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ボーンネルの開国譚2
二章 第九話 鬼幻郷
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「や、やりましたね!」
エルムは辺りの風景を見て安心した顔を見せた。無事鬼幻郷に到着したのだ。
「こんなに広いんだね」
ジンたちが降り立った場所のすぐ近くには海があり、目の前にはシュレールの森を彷彿とさせる豊かな森林が広がっていた。しかし辺りにはゆったりとした波の音がはっきりと聞こえるほどの静けさが広がり少し不気味な雰囲気があった。
「はい。この森を抜ければもっと開けた場所がありますが、ここもすでに敵の監視下にあります」
「敵の数はどれくらいいるんだ?」
「兄が言うにはこの広い鬼幻郷を完全に支配するほどの数で少なくとも3万人はいると言っていました。それに対して元々ここに住んでいた鬼族は五千人ほどしかいません······それに、そのうちのかなりの皆んなが·····」
エルムは何かを思い出したようにやるせない気持ちが強く表情に出ていた。
「3万か、かなりの数だな。確かにそれじゃあ責められんのも仕方ねえな」
「皆さん、早速隠れるのが下手な者がいるみたいですよ」
ゼグトスが森の方に目をやると、すでにジン達を囲い込むように100人ほどの人間の男達が森を包囲していた。
「まあ寄せ集めの雑魚だな」
クレースがそう言った相手は決して弱い敵ではなかった。ゼグトス以外に気づかれないほどに気配を消していたほどなのだ。
「おい、結構な上玉がいるぜ。あの方達に持っていけば······」
その言葉を聞くとクレースが威雷に手にかける前にゼグトスはパチンと指を鳴らした。そしてそのパチンっという音を聞いた瞬間、茂みから近づいてきた男達は一度頭の中が真っ白になり、その場で放心したように立ち止まった。
「お前達のような者がジン様の視界に入り込むとは、烏滸がましい」
すると突然、目の前の男達はその場に膝をつき、頭を抱える。そして全員が一様にまるでひどい苦痛に耐えるようにその場で悶え苦しむような姿を見せる。
「ぜ、ゼグトス何したの」
「いえ、少し夢を見させてるだけです。さあこのまま行きましょう」
「ふむ、極級魔法か。やるな」
魔法というのは下から低級、中級、高級、そしてその上に聖級、極級、神級と階級付けられている。ちなみにシュレールの森でルースが火事を消した時に使用した魔法が高級、エピネール国でメルバールが放とうとしていたのが聖級の魔法だ。そして極級魔法となるとかなりの魔力量を持つものが数百人と集まり同時詠唱することでやっと放たれる魔法なのだ。
「ぐあぁぁあああッ」
「ぎゃああ!!」
頭を抱えたもの達は皆揃って奇声をあげながら地面を転がり回る。
ゼグトスが放ったのは「暗魔夢」と呼ばれる極級魔法。これはエピネールの国でゼグトスが王族の元達に”お仕置き”した際に使用した魔法だ。この魔法にかかったものは自分がもがき苦しんで死ぬという擬似体験を味わう。しかし実際に自分が死んでいるわけではなく、魔法にかかった者の頭の中で行われる耐えきれないほどの死の体験を強烈な痛みと共に味わい、生き返っては死ぬということが永遠のように何度も続くのだ。さらにその空間は並みの精神力では抜け出すことができないため、暗魔夢の空間から抜けるためには強靭な精神力で無理矢理に抜け出す、または耐えきれず自らで死を選ぶということしかないのだ。
「······っ」
エルムはその光景を見て顔を真っ青にして後退りする。
「ロスト」
トキワが魔法を放つとその奇声はピタリとおさまる。ちなみにトキワのロストは温泉での一件の後、改良に改良を加えて以前よりも進化し自分を中心として最大半径1kmの音を完全に遮断するという能力から指定した場所を中心に最大半径5kmの音を完全に遮断するというものになったのだ。
「エルムのお兄さんや知り合いは今どこにいるの?」
「あ、はい。こっちです」
そしてジン達はそのまま森の中に入っていく。入った森はそれほど深くなく少し歩いていると徐々に開けた道に出ていった。
「あっあれです!」
エルムは興奮したように目の前に建っていた小さな家が建つ集落の方を指さした。エルムはそのままそこへと走っていく。するとエルムのことを気づいた一人の鬼が目を見開き、持っていた農具を地面に落として走ってきた。
「エルム!」
「ガランおじいちゃんッ!!」
ガランと呼ばれるその老いた鬼はエルムを優しく抱きしめると目に涙を浮かべた。
「よかった······本当に······」
その声に気づくと集落からさらに鬼が出てきて皆嬉しそうにエルムの帰りを喜ぶ。しかしエルムの頭に一つの疑問が生まれた。一番に自分のところまで駆け寄ってきてくれるはずの兄の姿がどこにも見当たらないのだ。
「ガランおじいちゃん······お兄ちゃんは······」
「シキは······じゃのぉ」
ガランは何か言い淀むようにしていると何やら怒った様子の鬼が口を開いた。
「エルムっ! もうアイツはお前の兄貴なんかじゃねえ。アイツは自分だけ助かるために向こうに堕ちたんだよ!」
「えっ、うそ。そんなはずは······だって」
「アイツはっ、アイツは現に俺たちの目の前でコルトを殺したんだゾッ!!」
「ッ!」
「やめろメルト!······それに、エルムの気持ちも考えろ。エルム、そちらの方々はおまえさんの知り合いか」
「······うん、一緒にここまでついてきてもらったの」
「そうじゃったのか。皆様どうぞこちらへ小さな集落ですがゆっくりお休みください」
