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ジンとロードの過去編
第八話 戦場の草原
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強い風が吹くその草原の上でジンとガル、ヘルメスとケルスタイトはそれぞれ警戒するように睨み合っていた。そして痺れを切らしたケルスタイトは次の瞬間、凄まじい速度でガルに襲いかかる。
「······チッ」
しかしガルは小さな体を器用に捻ってケルスタイトの牙を難なく避ける。
「ケルスタイト、そこの狼はお前がやれ俺はこいつをやる」
「わかった」
ケルスタイトは漆黒の毛並みとちらりと見える金の毛並みを太陽の光で煌めかせながら鋭い牙と爪をむき出しにしてゆっくりとガルの方へと威嚇するように歩み寄っていく。それに応えてガルもケルスタイトを睨んで威嚇し返す。ガルは何かを試みようとするも、ジンの視線を気にして何かを逡巡していた。
「ガル、私は怖くないよ、どんなガルだって大好きだから。だから、怪我しちゃダメだよ?」
ジンのその言葉を聞いてガルは何かを決心したかのように前を見る。
「!?」
その瞬間、ガルの身体は徐々に大きくなり、ふわふわとした毛並みは一瞬で硬くそして強く変化し、鋭く黒光りをした爪が地面を抉り取る。王者の風格が醸し出されるその出立ちからは元のガルの雰囲気など微塵も感じられないほどに凄まじく強大な姿に進化したのだ。魔力量は裕にケルスタイトを超え様々な身体能力が格段に上昇する。ガルはジンに怖がられるのが嫌で滅多にこの姿にならないのだ。
一方、二人と同じくすぐ側でその光景を見ていたフィリアはその変化に驚き大きく目を見開いていた。
しかしフィリアは目の前の光景に驚きつつも何もできない自分がひどく悔しかったのだ。
(私にできることは······でも、今私が手を出しても邪魔になるだけ)
「来いッ!」
ケルスタイトが勢いよくそう言った瞬間、その隣を何かが通り過ぎた。
「グハッ!」
ジンも含めその場にいる誰もが、その速度を目で追うことができなかった。そしてケルスタイトの黒い前足はいつの間にか傷つきガクリと体制を崩していた。ガルがケルスタイトとの短い距離で速度を最大まで上げて一瞬で距離を詰めたのだ。
しかしケルスタイトの前足の傷は何事もなかったようにすぐに回復し始める。
「残念だったな、お前じゃ俺は倒せない」
ケルスタイトの黒い毛はは強い魔力を帯びており、大抵の傷はすぐに回復してしまうのだ。しかしジンは一人嬉しそうに口角を上げる。
「よく見た方がいいよ」
「何?」
ケルスタイトが回復したはずの前足に目をやると、なぜか再び傷が開いていた。
「何をした? 狼」
「こいつの爪も魔力を帯びているようだ。だからお前が回復しようと魔力が反発し合って回復しにくいということだな」
「なるほどな、面倒臭い」
それを理解したケルスタイトは先程までの油断を捨て目の前のガルを見る。そしてガルは何かを伝えるようにジンの方を向いて、その後ケルスタイトの方を向き構える。そして二体の獣のまるで自らの縄張りを奪い合うかのような激しい戦いが始まった。
「さて、こちらも始めるとするか」
そう言ったヘルメスの右手に構えられていたのは『意思のある武器』へと進化したウィルダムであった。
ヘルメスの武器は大剣であり、自身の背丈ほどある大きな大剣を軽々と持ち上げていた。対して細身の剣のジンは相性が悪い。どうしても間合いに入りづらいのだ。
「お前の武器には意思が宿っていないようだな、正直数分持つかどうかだろう」
ヘルメスはニヒリと笑い片手で大剣を握りしめる。
「やってみないと分からないよ」
ジンは武器を構えるとヘルメスはそのまま片手でジンの武器を目掛けて勢いよく振りかざした。
