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ジンとロードの過去編
第六話 最凶の誕生
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「ボルさん、私と契約しませんか?」
「おいおい、いきなりだな。お前らさっき会ったばっかじゃねえか、な? ボル?」
「イイヨ」
「おいっ、まあ俺が何とか言うべきじゃねえか」
ボルは何の躊躇いもなくゼルタスの方を向いてそう言った。そして二人の会話を聴いていた鳴々は目をキラキラとさせて首を大きく横に振ってボルの顔とゼルタスの顔を交互に見る。
「私、二人はお似合いだと思う!」
どうやら鳴々は二人の契約に賛成のようだった。だがその仕草には確かに何かをひた隠す様子が見られた。
「ゼルタス! ずっと話せなくなっても、これからもずぅーっと一緒だよ!」
ぎゅっと服の端を握り、大きくて元気な声で鳴々は素直な思いを口にする。
「はい、鳴々さん。あなたもそれにフィリアさんも、キュートスさんも、バイルドさんも、メルティさんも、それにこれまで出会ってきた皆さんも決して忘れはしません」
(このままだと······)
意思というのはニュートラルドから武器の意思もしくは道具の意思として転生した場合、ずっとウィルモンドに居続けることはできないのだ。ある期間を超えてしまうと、生まれてからの記憶を全て失ってしまい再びニュートラルドに転生するということになる。そしてゼルタスにはその期間が迫っていた。
「············さあ、時間がありません。ボルさんよろしいですか?」
ゼルタスは少し言い淀みながらも言葉を口にする。
(大切にしたいですから······)
意思との契約には意思を宿らせるための武器もしくは道具に加えて、精神世界で行われる二者の契約への合意が必要である。契約自体はこの二つの要素で完了するが、契約後に様々な制約が加わるのだ。
「ウン」
「させるかぁ!」
それを止めようと一気に間合いを詰めてきたログファルドをトキワは軽く受け流し、ファンネルの煙には即座に炎流を発動させ収束させる。
そして二人はゆっくりと目を閉じた。精神世界に広がるのは無限の無。静寂という言葉が似合うその世界で二人は意識を集中させる。
「契約の時、我この者の武器に宿らん」
(失いたくないですから)
その瞬間、ゼルタスの体は光り輝き『意思』が一点に収縮される。ゼルタスの体は消えて無くなりボルの右手のハンマーに光が流し込まれた。眩いほどにハンマーは光り輝き、契約が完了する。
そしてボルのハンマーは『意思のある武器』へと進化する。そのハンマーは禍々しいほどの深い赤色のオーラを纏い、辺りの空気を萎縮させる。そしてそれを見る誰もが息を呑み、ただその一点に視線が集中する。
「デキタ」
「······!?」
ボルがそう言った瞬間、辺りに重たい圧がのしかかる。
「ここからデヨウ」
そしてハンマーを片手でしっかりと握り地面に置くとボルは右手に力を溜める。そのあまりにも自然な動作にファンネルとログファルドはただ目の前のボルをじっと見つめていた。
「ジン、待ってて」
ゆっくりとそして徐々に速度を上げながらボルはハンマーを振り上げた。その一撃は空気をも殴りその衝撃は次の瞬間辺りに轟音を響かせる。それに伴い、今にも崩れそうな天井は衝撃波で崩れ去る。崩れ落ちた岩は下に落ちてくることなく、衝撃に巻き込まれて上に、さらに上へと上がっていく。そしていつの間にか衝撃波は外の光を連れてくる。はるか地下深くから地上までの道をぶち開けたのだ。
それを見て鳴々は幸せそうに清々しい笑顔で笑う。
「「はぁ!?」」
その光景をただ見ていたログファルドとファンネルは口を大きく開けて先ほどまであったはずの天井の部分を見上げる。
「よーし、ボルよくやった。一気に地上まで行くぞ」
