聞こえてきた。
(愚かなもの達よ。我らが主、ヘリアル様は現在大変お怒りである。それはこの鬼幻郷で侵入者の存在が確認されたからだ。それに伴い侵入者達への警告として一つの集落にいる者全員を抹殺することが決定した。二日後、百鬼閣でこの者達の処刑が行われる。半日もしないうちに全員が死に、200人の命が失われるであろう。もう一度言うがこれは警告だ、理解したならば早々とこの場から立ち去るがよい。その場合、半分の100人の命だけは助けてやる)
その声はアイルベルのものであった。そして声が止むと一番にメルトが膝から崩れ落ちた。
「キル······と」
その顔は絶望に満ち、他の集落のもの達の顔にも先程までの笑顔は消えていた。
「集落の奴らが全員で妖力波を送ってたってわけか、クソッ!」
「······ガランさん、他の集落と言うのは」
ジンの言葉を聞いて放心状態となっていたガランは我に帰って口を開く。
「先程述べました通り、敵は10年前にこの鬼幻郷に攻めてきました。鬼幻郷に住む多くの無抵抗のものたちは······その際大虐殺を受けッ、五千人ほどいた皆は現在500人ほどの数まで減らされたのです」
「お、おいッそんな理不尽なことッ!」
「待てトキワ、ガランの話を聞け」
トキワは怒りを抑えて拳を握り、再びガランに耳を傾けた。
「この集落には現在54人おり、そしてここから離れた場所には三つの集落があります。一つはこの集落より少し大きなおよそ100人ほどが住む集落、それに150人程のものが住む集落、そして最も人口の多い約200人ほどのものが住む集落がそれぞれ離れた場所に位置しておるのです······そしてメルトの弟、キルトはその最も大きい集落に住んでおります······私たちはこの集落を出て自由に行動することができない故、キルトが2才の頃から二人は妖力波のみで連絡を取っておりました」
「二日後に200人全員殺すって言うのかよッ」
イッカクは抑えきれないほど怒りに耐えながらも、メルトの方を向いた。そしてメルトは手を地面につけてなんとか立ち上がると、ジンたちの方を憎悪の念で睨み付けた。
「お前らのせいじゃねえかよ······お前らのせいでキルトはッ······!!」
しかし怒りを叫ぼうとするメルトの言葉は途中で途切れる。自分が意識する前に、目の前の存在に自身の細胞という細胞が萎縮していたのだ。そしてメルトは畏怖の念を抱きながらも再び目の前を見た。
静まりながらも全ての怒りを抑え込んだ瞳は燃えるように前を見つめ、辺りにはまるで皮膚を焼き尽くすような禍々しいほどの魔力が広がり、そのオーラは空気までも萎縮させていた。まさにこれこそ理不尽と言えるような圧倒的な魔力は食料庫に向かって飛んでいたガルミューラと空撃部隊の背筋を凍らせるほどの威圧感を発する。ここに、本当の鬼が生まれたのだ。そして”侵入者”たちは一つの決意とともにその怒りを呑み込んだ。
「ジン様の御心を乱すとは、全くもって無礼です」
血管を剥き出しにして皆とは少し違う方向性で怒りが込み上げるゼグトスに加えて、いつの間にか蒼白になった鬼族の顔とは反対に他の”侵入者”は激しく憤怒の念が心の中で渦巻いていた。
「トキワ、敵は」
「ああ、逆探知したがここから結構離れてやがんな。急いでも明日の暗くなった頃ってとこだ」
「そうですね、私も行ったことのない場所へは転移できませんのでそれくらいでしょうか」
「問題ない、五万など一日あれば轢き殺せる」
「そうだな」
「クレース、閻魁、救出がユウセン」
「ま、まさか百鬼閣に正面突破するおつもりで!? 自殺行為ですぞ!」
「半分が殺されるんだ。それなら全員が助かったほうがいいに決まってるだろ」
「そ、そうですがッ!」
皆助けに行きたい気持ちは山々であったが自分たちには何もできないと無意識に自覚していたのだ。そしてメルトも何かを決意したかのようにジンたちの方を向いた。
「俺も、連れて行ってくれ」
少しプライドの高いメルトは周りの目も気にせずジンたちに向かって頭を下げた。
「め、メルト。お主が行ってもどうにもならんじゃろ。キルトのことを思うのは分かるが、お主では力不足だ」
しかしメルトはガランの目を真っ直ぐに見た。今まで見せたことのないようなただ一点を見つめる覚悟を決めた目で。そしてそれにエルムとイッカクも続く。
「ジンお姉ちゃん私も連れていってください! 少しだけど、私もきっと役に立ちますからッ!」
「俺も行かせてもらうぜ。全部他人任せってのはどうも納得いかねえ」