二つの武器は大きな金属音をたててその衝撃波はあたりの草原を大きく揺らす。
「まさか、その剣で止めるとはな」
そして二人は後ろに下がり、ヘルメスは再び魔力を全開させて身体に帯び、強大な覇気とともに身体能力が向上する。ヘルメスは左手で魔力を練り上げ、ゼルファスと同じくジークフレアを発動させる。しかし龍人族であるヘルメスから放たれるジークフレアの威力はゼルファスのものよりもはるかに高く魔力の質も高い。そしてヘルメスはバサリっと空中に飛び上がりジークフレアはさらに大きく熱くなっていく。
「消え失せろ」
冷たい顔でそう言い放ったゼルファスはまるで太陽のように巨大化したジークフレアをジンに投げつける。
その光景を見ていたフィリアは脚がすくみ、助けに行こうとしても思うように体が動かない。しかしガルはそれを見ても何も心配するような素振りを見せず、ケルスタイトとの戦闘に集中していた。
「!?」
高みからジンを見下ろしていたヘルメスは突然目の前で起こる現象に一瞬思考が止まる。自分が放ったはずのジークフレアと同等、もしくはそれ以上の大きさのジークフレアをジンは自分の手に発動させていたのだ。そしてジンの手からそれはスッと放たれ二つの巨大なジークフレアは互いに干渉し合い辺りに強烈な爆風が巻き起こる。その衝撃波はケルスタイトとガルにまで響き渡り二つの魔法は相殺しあったのだ。
「お前、どれほど異常な速度で魔力を練り上げているんだ」
ヘルメスが心で思ったことが自然と口から発せられる。
「どうやら『この姿』で戦っても無駄なようだな」
そして突然、辺りの空気が変わり溢れ出ていたヘルメスの魔力は一気に収束され、辺りには一瞬静寂が流れる。しかしその静寂は激しい轟音とともに一瞬でかき消された。ヘルメスの身体中に鱗が広がりそれに伴い腕は太く、爪は大きくなっていく。
「!······」
驚くジンの目の前にそれは真の姿を現す。龍人族においても選ばれたものしかできないその進化は『龍化』と呼ばれ、その邪悪な龍がニュートラルドに降臨したのだ。
「······チッ」
しかしガルは小さな体を器用に捻ってケルスタイトの牙を難なく避ける。
「ケルスタイト、そこの狼はお前がやれ俺はこいつをやる」
「わかった」
ケルスタイトは漆黒の毛並みとちらりと見える金の毛並みを太陽の光で煌めかせながら鋭い牙と爪をむき出しにしてゆっくりとガルの方へと威嚇するように歩み寄っていく。それに応えてガルもケルスタイトを睨んで威嚇し返す。ガルは何かを試みようとするも、ジンの視線を気にして何かを逡巡していた。
「ガル、私は怖くないよ、どんなガルだって大好きだから。だから、怪我しちゃダメだよ?」
ジンのその言葉を聞いてガルは何かを決心したかのように前を見る。
「!?」
その瞬間、ガルの身体は徐々に大きくなり、ふわふわとした毛並みは一瞬で硬くそして強く変化し、鋭く黒光りをした爪が地面を抉り取る。王者の風格が醸し出されるその出立ちからは元のガルの雰囲気など微塵も感じられないほどに凄まじく強大な姿に進化したのだ。魔力量は裕にケルスタイトを超え様々な身体能力が格段に上昇する。ガルはジンに怖がられるのが嫌で滅多にこの姿にならないのだ。
一方、二人と同じくすぐ側でその光景を見ていたフィリアはその変化に驚き大きく目を見開いていた。
しかしフィリアは目の前の光景に驚きつつも何もできない自分がひどく悔しかったのだ。
(私にできることは······でも、今私が手を出しても邪魔になるだけ)
「来いッ!」
ケルスタイトが勢いよくそう言った瞬間、その隣を何かが通り過ぎた。
「グハッ!」
ジンも含めその場にいる誰もが、その速度を目で追うことができなかった。そしてケルスタイトの黒い前足はいつの間にか傷つきガクリと体制を崩していた。ガルがケルスタイトとの短い距離で速度を最大まで上げて一瞬で距離を詰めたのだ。
しかしケルスタイトの前足の傷は何事もなかったようにすぐに回復し始める。
「残念だったな、お前じゃ俺は倒せない」
ケルスタイトの黒い毛はは強い魔力を帯びており、大抵の傷はすぐに回復してしまうのだ。しかしジンは一人嬉しそうに口角を上げる。
「よく見た方がいいよ」
「何?」
ケルスタイトが回復したはずの前足に目をやると、なぜか再び傷が開いていた。
「何をした? 狼」
「こいつの爪も魔力を帯びているようだ。だからお前が回復しようと魔力が反発し合って回復しにくいということだな」
「なるほどな、面倒臭い」
それを理解したケルスタイトは先程までの油断を捨て目の前のガルを見る。そしてガルは何かを伝えるようにジンの方を向いて、その後ケルスタイトの方を向き構える。そして二体の獣のまるで自らの縄張りを奪い合うかのような激しい戦いが始まった。
「さて、こちらも始めるとするか」
そう言ったヘルメスの右手に構えられていたのは『意思のある武器』へと進化したウィルダムであった。
ヘルメスの武器は大剣であり、自身の背丈ほどある大きな大剣を軽々と持ち上げていた。対して細身の剣のジンは相性が悪い。どうしても間合いに入りづらいのだ。
「お前の武器には意思が宿っていないようだな、正直数分持つかどうかだろう」
ヘルメスはニヒリと笑い片手で大剣を握りしめる。
「やってみないと分からないよ」
ジンは武器を構えるとヘルメスはそのまま片手でジンの武器を目掛けて勢いよく振りかざした。
二つの武器は大きな金属音をたててその衝撃波はあたりの草原を大きく揺らす。
「まさか、その剣で止めるとはな」
そして二人は後ろに下がり、ヘルメスは再び魔力を全開させて身体に帯び、強大な覇気とともに身体能力が向上する。ヘルメスは左手で魔力を練り上げ、ゼルファスと同じくジークフレアを発動させる。しかし龍人族であるヘルメスから放たれるジークフレアの威力はゼルファスのものよりもはるかに高く魔力の質も高い。そしてヘルメスはバサリっと空中に飛び上がりジークフレアはさらに大きく熱くなっていく。
「消え失せろ」
冷たい顔でそう言い放ったゼルファスはまるで太陽のように巨大化したジークフレアをジンに投げつける。
その光景を見ていたフィリアは脚がすくみ、助けに行こうとしても思うように体が動かない。しかしガルはそれを見ても何も心配するような素振りを見せず、ケルスタイトとの戦闘に集中していた。
「!?」
高みからジンを見下ろしていたヘルメスは突然目の前で起こる現象に一瞬思考が止まる。自分が放ったはずのジークフレアと同等、もしくはそれ以上の大きさのジークフレアをジンは自分の手に発動させていたのだ。そしてジンの手からそれはスッと放たれ二つの巨大なジークフレアは互いに干渉し合い辺りに強烈な爆風が巻き起こる。その衝撃波はケルスタイトとガルにまで響き渡り二つの魔法は相殺しあったのだ。
「お前、どれほど異常な速度で魔力を練り上げているんだ」
ヘルメスが心で思ったことが自然と口から発せられる。
「どうやら『この姿』で戦っても無駄なようだな」
そして突然、辺りの空気が変わり溢れ出ていたヘルメスの魔力は一気に収束され、辺りには一瞬静寂が流れる。しかしその静寂は激しい轟音とともに一瞬でかき消された。ヘルメスの身体中に鱗が広がりそれに伴い腕は太く、爪は大きくなっていく。
「!······」
驚くジンの目の前にそれは真の姿を現す。龍人族においても選ばれたものしかできないその進化は『龍化』と呼ばれ、その邪悪な龍がニュートラルドに降臨したのだ。
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