24 / 240
ボーンネルの開国譚
第二十四話 エルダンの覚悟
しおりを挟む ゲルオードがいなくなった後、閻魁の放っていた張り詰めた空気は消え去り落ち着いた様子を見せていた。
「ふぅ······」
クレースは安心したように息を吐き出し組んでいた腕をほどくとジンの元へ駆け寄った。
正直、途中でゲルオードをやろうと思っていたのだ。
「ジン、怪我はないか?」
「何をおっしゃるんですかクレースさん、ジン様が圧倒していましたよ」
「ジン、帰ろ」
「あはは、もうちょっと待ってねパール」
そんな一行の前に誰かが慌てた様子で空から近づいてきた。先ほどまで後退していたダロットである。その顔に先程見せていたような余裕はない。
「おい閻魁、何をしている。さっさとそいつらを片付けろ。俺の言うことは絶対だぞ!」
焦ったようにダロットは叫んだ。他の魔物は役に立たないと悟ったダロットは閻魁だけでも駒として扱いこの状況をどうにかしようと考えていたのである。
「ん? 我知らんわ。誰だ貴様」
「は? なんだとぉッ!!」
その言葉にダロットは怒りをむき出しにする。唯一の希望である閻魁を失ったダロットはどうすることもできない。先ほどまでの異次元とも言える戦いを見てプライドの高いダロットですらどうにもならないと考えたほどである。
「クソ、いつかお前らは後悔するぞ」
「うわ、カッコ悪りぃ捨て台詞だなぁ」
トキワはダロットを煽る。しかし今のダロットに反撃する手段など持ち合わせていないのだ。
ダロットは溢れ出る怒りを抑え、すぐにどこかへ消えてしまった。
「ジン、追いかけなくていいの?」
「うん、大丈夫。あの魔物を倒すのはエルダンだから」
そのためダロットには特に何もせずそのまま放置することにした。
閻魁の顔を見ると少し困惑しているようだけど多分大丈夫だ。
「全く、勝手に話を進めおって。我の意思を尊重しろ人間。まあ封印されなければ良いのだがな」
「ごめんごめん。あとその大きな体どうにかならない?」
「ふぅむ、仕方ない」
それを聞くと閻魁は自身の放つオーラを抑えた。すると煙と共に巨大な閻魁の体は人族の大人のサイズほどまで縮んでいった。頭に一本の角を生やし鍛え上げられたような筋肉質な体。顔は人間のようでありまるで鬼族と人族のハーフのようであった。
裸になった閻魁にゼグトスはすぐさま服をかけた。
「おぉ、これで生活はできそうだね」
「少しはマシな姿になったな」
「ま、まあ我レベルになればこのくらいはな!」
先ほどまで一方的にクレースに罵られていたため閻魁はその言葉を聞いて少し顔を赤らめた。
「何を照れている、気色悪い」
「そうだ、エルダンは大丈夫かな」
周囲の魔物はいつの間にか一体もおらず集落も中にいた剛人族も無事であった。
そしてすぐ近くの集落で休んでいたエルダンの様子を見に行くことにしたのだ。
集落にある建物の中でエルダンは落ち着いた様子をしてコッツの隣で眠っていた。ジンたちが入ってくるのを見るとコッツは安心したような顔をする。
「ご無事で何よりです皆さん。エルダンさんはひどい怪我でしたがなんとか落ち着いてきたようです」
「よかった、しばらくゆっくりさせてあげないとね」
一緒に入ってきた閻魁はエルダンのことを見るなり汗をかきながら周りを見た。
「えっ、これってもしかして我のせい?」
「大丈夫、閻魁からすれば敵を攻撃しただけだから安心して。きっとエルダンも許してくれるよ」
それを聞いて閻魁はホッとした表情を見せた。そして集落にいた剛人族の安否をよく確認した後、剛人族にお礼をされてその日は集落で一晩過ごすことにしたのだ。
***********************************
——そして翌日
エルダンは集落の部屋の中でハッと目を覚ました。
「ここは······集落の中か」
全身に感じていた痛みは大分マシになっていた。周囲を見渡すと一人、男がエルダンのすぐそばで座りながら眠っていた。
「誰だ」
強敵であると一瞬で悟ったエルダンは少し痛む重たい身体を起こした。すると音に気付いたその男は目を覚ました。
「おう、起きたか。大事はないか?」
人間の姿になった閻魁である。
「お前はまさか、閻魁か!?」
エルダンは現在の姿の閻魁からも禍々しいオーラを感じると『牙震』を手に取り、警戒したがその瞬間頭に声が響いてきた。
(エルダン、この者は一晩中横でお前の様子を見てくれていたのだ。安心しろ)
「ダロットはどうなった?」