そしてジン達は集落にいた者達と挨拶を交わすと一度、集落の長であるガランの家の中で話をすることにした。
エルムは辺りの風景を見て安心した顔を見せた。無事鬼幻郷に到着したのだ。
「こんなに広いんだね」
ジンたちが降り立った場所のすぐ近くには海があり、目の前にはシュレールの森を彷彿とさせる豊かな森林が広がっていた。しかし辺りにはゆったりとした波の音がはっきりと聞こえるほどの静けさが広がり少し不気味な雰囲気があった。
「はい。この森を抜ければもっと開けた場所がありますが、ここもすでに敵の監視下にあります」
「敵の数はどれくらいいるんだ?」
「兄が言うにはこの広い鬼幻郷を完全に支配するほどの数で少なくとも3万人はいると言っていました。それに対して元々ここに住んでいた鬼族は五千人ほどしかいません······それに、そのうちのかなりの皆んなが·····」
エルムは何かを思い出したようにやるせない気持ちが強く表情に出ていた。
「3万か、かなりの数だな。確かにそれじゃあ責められんのも仕方ねえな」
「皆さん、早速隠れるのが下手な者がいるみたいですよ」
ゼグトスが森の方に目をやると、すでにジン達を囲い込むように100人ほどの人間の男達が森を包囲していた。
「まあ寄せ集めの雑魚だな」
クレースがそう言った相手は決して弱い敵ではなかった。ゼグトス以外に気づかれないほどに気配を消していたほどなのだ。
「おい、結構な上玉がいるぜ。あの方達に持っていけば······」
その言葉を聞くとクレースが威雷に手にかける前にゼグトスはパチンと指を鳴らした。そしてそのパチンっという音を聞いた瞬間、茂みから近づいてきた男達は一度頭の中が真っ白になり、その場で放心したように立ち止まった。
「お前達のような者がジン様の視界に入り込むとは、烏滸がましい」
すると突然、目の前の男達はその場に膝をつき、頭を抱える。そして全員が一様にまるでひどい苦痛に耐えるようにその場で悶え苦しむような姿を見せる。
「ぜ、ゼグトス何したの」
「いえ、少し夢を見させてるだけです。さあこのまま行きましょう」
「ふむ、極級魔法か。やるな」
魔法というのは下から低級、中級、高級、そしてその上に聖級、極級、神級と階級付けられている。ちなみにシュレールの森でルースが火事を消した時に使用した魔法が高級、エピネール国でメルバールが放とうとしていたのが聖級の魔法だ。そして極級魔法となるとかなりの魔力量を持つものが数百人と集まり同時詠唱することでやっと放たれる魔法なのだ。
「ぐあぁぁあああッ」
「ぎゃああ!!」
頭を抱えたもの達は皆揃って奇声をあげながら地面を転がり回る。
ゼグトスが放ったのは「暗魔夢」と呼ばれる極級魔法。これはエピネールの国でゼグトスが王族の元達に”お仕置き”した際に使用した魔法だ。この魔法にかかったものは自分がもがき苦しんで死ぬという擬似体験を味わう。しかし実際に自分が死んでいるわけではなく、魔法にかかった者の頭の中で行われる耐えきれないほどの死の体験を強烈な痛みと共に味わい、生き返っては死ぬということが永遠のように何度も続くのだ。さらにその空間は並みの精神力では抜け出すことができないため、暗魔夢の空間から抜けるためには強靭な精神力で無理矢理に抜け出す、または耐えきれず自らで死を選ぶということしかないのだ。
「······っ」
エルムはその光景を見て顔を真っ青にして後退りする。
「ロスト」
トキワが魔法を放つとその奇声はピタリとおさまる。ちなみにトキワのロストは温泉での一件の後、改良に改良を加えて以前よりも進化し自分を中心として最大半径1kmの音を完全に遮断するという能力から指定した場所を中心に最大半径5kmの音を完全に遮断するというものになったのだ。
「エルムのお兄さんや知り合いは今どこにいるの?」
「あ、はい。こっちです」
そしてジン達はそのまま森の中に入っていく。入った森はそれほど深くなく少し歩いていると徐々に開けた道に出ていった。
「あっあれです!」
エルムは興奮したように目の前に建っていた小さな家が建つ集落の方を指さした。エルムはそのままそこへと走っていく。するとエルムのことを気づいた一人の鬼が目を見開き、持っていた農具を地面に落として走ってきた。
「エルム!」
「ガランおじいちゃんッ!!」
ガランと呼ばれるその老いた鬼はエルムを優しく抱きしめると目に涙を浮かべた。
「よかった······本当に······」
その声に気づくと集落からさらに鬼が出てきて皆嬉しそうにエルムの帰りを喜ぶ。しかしエルムの頭に一つの疑問が生まれた。一番に自分のところまで駆け寄ってきてくれるはずの兄の姿がどこにも見当たらないのだ。
「ガランおじいちゃん······お兄ちゃんは······」
「シキは······じゃのぉ」
ガランは何か言い淀むようにしていると何やら怒った様子の鬼が口を開いた。
「エルムっ! もうアイツはお前の兄貴なんかじゃねえ。アイツは自分だけ助かるために向こうに堕ちたんだよ!」
「えっ、うそ。そんなはずは······だって」
「アイツはっ、アイツは現に俺たちの目の前でコルトを殺したんだゾッ!!」
「ッ!」
「やめろメルト!······それに、エルムの気持ちも考えろ。エルム、そちらの方々はおまえさんの知り合いか」
「······うん、一緒にここまでついてきてもらったの」
「そうじゃったのか。皆様どうぞこちらへ小さな集落ですがゆっくりお休みください」
そしてジン達は集落にいた者達と挨拶を交わすと一度、集落の長であるガランの家の中で話をすることにした。
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