そしてトキワは辺りに炎の渦を発生させた。高熱の炎は立っていた地面を抉り取り、そのまま炎の渦とともに足場は上昇する。
「すごーいっ!」
驚く二人を気にすることなく興奮した鳴々の声が辺りに響き足場はすぐに地上まで上がっていく。
「おい、ログファルド! 追いかけるぞ!」
「お、おう」
我に帰った二人はログファルドの煙に乗って三人を追いかけるように地上まで上がっていく。
「お、戻ってきたみてえだな」
そしてトキワたちが上がった先は先程までいた森の中だった。
「でも、ジンもクレースもイナイ」
そして遅れてログファルドとファンネルも上がってくる。
「一体何をした!? 人間」
二人の先ほどまでの余裕はとうに消え去り最大の警戒態勢でボルのことを見た。しかしそんな二人がちっぽけに見えるほどの暗く、深い闇を感じる顔でボルは二人を睨み返した。
「さっさとかかって来い。ジンが心配だ」
いつもとは違う口調でボルはそう言った。そしてその言葉に応えるようにファンネルは黒い煙を発生させ、それに続いてログファルドも斧を振り回してきた。斧は黒い煙を纏い辺りの植物を枯れさせていく。
「死ねぇッー!!」
ログファルドの筋肉が激しく隆起しまるで大きな斧が鞭のように振り回される。
「スネーク・ガイザーッ!!」
斧から放たれた一撃はその力に応えるように猛烈な速度で振りかざされた。
「······!?」
しかしその勢いはボルの目の前でピタリと止まってしまう。
「邪魔だ、失せろ」
ーバキッ
ログファルドの骨が嫌な音をたてて粉々になったのだ。
「ログファルド!!」
「トキワ、オネガイ」
「おう! 炎流!!」
トキワの放った炎でファンネルの実体は一点に集中させられる。その瞬間、ボルは空高く飛んで『ゼルタス』を大きく天に掲げる。
「灰排」
「やめろぉぉおお!!」
ボルとゼルタスから放たれたその一撃にファンネルは殴られると同時に灰となり、呆気なく散っていった。
「すごい! ゼルタス!ボルさん!」
(ボルさん、どうですか?)
(ウン。いいカンジ。サンキュー)
(そうですか、それはよかったです。私はここも居心地が良いです)
『意思のある武器』となったゼルタスはボルと会話をする。
「ゼルタスと喋ってるの?」
「ウン。居心地がいいっテサ」
「よかったあ!」
鳴々はそれを聞いてパアっと顔を輝かせた。
「その、悲しくねえのか? なんていうか、もうあいつとはしゃべれねえんだぜ?」
その言葉に鳴々は大きく首を横に振る。
「ゼルタスが幸せなら私も嬉しいの! ずっとゼルタスはここにいるもん。だから······私も幸せ!」
鳴々は満面の笑みで声を振り絞った。
(······ッ)
その言葉を聞いてゼルタスは思わず言葉が詰まる。ゼルタスの頭に思い浮かぶのはニュートラルドで過ごしたあたたかい思い出。鳴々が生まれる前からニュートラルドにいたゼルタスにとっては鳴々は一人の意思などではなかった。鳴々はゼルタスにとっては友達以上の、まるで子どものような存在だった。そしてそれは鳴々にとっても同じである。だがもうその声は届かない。
そしてふと、鳴々はよくゼルタスにかけてもらった言葉を思い出す。どんな時だって幸せな気持ちにさせてくれるその言葉を、どんな時だって勇気と自信を与えてくれる言葉を。
(ボルさん······)
(ワカッタ)
「ゼルタスから伝言ダヨ」
それを聞いた瞬間、鳴々はじっとボルの方に集中する。
「『一生分、愛してます』、ダッテ」
「······ッ!!」
その言葉を聞いて鳴々の我慢していた感情は堰を切ったように涙となって溢れていった。昔、何度も言ってくれたその言葉を思い出して鳴々は拭っても拭っても止まらないほどの涙を流す。
「ゼルタス! いつか······いつか私が生まれ変わっても、きっと······ゼルタスのことを見つけ出してみせるから!それに今度はきっと、ゼルタスの子どもになってまたいっぱい愛してもらうからッ!!」