「ああ、あいつなら逃げおったわ」
「どういうことだ? なぜお前は敵対していないのだ」
「我はもう敵対する気はない。ジンの仲間になったからな」
閻魁はエルダンの方をよく見て嬉しそうに、自慢げにそう言ってきた。
「何? お前がどうして」
「我はもう数千年も生きてきたが······初めて仲間になってくれと言われたのだ」
閻魁は嬉しそうに、だが何か考え込むような顔をする。
ずっと誰からも恐れられて忌み嫌われていた閻魁は誰かから必要にされるという感情が分からなかったのだ。
「認められるというのは、腹の底から嬉しいものだな」
一切の嘘を感じられないエルダンは小さく笑みを浮かべた。
「お前、根はいい奴だな」
「な、何を言う我は老若男女、誰もが恐れ慄く閻魁であるぞ」
焦ったように言う閻魁はまんざらでもないような顔をする。
するとそこにジンたちが入ってきた。
「起きたんだねエルダン、体は大丈夫?」
「ああ、すまなかった。閻魁とも話をしたぞ。本人も仲間になれてうれしっ——」
「だあーッ! 何もなかったぞ」
エルダンが言い終わる前に焦ったように閻魁は大声を上げた後、クレースが真剣な顔で話題を切り替えた。
「それはそうとだ。集落にいた剛人族は無事だ。だがダロットに奴に操られていた少なからず犠牲が出てしまった」
思い出そうとせずもその光景が頭に浮かんできた。
ダロットに踏み躙られ倒れ伏していた仲間の姿。
いくら呼び掛けても一切動かず冷たくなっていく仲間を前に何もできなかったのだ。
「俺はッ–—」
「ごめんエルダン。守れなくて」
「······いいや、責任は全て俺にある」
「もう誰も死なせないから」
自然とエルダンの顔には笑みが浮かんだ。
「······わかった、それに約束はまだ果たされていなかったな。俺も、それに他の剛人族の奴らも、きっとジン殿の国の一員になることを望んでいるだろう。是非とも協力させてくれ」
その顔には、仲間の意志を受け継ぎ覚悟を決めた男の顔があったのだった。
「ふぅ······」
クレースは安心したように息を吐き出し組んでいた腕をほどくとジンの元へ駆け寄った。
正直、途中でゲルオードをやろうと思っていたのだ。
「ジン、怪我はないか?」
「何をおっしゃるんですかクレースさん、ジン様が圧倒していましたよ」
「ジン、帰ろ」
「あはは、もうちょっと待ってねパール」
そんな一行の前に誰かが慌てた様子で空から近づいてきた。先ほどまで後退していたダロットである。その顔に先程見せていたような余裕はない。
「おい閻魁、何をしている。さっさとそいつらを片付けろ。俺の言うことは絶対だぞ!」
焦ったようにダロットは叫んだ。他の魔物は役に立たないと悟ったダロットは閻魁だけでも駒として扱いこの状況をどうにかしようと考えていたのである。
「ん? 我知らんわ。誰だ貴様」
「は? なんだとぉッ!!」
その言葉にダロットは怒りをむき出しにする。唯一の希望である閻魁を失ったダロットはどうすることもできない。先ほどまでの異次元とも言える戦いを見てプライドの高いダロットですらどうにもならないと考えたほどである。
「クソ、いつかお前らは後悔するぞ」
「うわ、カッコ悪りぃ捨て台詞だなぁ」
トキワはダロットを煽る。しかし今のダロットに反撃する手段など持ち合わせていないのだ。
ダロットは溢れ出る怒りを抑え、すぐにどこかへ消えてしまった。
「ジン、追いかけなくていいの?」
「うん、大丈夫。あの魔物を倒すのはエルダンだから」
そのためダロットには特に何もせずそのまま放置することにした。
閻魁の顔を見ると少し困惑しているようだけど多分大丈夫だ。
「全く、勝手に話を進めおって。我の意思を尊重しろ人間。まあ封印されなければ良いのだがな」
「ごめんごめん。あとその大きな体どうにかならない?」
「ふぅむ、仕方ない」
それを聞くと閻魁は自身の放つオーラを抑えた。すると煙と共に巨大な閻魁の体は人族の大人のサイズほどまで縮んでいった。頭に一本の角を生やし鍛え上げられたような筋肉質な体。顔は人間のようでありまるで鬼族と人族のハーフのようであった。
裸になった閻魁にゼグトスはすぐさま服をかけた。
「おぉ、これで生活はできそうだね」
「少しはマシな姿になったな」
「ま、まあ我レベルになればこのくらいはな!」
先ほどまで一方的にクレースに罵られていたため閻魁はその言葉を聞いて少し顔を赤らめた。
「何を照れている、気色悪い」
