2 / 240
ボーンネルの開国譚
第二話 獣人クレース
しおりを挟む
クレースとは獣人の女性である。そのため少し短い耳を生やしてふんわりとした金色の尻尾をもっている。それに加えて綺麗な顔立ちをしているので、誰もがその容姿に釘付けになるほどだ。しかし普段から怖いオーラを出しているため、口調もあいまって初対面の人からは恐れられることが多い。
そんなクレースだが仲間に対しては信頼を置いており、特にジンに対しては狂気と言えるほどその容姿から性格全てを愛してやまないのだ。
ガルと鍛冶場を出るとクレースの家に向かった。クレースの家はいかにも武士らしい家で、私の家のすぐ近くに建っている。私が一人暮らしを始めると言った時は自分の家に住まわせると言ってゼフじいの家から寝ている私を抱きかかえ翌日なぜかクレースのベッドで眠っているということがあった。でも結局、ゼフじいに説得してもらい何とか近くに家を建てるということになったのだ。
ジンがクレースの家に向かう一方、クレースの心は落ち着きを失っていた。
(向かいに行くべきか、いや私の家のドアを開けて入ってくるところがかわいいんだ。だが誰かにつけられてでもしていたら)
クレースはジンが家に来るのをわかってはいたが心の中では興奮の絶頂にいた。彼女は普段クールキャラを装っている。しかしながらジンのこととなるといつも冷静な判断ができないでいるのだ。
するとそこに扉の開く音が聞こえてきた。
(きたッ)
普段から聴き慣れた扉の音、いまかいまかと待ち侘びていたその瞬間がついに来たのだ。そしてクレースは居間から扉まで一瞬のうちに移動する。
だが——
「失せろッ——」
「ぶおぅっっ!」
クレースは目の前の人物を確認するなり持っていた刀で地面に叩き潰した。
「なにすんだよッいきなり! 痛えだろっ!」
来たのはジンではなくトキワという男だった。トキワはクレースよりも少し年上の武人である。しかしその能天気な性格と親しみやすい雰囲気が裏目に出てクレースからは下に見られているのだ。
「紛らわしいわクズが、お前は家に呼んでない」
クレースはゴミを見るかのような目でトキワを見下した。
数秒でこの場所が殺人現場になりかねないほどの状況。
しかしそこにガルを抱きかかえたジンが入ってきた。その瞬間クレースは目を煌かせてトキワを突き飛ばす。二発目の致命傷をくらい身悶えるもクレースの興味は既に全てジンへと向かっていた。
「よっよく来たなジン。
朝ご飯はしっかり食べたか?
どこか怪我してないか?
具合は悪くないか?
誰かに変なことされてないか?
来る途中誰かにつけられなかったか?」
「もうっ、大丈夫だから。それでどうしたの?」
少し拗ねて顔を膨らませるジンにクレースはキュンとする。
感情を隠しきれずにふわふわのしっぽを振り喜びは全身に現れていた。
「そ、そうだな、すまない。どうも最近シュレールの森でBランクの魔物が多く見られるようだ。私が様子を見てくるから今はあそこに近づいてはいけないぞ」
「Bランク? あそこって最高でもCランクまでしか出たことないよね?」
「ああ、私も初めは信じられなかったがあそこのバカが珍しく真剣な顔で相談してきたのでな」
クレースは泡を吹いて倒れているトキワを一瞥した。
「インフォルからの情報は?」
インフォルとはもぐらの姿をした情報収集に長けた魔物だ。
魔物ではあるが会話も可能でありジンが小さい頃からこの地域の地下を住処としている。
「インフォルにも確認したが、シュレールの森でBランクの牙蜘蛛が確認されたそうだ。奴の情報網なら確かだと思うぞ」
「じゃあちょっとガルとみてくるね」
「ダメだ。ジンに何かあったらダメだろう」
「大丈夫だよBランクくらいなら、ガルもいるし」
「いいや、ダメだ。ジンが行くくらいなら私が今からワンパンで倒してくる、ワンパンでな」
初めから一人で行くつもりではあったが、ただジンに会いたかったがために家まで呼んだのだ。
「まったくぅ、わかったよ」
(きゃ、きゃわいいっっ)
ふてくされるジンにしっぽを揺らし耳はピンっと上がってクレースは興奮する。
だが、視界にトキワが入るとすぐさま真顔に戻り口を開いた。
「お前はいつまでここにいる。消えろ変態」
トキワはビクっと身体を震わせすぐさま直立した。
「じゃ、じゃあ俺もクレースと一緒に討伐しに行こうかなぁ」
「来なくていい」
「な、なんでだよ」
「この子が大切だからだ」
「····そうだな、行ってこい」
「少し待っててくれジン。すぐ戻る」
「気をつけてね。·怪我は絶対にしないで」
(まったく本当に……かわいい)
そうしてクレースは刀をたずさえたままシュレールの森まで全速力で向かった。
「大丈夫かね……魔物」
そんなクレースだが仲間に対しては信頼を置いており、特にジンに対しては狂気と言えるほどその容姿から性格全てを愛してやまないのだ。
ガルと鍛冶場を出るとクレースの家に向かった。クレースの家はいかにも武士らしい家で、私の家のすぐ近くに建っている。私が一人暮らしを始めると言った時は自分の家に住まわせると言ってゼフじいの家から寝ている私を抱きかかえ翌日なぜかクレースのベッドで眠っているということがあった。でも結局、ゼフじいに説得してもらい何とか近くに家を建てるということになったのだ。