(············私はこれからもあなたを見守ることができる、何て幸せな意思なのでしょう)
ゼルタスは一人、笑顔で涙を流したのだ。
「おいおい、いきなりだな。お前らさっき会ったばっかじゃねえか、な? ボル?」
「イイヨ」
「おいっ、まあ俺が何とか言うべきじゃねえか」
ボルは何の躊躇いもなくゼルタスの方を向いてそう言った。そして二人の会話を聴いていた鳴々は目をキラキラとさせて首を大きく横に振ってボルの顔とゼルタスの顔を交互に見る。
「私、二人はお似合いだと思う!」
どうやら鳴々は二人の契約に賛成のようだった。だがその仕草には確かに何かをひた隠す様子が見られた。
「ゼルタス! ずっと話せなくなっても、これからもずぅーっと一緒だよ!」
ぎゅっと服の端を握り、大きくて元気な声で鳴々は素直な思いを口にする。
「はい、鳴々さん。あなたもそれにフィリアさんも、キュートスさんも、バイルドさんも、メルティさんも、それにこれまで出会ってきた皆さんも決して忘れはしません」
(このままだと······)
意思というのはニュートラルドから武器の意思もしくは道具の意思として転生した場合、ずっとウィルモンドに居続けることはできないのだ。ある期間を超えてしまうと、生まれてからの記憶を全て失ってしまい再びニュートラルドに転生するということになる。そしてゼルタスにはその期間が迫っていた。
「············さあ、時間がありません。ボルさんよろしいですか?」
ゼルタスは少し言い淀みながらも言葉を口にする。
(大切にしたいですから······)
意思との契約には意思を宿らせるための武器もしくは道具に加えて、精神世界で行われる二者の契約への合意が必要である。契約自体はこの二つの要素で完了するが、契約後に様々な制約が加わるのだ。
「ウン」
「させるかぁ!」
それを止めようと一気に間合いを詰めてきたログファルドをトキワは軽く受け流し、ファンネルの煙には即座に炎流を発動させ収束させる。
そして二人はゆっくりと目を閉じた。精神世界に広がるのは無限の無。静寂という言葉が似合うその世界で二人は意識を集中させる。
「契約の時、我この者の武器に宿らん」
(失いたくないですから)
その瞬間、ゼルタスの体は光り輝き『意思』が一点に収縮される。ゼルタスの体は消えて無くなりボルの右手のハンマーに光が流し込まれた。眩いほどにハンマーは光り輝き、契約が完了する。
そしてボルのハンマーは『意思のある武器』へと進化する。そのハンマーは禍々しいほどの深い赤色のオーラを纏い、辺りの空気を萎縮させる。そしてそれを見る誰もが息を呑み、ただその一点に視線が集中する。
「デキタ」
「······!?」
ボルがそう言った瞬間、辺りに重たい圧がのしかかる。
「ここからデヨウ」
そしてハンマーを片手でしっかりと握り地面に置くとボルは右手に力を溜める。そのあまりにも自然な動作にファンネルとログファルドはただ目の前のボルをじっと見つめていた。
「ジン、待ってて」
ゆっくりとそして徐々に速度を上げながらボルはハンマーを振り上げた。その一撃は空気をも殴りその衝撃は次の瞬間辺りに轟音を響かせる。それに伴い、今にも崩れそうな天井は衝撃波で崩れ去る。崩れ落ちた岩は下に落ちてくることなく、衝撃に巻き込まれて上に、さらに上へと上がっていく。そしていつの間にか衝撃波は外の光を連れてくる。はるか地下深くから地上までの道をぶち開けたのだ。
それを見て鳴々は幸せそうに清々しい笑顔で笑う。
「「はぁ!?」」
その光景をただ見ていたログファルドとファンネルは口を大きく開けて先ほどまであったはずの天井の部分を見上げる。
「よーし、ボルよくやった。一気に地上まで行くぞ」
そしてトキワは辺りに炎の渦を発生させた。高熱の炎は立っていた地面を抉り取り、そのまま炎の渦とともに足場は上昇する。
「すごーいっ!」
驚く二人を気にすることなく興奮した鳴々の声が辺りに響き足場はすぐに地上まで上がっていく。