「······わかった。全員私が守るよ」
「じゃあ私はジンをまもる~」
「ありがとうパール、みんな疲れているから一度休んで明日の早朝に出発しよう」
「で、でもよ、そんなゆっくりしてたらキルトはッ!」
「ジンの言う通り、疲れていたらできることもデキナイ。一度休息をトルベキ」
「······わかったよ」
そうして集落の皆はそれぞれ胸に大き不安を抱えながらも、家に戻っていったのだった。
ー百鬼閣。
集落の様子を偵察し終えたシキは再び百鬼閣に戻り、クシャルドとアイルベルの二人と話をしていた。
「侵入者は見つかったか、シキ」
「······ああ、数は7名、それに魔力をもった狼が一匹いたな。正直に言って全員が幹部レベルかそれ以上と言って間違いないだろう」
シキは自身の見た者とは全く違うことを述べた。事実シキは一目見ただけで一生かけても埋めることのできないような
力の差を感じ取っていたのだ。
「······まさかそれ程とは、ですが幹部クラスなら数で有利なこちらが圧倒的に有利でしょう」
「まさか、お前言う前から戦う気だったのか」
「もちろんですとも。わざわざ鬼幻郷まで来るのです、何か特別な理由があるはずですよ。それにこちらには人質がいるのですから、無駄な正義感が働いて助けにくるということも十分にあり得るでしょう。分からせてやらなければいけませんからね、私たちの力を」
アイルベルは不敵な笑みを浮かべそう言った。始まろうとしていた戦いはアイルベルの策略の通りであったのだ。そしてこの策略を機に多くの感情が交差する戦いは始まりの時を迎えようとしていた。
「ん? これは······妖力波か?」
妖力波とは妖力を持つ鬼族のみが聞き取ることのできる特殊な周波数を発する波のことで、しばしば鬼族の連絡手段として重宝されているものだ。ギルゼンノーズにいた時、閻魁はいくつもの妖力波を感じ取っていたが、あまり気になることはなかった。しかしながら今回の妖力波はしばらく経っても何度も訴えるようにして頭に入り込んできたのだ。そしてこれは他の鬼族の者達も同様だった。
「んあぁ、鬱陶しい。何なのだこれは」
閻魁は起き上がると両手で耳を塞いだ。
「どうしたの閻魁、大丈夫?」
「ああ、鬼族だけに聞こえる特有の妖力波というものがあってな、さっきからそやつがちとうるさいのだ。まあ我は久しぶりであまりよく聞こえんのだがな」
そしてそれと同時に自身の家に戻っていたメルトが慌てた様子で近くにいたイッカクとガランの元まで駆け寄ってきた。
「ガランじい、キルトの様子がおかしい! 妖力波を何度送っても、返事がねえ!」
「落ち着くのじゃメルト、先程からワシも多くの妖力波を感じ取っておる」
するといきなりジン達の頭にも何者かの声が聞こえてきた。
(愚かなもの達よ。我らが主、ヘリアル様は現在大変お怒りである。それはこの鬼幻郷で侵入者の存在が確認されたからだ。それに伴い侵入者達への警告として一つの集落にいる者全員を抹殺することが決定した。二日後、百鬼閣でこの者達の処刑が行われる。半日もしないうちに全員が死に、200人の命が失われるであろう。もう一度言うがこれは警告だ、理解したならば早々とこの場から立ち去るがよい。その場合、半分の100人の命だけは助けてやる)
その声はアイルベルのものであった。そして声が止むと一番にメルトが膝から崩れ落ちた。
「キル······と」
その顔は絶望に満ち、他の集落のもの達の顔にも先程までの笑顔は消えていた。
「集落の奴らが全員で妖力波を送ってたってわけか、クソッ!」
「······ガランさん、他の集落と言うのは」
ジンの言葉を聞いて放心状態となっていたガランは我に帰って口を開く。
「先程述べました通り、敵は10年前にこの鬼幻郷に攻めてきました。鬼幻郷に住む多くの無抵抗のものたちは······その際大虐殺を受けッ、五千人ほどいた皆は現在500人ほどの数まで減らされたのです」
「お、おいッそんな理不尽なことッ!」
「待てトキワ、ガランの話を聞け」
トキワは怒りを抑えて拳を握り、再びガランに耳を傾けた。
「この集落には現在54人おり、そしてここから離れた場所には三つの集落があります。一つはこの集落より少し大きなおよそ100人ほどが住む集落、それに150人程のものが住む集落、そして最も人口の多い約200人ほどのものが住む集落がそれぞれ離れた場所に位置しておるのです······そしてメルトの弟、キルトはその最も大きい集落に住んでおります······私たちはこの集落を出て自由に行動することができない故、キルトが2才の頃から二人は妖力波のみで連絡を取っておりました」