ジンがクレースの家に向かう一方、クレースの心は落ち着きを失っていた。
(向かいに行くべきか、いや私の家のドアを開けて入ってくるところがかわいいんだ。だが誰かにつけられてでもしていたら)
クレースはジンが家に来るのをわかってはいたが心の中では興奮の絶頂にいた。彼女は普段クールキャラを装っている。しかしながらジンのこととなるといつも冷静な判断ができないでいるのだ。
するとそこに扉の開く音が聞こえてきた。
(きたッ)
普段から聴き慣れた扉の音、いまかいまかと待ち侘びていたその瞬間がついに来たのだ。そしてクレースは居間から扉まで一瞬のうちに移動する。
だが——
「失せろッ——」
「ぶおぅっっ!」
クレースは目の前の人物を確認するなり持っていた刀で地面に叩き潰した。
「なにすんだよッいきなり! 痛えだろっ!」
来たのはジンではなくトキワという男だった。トキワはクレースよりも少し年上の武人である。しかしその能天気な性格と親しみやすい雰囲気が裏目に出てクレースからは下に見られているのだ。
「紛らわしいわクズが、お前は家に呼んでない」
クレースはゴミを見るかのような目でトキワを見下した。
数秒でこの場所が殺人現場になりかねないほどの状況。
しかしそこにガルを抱きかかえたジンが入ってきた。その瞬間クレースは目を煌かせてトキワを突き飛ばす。二発目の致命傷をくらい身悶えるもクレースの興味は既に全てジンへと向かっていた。
「よっよく来たなジン。
朝ご飯はしっかり食べたか?
どこか怪我してないか?
具合は悪くないか?
誰かに変なことされてないか?
来る途中誰かにつけられなかったか?」
「もうっ、大丈夫だから。それでどうしたの?」
少し拗ねて顔を膨らませるジンにクレースはキュンとする。
感情を隠しきれずにふわふわのしっぽを振り喜びは全身に現れていた。
「そ、そうだな、すまない。どうも最近シュレールの森でBランクの魔物が多く見られるようだ。私が様子を見てくるから今はあそこに近づいてはいけないぞ」
「Bランク? あそこって最高でもCランクまでしか出たことないよね?」
「ああ、私も初めは信じられなかったがあそこのバカが珍しく真剣な顔で相談してきたのでな」
クレースは泡を吹いて倒れているトキワを一瞥した。
「インフォルからの情報は?」
インフォルとはもぐらの姿をした情報収集に長けた魔物だ。
魔物ではあるが会話も可能でありジンが小さい頃からこの地域の地下を住処としている。
「インフォルにも確認したが、シュレールの森でBランクの牙蜘蛛が確認されたそうだ。奴の情報網なら確かだと思うぞ」
「じゃあちょっとガルとみてくるね」
「ダメだ。ジンに何かあったらダメだろう」
「大丈夫だよBランクくらいなら、ガルもいるし」
「いいや、ダメだ。ジンが行くくらいなら私が今からワンパンで倒してくる、ワンパンでな」
初めから一人で行くつもりではあったが、ただジンに会いたかったがために家まで呼んだのだ。
「まったくぅ、わかったよ」
(きゃ、きゃわいいっっ)
ふてくされるジンにしっぽを揺らし耳はピンっと上がってクレースは興奮する。
だが、視界にトキワが入るとすぐさま真顔に戻り口を開いた。
「お前はいつまでここにいる。消えろ変態」
トキワはビクっと身体を震わせすぐさま直立した。
「じゃ、じゃあ俺もクレースと一緒に討伐しに行こうかなぁ」
「来なくていい」
「な、なんでだよ」
「この子が大切だからだ」
「····そうだな、行ってこい」
「少し待っててくれジン。すぐ戻る」
「気をつけてね。·怪我は絶対にしないで」
(まったく本当に……かわいい)
そうしてクレースは刀をたずさえたままシュレールの森まで全速力で向かった。
「大丈夫かね……魔物」
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説

スコップ1つで異世界征服
葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。
その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。
怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい......
※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。
※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。
※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。
※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
【草】限定の錬金術師は辺境の地で【薬屋】をしながらスローライフを楽しみたい!
黒猫
ファンタジー
旅行会社に勤める会社の山神 慎太郎。32歳。
登山に出かけて事故で死んでしまう。
転生した先でユニークな草を見つける。
手にした錬金術で生成できた物は……!?
夢の【草】ファンタジーが今、始まる!!
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる