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ボーンネルの開国譚

第十六話 守られた笑顔 <挿絵あり>

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(······あったかい)

背中を包み込むようなふんわりとした感触。
パールは久しぶりに心地の良いあたたかさで目を覚ました。

「あ、起きたかな」

目を開けたパールの前には優しい笑顔を見せるジンがいた。
きちんとその顔を見るのは初めてのはずが心は酷く落ち着いた。
自身の胸に湧き上がる感情が理解できなかった。

「よしよし」

しかし自然と気づいた時にはジンに抱きついていた。
優しい声で頭を撫でてくれる。心にぽっかり空いていた穴はいつの間にか塞がっていた。
パールにとって、その存在があることが嬉しくて仕方がなかったのだ。


************************************


集会所、ジンの部屋。ジンの好みに合わせてゼフの作成した家具が置かれたその部屋にパールはいた。
起きてからもう何時間経ったのか分からないほど、しかしその間パールはジンの元から一度も離れず、ガルと共にその胸に抱きついていた。

「わたし、ジンといっしょに住む」

「なっ」

パールが口にした突然の言葉。
クレースは分かりやすく動揺した。

「だめだ、会ったばかりのやつをジンの家におくなど私が許さぬ。お前が住むのなら私が住む」

「いや、ジンはわたしの」

パールはマシュマロのようなほっぺたを膨らます。
生まれたばかりの赤子のようにジンの胸に顔を埋めていた。

「まあ、こんな小さい子だからなジンに甘えたくもなるだろ」

ゼフは何故か嬉しそうにそう言う。
しかしパールの案に反対なのはクレースだけではなかった。

「ですがゼフさん、この者はジン様に怪我を負わせたのですよ」

ゼグトスは必死に怒りを抑えるように述べた。
帰ってきて怪我をしたジンを見るなり、ゼグトスに説明をするのが大変だったのだ。

「ま、まあまだ小さいのですから、強く当たるのはやめてあげましょう」

「コッツの言う通りだよ、私はなんともないからさ」

「ごめんなさい····ジン。もうぜったいにしない」

「ったくぅ、なにお前らは子ども相手にむきになってんだよ」

「だまれ、ジンは私のものだ」

クレースは抱っこされているパールを恨めしそうに見つめる。

「いいよ。パール、今日からずっと一緒だよ」

「······うん!」

しかしながらクレースの健闘も虚しくパールはジンの家に住むことになったのであった。


パールがボーンネルに住んですこしすると竜の草原にいる魔物の様子は元のようになった。どうやらパールの存在を恐れて魔物がシュレールの森に流れ込んでいたようだ。そしてしばらくするとシュレールの森に現れる魔物はCランク以下が主となったのだ。


次の日、ジンは集会所にある自分の部屋の椅子に座っていた。
部屋にはジン専用と来賓用でそれぞれ机と椅子が設置され、加えてくつろげるソファが一つ置かれていた。
ガルはソファがお気に入りのようでソファに寝転びパールは椅子の前にある机の上に座ってジンの顔をじっくり見ていた。

「どうしたの? パール」

「あのね······大好き!」

ジンはパールの頭を優しく撫でるとパールはにっこり笑った。
パールは今、初めて幸せというものを感じることができているのだ。
そしてその幸せの感情はすべてジンに向けられパールのジンに対する好感度は時間と共に増えていった。

するとそこにクレースが入ってきた。

「おいパール。ジンが可愛いのは分かるがジンに触るときは私の許可を取れよ」

「いぃや」

ぷくりとほっぺを膨らませてクレースに反抗する。
だがそこには確かにこの世界でずっと見られなかった小さな女の子の笑顔があったのだ。

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