「おい、ログファルド! 追いかけるぞ!」
「お、おう」
我に帰った二人はログファルドの煙に乗って三人を追いかけるように地上まで上がっていく。
「お、戻ってきたみてえだな」
そしてトキワたちが上がった先は先程までいた森の中だった。
「でも、ジンもクレースもイナイ」
そして遅れてログファルドとファンネルも上がってくる。
「一体何をした!? 人間」
二人の先ほどまでの余裕はとうに消え去り最大の警戒態勢でボルのことを見た。しかしそんな二人がちっぽけに見えるほどの暗く、深い闇を感じる顔でボルは二人を睨み返した。
「さっさとかかって来い。ジンが心配だ」
いつもとは違う口調でボルはそう言った。そしてその言葉に応えるようにファンネルは黒い煙を発生させ、それに続いてログファルドも斧を振り回してきた。斧は黒い煙を纏い辺りの植物を枯れさせていく。
「死ねぇッー!!」
ログファルドの筋肉が激しく隆起しまるで大きな斧が鞭のように振り回される。
「スネーク・ガイザーッ!!」
斧から放たれた一撃はその力に応えるように猛烈な速度で振りかざされた。
「······!?」
しかしその勢いはボルの目の前でピタリと止まってしまう。
「邪魔だ、失せろ」
ーバキッ
ログファルドの骨が嫌な音をたてて粉々になったのだ。
「ログファルド!!」
「トキワ、オネガイ」
「おう! 炎流!!」
トキワの放った炎でファンネルの実体は一点に集中させられる。その瞬間、ボルは空高く飛んで『ゼルタス』を大きく天に掲げる。
「灰排」
「やめろぉぉおお!!」
ボルとゼルタスから放たれたその一撃にファンネルは殴られると同時に灰となり、呆気なく散っていった。
「すごい! ゼルタス!ボルさん!」
(ボルさん、どうですか?)
(ウン。いいカンジ。サンキュー)
(そうですか、それはよかったです。私はここも居心地が良いです)
『意思のある武器』となったゼルタスはボルと会話をする。
「ゼルタスと喋ってるの?」
「ウン。居心地がいいっテサ」
「よかったあ!」
鳴々はそれを聞いてパアっと顔を輝かせた。
「その、悲しくねえのか? なんていうか、もうあいつとはしゃべれねえんだぜ?」
その言葉に鳴々は大きく首を横に振る。
「ゼルタスが幸せなら私も嬉しいの! ずっとゼルタスはここにいるもん。だから······私も幸せ!」
鳴々は満面の笑みで声を振り絞った。
(······ッ)
その言葉を聞いてゼルタスは思わず言葉が詰まる。ゼルタスの頭に思い浮かぶのはニュートラルドで過ごしたあたたかい思い出。鳴々が生まれる前からニュートラルドにいたゼルタスにとっては鳴々は一人の意思などではなかった。鳴々はゼルタスにとっては友達以上の、まるで子どものような存在だった。そしてそれは鳴々にとっても同じである。だがもうその声は届かない。
そしてふと、鳴々はよくゼルタスにかけてもらった言葉を思い出す。どんな時だって幸せな気持ちにさせてくれるその言葉を、どんな時だって勇気と自信を与えてくれる言葉を。
(ボルさん······)
(ワカッタ)
「ゼルタスから伝言ダヨ」
それを聞いた瞬間、鳴々はじっとボルの方に集中する。
「『一生分、愛してます』、ダッテ」
「······ッ!!」
その言葉を聞いて鳴々の我慢していた感情は堰を切ったように涙となって溢れていった。昔、何度も言ってくれたその言葉を思い出して鳴々は拭っても拭っても止まらないほどの涙を流す。
「ゼルタス! いつか······いつか私が生まれ変わっても、きっと······ゼルタスのことを見つけ出してみせるから!それに今度はきっと、ゼルタスの子どもになってまたいっぱい愛してもらうからッ!!」
(············私はこれからもあなたを見守ることができる、何て幸せな意思なのでしょう)
ゼルタスは一人、笑顔で涙を流したのだ。
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