「そうだ、エルダンは大丈夫かな」
周囲の魔物はいつの間にか一体もおらず集落も中にいた剛人族も無事であった。
そしてすぐ近くの集落で休んでいたエルダンの様子を見に行くことにしたのだ。
集落にある建物の中でエルダンは落ち着いた様子をしてコッツの隣で眠っていた。ジンたちが入ってくるのを見るとコッツは安心したような顔をする。
「ご無事で何よりです皆さん。エルダンさんはひどい怪我でしたがなんとか落ち着いてきたようです」
「よかった、しばらくゆっくりさせてあげないとね」
一緒に入ってきた閻魁はエルダンのことを見るなり汗をかきながら周りを見た。
「えっ、これってもしかして我のせい?」
「大丈夫、閻魁からすれば敵を攻撃しただけだから安心して。きっとエルダンも許してくれるよ」
それを聞いて閻魁はホッとした表情を見せた。そして集落にいた剛人族の安否をよく確認した後、剛人族にお礼をされてその日は集落で一晩過ごすことにしたのだ。
***********************************
——そして翌日
エルダンは集落の部屋の中でハッと目を覚ました。
「ここは······集落の中か」
全身に感じていた痛みは大分マシになっていた。周囲を見渡すと一人、男がエルダンのすぐそばで座りながら眠っていた。
「誰だ」
強敵であると一瞬で悟ったエルダンは少し痛む重たい身体を起こした。すると音に気付いたその男は目を覚ました。
「おう、起きたか。大事はないか?」
人間の姿になった閻魁である。
「お前はまさか、閻魁か!?」
エルダンは現在の姿の閻魁からも禍々しいオーラを感じると『牙震』を手に取り、警戒したがその瞬間頭に声が響いてきた。
(エルダン、この者は一晩中横でお前の様子を見てくれていたのだ。安心しろ)
「ダロットはどうなった?」
「ああ、あいつなら逃げおったわ」
「どういうことだ? なぜお前は敵対していないのだ」
「我はもう敵対する気はない。ジンの仲間になったからな」
閻魁はエルダンの方をよく見て嬉しそうに、自慢げにそう言ってきた。
「何? お前がどうして」
「我はもう数千年も生きてきたが······初めて仲間になってくれと言われたのだ」
閻魁は嬉しそうに、だが何か考え込むような顔をする。
ずっと誰からも恐れられて忌み嫌われていた閻魁は誰かから必要にされるという感情が分からなかったのだ。
「認められるというのは、腹の底から嬉しいものだな」
一切の嘘を感じられないエルダンは小さく笑みを浮かべた。
「お前、根はいい奴だな」
「な、何を言う我は老若男女、誰もが恐れ慄く閻魁であるぞ」
焦ったように言う閻魁はまんざらでもないような顔をする。
するとそこにジンたちが入ってきた。
「起きたんだねエルダン、体は大丈夫?」
「ああ、すまなかった。閻魁とも話をしたぞ。本人も仲間になれてうれしっ——」
「だあーッ! 何もなかったぞ」
エルダンが言い終わる前に焦ったように閻魁は大声を上げた後、クレースが真剣な顔で話題を切り替えた。
「それはそうとだ。集落にいた剛人族は無事だ。だがダロットに奴に操られていた少なからず犠牲が出てしまった」
思い出そうとせずもその光景が頭に浮かんできた。
ダロットに踏み躙られ倒れ伏していた仲間の姿。
いくら呼び掛けても一切動かず冷たくなっていく仲間を前に何もできなかったのだ。
「俺はッ–—」
「ごめんエルダン。守れなくて」
「······いいや、責任は全て俺にある」
「もう誰も死なせないから」
自然とエルダンの顔には笑みが浮かんだ。
「······わかった、それに約束はまだ果たされていなかったな。俺も、それに他の剛人族の奴らも、きっとジン殿の国の一員になることを望んでいるだろう。是非とも協力させてくれ」
その顔には、仲間の意志を受け継ぎ覚悟を決めた男の顔があったのだった。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
【草】限定の錬金術師は辺境の地で【薬屋】をしながらスローライフを楽しみたい!
黒猫
ファンタジー
旅行会社に勤める会社の山神 慎太郎。32歳。
登山に出かけて事故で死んでしまう。
転生した先でユニークな草を見つける。
手にした錬金術で生成できた物は……!?
夢の【草】ファンタジーが今、始まる!!
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる