ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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ボーンネルの開国譚

第四話 新たな仲間

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シュレールの森ではBランクやCランクの魔物が多数出現していた。
その中でもサラマンダーと言われる一体の魔物が激しく暴れ、あたりはまるで火の海。
多くのエルフたちは避難している途中であったが、そんな中三人の精鋭と思われるエルフが戦っていた。

「Bランク程度なら造作もないがサラマンダーは少し面倒だな」

「リンギル! 水の上級魔法であたり一帯の火を消しますから火元のサラマンダーだけ倒してください!」

エルフの女はリンギルというその男に呼びかけた。

(とは言っても、倒そうとすればここの生態系に影響が出てしまうのは免れん)

「水をもとまッ……」

しかしエルフの女が詠唱をしようとした瞬間、そこに禍々しいオーラを纏った獣人が凄まじい速さで走り込んできた。三人の前に広がる異様な光景。辺りの魔物は自然と道を開け、逃げ遅れたBランク以下の魔物は突然魔力を失ったように倒れ伏していった。

「何者だ……あいつは」

「ジンっ! 無事か!」

その時エルフたちに向けられていたサラマンダーの注意が一気にクレースへと向けられる。

「この火事はお前のせいか、ジンが火傷したらどうするんだ?」

そう呟き、あたりの空気は重たく変化する。
戦っていたエルフたちは悍ましい圧力を感じるとともに背筋が凍りつくように硬直した。

今から起こるであろう激しい戦闘を待つかのように三人の身体は固まっていたのだ。
サラマンダーは全神経を集中させてクレースに殺気を放つ。炎を一点に凝縮させ魔力弾を作り始めた。

「ッ——!?」

しかし決着は三人の予想を遥かに上回っていた。
クレースが右手を強く握りしめると同時にサラマンダーの身体は小石ほどの大きさまで丸められたのだ。
ほんの数秒の出来事。処理が追いつかず三人は唖然としていた。

「何をしている! はやく火を消せ!」

呆気にとられていたエルフはハッとなり正気に戻ると、すぐさま詠唱を再開した。

「水を求まんかの大地よ、大いなる水の癒しを」

魔法陣が展開されると水の渦が生まれすぐさまあたりの火は鎮火された。

「なんだよ、俺なんもしてねえじゃねえかよ」

「黙れ腑抜けが、お前はジンを探せ!」

「ったく、あいつがこれくらいで負けるわけねえだろ。ジンならそこにいる」

クレースがトキワの指差す方を振り返るとそこには無傷のジンが立っていた。
そしてしばらくすると魔物たちは次第にその場所から離れていき、辺りはすっかり落ち着いていったのだ。


「助かった、エルフの一同を代表して礼を言おう」

そう言って戦っていた三人のエルフたちが深々とお辞儀をしてきた。

「俺はリンギルだ。この森でエルフの長をしている。それとこの二人はルースとリエルだ」

トキワは改めて二人の姿を見て思わず固まる。
無意識に四つの宝玉を瞳に捉えていた。

「胸でかっ!」

「口に出すな、性欲が」

「もうそれ人でも何でも……」

「私はクレース、そしてこっちのかわいい女の子がジンだ」

そう言ってクレースは自慢するようにジンを紹介した。

「ち、ちなみに俺はトキワな」

「よろしくね。避難した人は全員無事だよ」

「ありがとうございます、安心しました」

「其方からは凄まじいほどの強さを感じるな」

「そうか? 見る目がないみたいだな」

そう言ってクレースはニヤリと笑い、ジンの方を見た。

「まあ詳しい話は後にしてまずはここの後始末をしよう」

とはいうもののクレースが大量の魔物をほふったため、シュレールの森の被害はあまり大きくなかった。エルフたちが大地系統の魔法を使えたためすぐに森の状態は元に戻り、加えてインフォルが荒れた土の部分をいじったため以前よりも森の状態はよくなったのだ。

翌日、改めて三人のエルフたちはジンたちが集まり鍛冶場まで話をしに来ていた。三人は鍛治場にいたゼフとコッツにそれぞれ挨拶するとすぐに本題へと入る。

「魔物を追い払うだけでなく復旧作業まで手伝っていただき、本当になんとお礼すればいいのか」

「いいさ別に。大したことはしてない」

「ああお前は本当に何もしていない」

「いいや、本当に感謝している。我らエルフの一族にできることがあれば言ってくれ」

「なら話ははやいな。単刀直入に言わせてもらおう。ジンがこの国の王になるのを手伝ってほしい」

あまりにもいきなりの言葉に三人は首を傾げた。

「この国の王にだと?」

リンギルは険しい顔をして深く考え込んだ。
それほど今のボーンネルをまとめるのは難しいことなのだと理解しているのだ。

「正直言って難しいな。この国には大まかに分けて「龍人族」、「剛人族」、「長耳族エルフ」、「骸族」の4種族がいるが、特に龍人族と骸族はそう簡単にどうにかなる相手ではないぞ」

「大丈夫、もう決めたから」

リンギルはしばらく考え込みジンの方をゆっくりと向く。

「ジン殿と言ったな。クレース殿が仕えるほどだ、ならばそこまでの覚悟があると証明してほしい」

「いいよ、何をすればいい?」

「俺と手加減なしの決闘をしてくれ」

リンギルは迷うことなくそう言った。

「何だと?」

その言葉にクレースはリンギルを強く睨みつけた。

「我らの王となるのだ。ある程度の強さを示してもらわねばな」

「まあ落ち着けよ、こいつのいうことも理解はできる」

「昨日見ていただろう。ジンの周りを」

クレースが指摘していたのは昨日のシュレールの森でのことだ。ジンの周りにはBランクの魔物が数体倒れていたのだ。Bランクの魔物というのはベテランの冒険者でも油断していると命を落とすこともあるのだ。ちなみにガルもジンの隣でCランクの魔物を屠っていた。

「ああ、確かに見た。だがBランクの魔物は我らでも造作ない」

「いいんじゃねえか別に。正直相手にならねえと思うぜ」

トキワの言葉にゼフ、コッツ、ガルはうんうんと頷いた。

クレースはその後も少し駄々をこねたが何とか説得することに成功する。

「仕方ない。まあジンの強さは決闘ごときでは測れんがな。
 では海沿いの崖近くに来い、あそこならば被害が出ないように私が何とかできる」

ジンたちが住むのはボーンネルの辺境かつ大陸の端にあるため、海がすぐ近くにあるのだ。
ジンはロードを手に取るとクレースたちと海の方へと向かった。
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