「二日後に200人全員殺すって言うのかよッ」
イッカクは抑えきれないほど怒りに耐えながらも、メルトの方を向いた。そしてメルトは手を地面につけてなんとか立ち上がると、ジンたちの方を憎悪の念で睨み付けた。
「お前らのせいじゃねえかよ······お前らのせいでキルトはッ······!!」
しかし怒りを叫ぼうとするメルトの言葉は途中で途切れる。自分が意識する前に、目の前の存在に自身の細胞という細胞が萎縮していたのだ。そしてメルトは畏怖の念を抱きながらも再び目の前を見た。
静まりながらも全ての怒りを抑え込んだ瞳は燃えるように前を見つめ、辺りにはまるで皮膚を焼き尽くすような禍々しいほどの魔力が広がり、そのオーラは空気までも萎縮させていた。まさにこれこそ理不尽と言えるような圧倒的な魔力は食料庫に向かって飛んでいたガルミューラと空撃部隊の背筋を凍らせるほどの威圧感を発する。ここに、本当の鬼が生まれたのだ。そして”侵入者”たちは一つの決意とともにその怒りを呑み込んだ。
「ジン様の御心を乱すとは、全くもって無礼です」
血管を剥き出しにして皆とは少し違う方向性で怒りが込み上げるゼグトスに加えて、いつの間にか蒼白になった鬼族の顔とは反対に他の”侵入者”は激しく憤怒の念が心の中で渦巻いていた。
「トキワ、敵は」
「ああ、逆探知したがここから結構離れてやがんな。急いでも明日の暗くなった頃ってとこだ」
「そうですね、私も行ったことのない場所へは転移できませんのでそれくらいでしょうか」
「問題ない、五万など一日あれば轢き殺せる」
「そうだな」
「クレース、閻魁、救出がユウセン」
「ま、まさか百鬼閣に正面突破するおつもりで!? 自殺行為ですぞ!」
「半分が殺されるんだ。それなら全員が助かったほうがいいに決まってるだろ」
「そ、そうですがッ!」
皆助けに行きたい気持ちは山々であったが自分たちには何もできないと無意識に自覚していたのだ。そしてメルトも何かを決意したかのようにジンたちの方を向いた。
「俺も、連れて行ってくれ」
少しプライドの高いメルトは周りの目も気にせずジンたちに向かって頭を下げた。
「め、メルト。お主が行ってもどうにもならんじゃろ。キルトのことを思うのは分かるが、お主では力不足だ」
しかしメルトはガランの目を真っ直ぐに見た。今まで見せたことのないようなただ一点を見つめる覚悟を決めた目で。そしてそれにエルムとイッカクも続く。
「ジンお姉ちゃん私も連れていってください! 少しだけど、私もきっと役に立ちますからッ!」
「俺も行かせてもらうぜ。全部他人任せってのはどうも納得いかねえ」
「······わかった。全員私が守るよ」
「じゃあ私はジンをまもる~」
「ありがとうパール、みんな疲れているから一度休んで明日の早朝に出発しよう」
「で、でもよ、そんなゆっくりしてたらキルトはッ!」
「ジンの言う通り、疲れていたらできることもデキナイ。一度休息をトルベキ」
「······わかったよ」
そうして集落の皆はそれぞれ胸に大き不安を抱えながらも、家に戻っていったのだった。
ー百鬼閣。
集落の様子を偵察し終えたシキは再び百鬼閣に戻り、クシャルドとアイルベルの二人と話をしていた。
「侵入者は見つかったか、シキ」
「······ああ、数は7名、それに魔力をもった狼が一匹いたな。正直に言って全員が幹部レベルかそれ以上と言って間違いないだろう」
シキは自身の見た者とは全く違うことを述べた。事実シキは一目見ただけで一生かけても埋めることのできないような
力の差を感じ取っていたのだ。
「······まさかそれ程とは、ですが幹部クラスなら数で有利なこちらが圧倒的に有利でしょう」
「まさか、お前言う前から戦う気だったのか」
「もちろんですとも。わざわざ鬼幻郷まで来るのです、何か特別な理由があるはずですよ。それにこちらには人質がいるのですから、無駄な正義感が働いて助けにくるということも十分にあり得るでしょう。分からせてやらなければいけませんからね、私たちの力を」
アイルベルは不敵な笑みを浮かべそう言った。始まろうとしていた戦いはアイルベルの策略の通りであったのだ。そしてこの策略を機に多くの感情が交差する戦いは始まりの時を迎えようとしていた。
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