ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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ボーンネルの開国譚2

二章 第八話 動き出す歯車

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エルムは少し緊張していた。さっき出会ったばかりの人が突然自分の故郷のことを聞いてきて、そして一緒に行こうと言い出すのだ。確かに少し不思議に思うかもしれない。兄からは小さい時に見ず知らずの人について行ってはいけないと言われた。それに一緒にいた鬼(閻魁)のことをエルムは怖いと感じていたのだ。

(でも、ジンお姉ちゃんはきっと悪くない人だから、きっとお兄ちゃんも信じてくれる)

そう心の中で自分にいい聞かせてエルムはジン達とともに閻魁門に向かう。


「エルムちゃん、大丈夫だよ。閻魁はこう見えて何も怖くないから、それにこう見えて優しいよ」

「なっ」

少し照れた閻魁を他所にエルムは自分の不安を見透かされたようなジンの言葉に少しドキッとした。

「はい、ありがとうございます。ジンお姉ちゃんはその、すごくみんなから好かれやすい人なんですね」

エルムはパールと手を繋ぐジンの姿と、足にピッタリとくっ付いて歩くガル、自然とジンを囲い込むように歩く他の全員の様子を見ながらそう言った。

「でも、きっとエルムのお兄さんもエルムのことが大好きなんだろうね」

「······はい、お兄ちゃんは私のことをとても大事にしてくれます」

エルムは少し恥ずかしそうにしながらもハッキリとそう言い切った。

「そろそろだな」

竹林の中をしばらく歩くと昨日は暗くて見えなかった開けた道が見えてきた。昨日通った結界はゲルオードに説明していたおかげですんなりと通ることができ、再び閻魁門の前まで来た。

「エルム、ここからは任せていいか?」

「はい、任せてください」

エルムはペンダントを握りしめて門の前で強く祈る。するとエルムの周りには妖力が火の玉のようにゆらゆらと揺れながら現れ、その火の玉は閻魁門の元へとゆっくり近づいていく。そして先程まで何もなかったその門には赤い結界がうっすらと姿を見せ、火の玉は現れた結界に溶け込むように中に入っていく。

ーパリンッ

赤い結果はそれに応じて大きな音を立てて割れた。

「これで後は妖力を流し込めば······」

「エルム!」

大量の妖力を使用したエルムはその場に倒れ込む。

「ごめんなさい、私の妖力ではこれで精一杯です。後は門に妖力を流し込めば······」

「任せよ」

閻魁は結果が壊れた部分に自分の妖力を流し込む。すると閻魁門には突然、真っ黒な空間が生まれた。

「ここから入ることが出来ます。さあ、行きましょう」

「こりゃあ随分不気味な入り口だな」

「さっさと行け」

「ちょっ!?」

クレースは恐る恐るその中を覗き込んでいたトキワを後ろから蹴り飛ばすとトキワはその真っ黒な空間の中に消えていった。

「よし私達も行くぞ。エルム、大丈夫か?」

「はい、私は大丈夫です。それより閻魁さんは大丈夫ですか? もの凄い妖力を消費したと思うのですが······」

「案ずるな。こんなもの、我からすれば微弱な量よ、さあ行くぞ」

そしてジンたちは同時にその空間へと入っていった。


一方、鬼幻郷。

鬼幻郷を象徴するかのように遥か昔から建つ巨大な建物のある部屋には五人の人影があった。

「まだ見つからぬのか」

「はい、申し訳ございません。未だ捜索中です。ですが鬼のもの達には脅威たり得る者はおりません、それに外部からこちらに入るには莫大な量の妖力が必要となります。わざわざ鬼幻郷まで鬼帝がくるとは考えられませんし、それに復活した閻魁は現在、ボーンネルという小国にいる様です。ですので何も心配なさる必要はございません」

するとその部屋に慌てた様子で見回りをしていた一人の兵が部屋に入ってきた。

「大至急報告! 鬼幻郷の内部に何者かが侵入! 感知部隊からは数は少数であり、鬼族の存在を確認とのことです!」

「何!? どれほどの妖力が必要だと思っているんだ!」

「まあ落ち着け、アイルベル。数人で入ってきたところで何ができる」

「そうじゃぞ、あの馬鹿もうまく働きおって邪魔な閻魁はもうここにはおらん。全てが計画通りだ」

「やっとか、待ちくたびれたぞ」

「レイよ、まだわからないぞ、落ち着け」

その五人から溢れ出る闘気は部屋にヒシヒシと伝わり、見張りの者は思わず息を呑む。

そしてジン達が鬼幻郷に入ってきた瞬間、歯車は動き出す。ある者は全てを破壊するため、またある者は本当の正義を遂行するため、そしてある者は最愛を守るためそれぞれが動き出そうとしていたのだ。
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