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ボーンネルの開国譚
第二話 獣人クレース
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クレースとは獣人の女性である。そのため少し短い耳を生やしてふんわりとした金色の尻尾をもっている。それに加えて綺麗な顔立ちをしているので、誰もがその容姿に釘付けになるほどだ。しかし普段から怖いオーラを出しているため、口調もあいまって初対面の人からは恐れられることが多い。
そんなクレースだが仲間に対しては信頼を置いており、特にジンに対しては狂気と言えるほどその容姿から性格全てを愛してやまないのだ。
ガルと鍛冶場を出るとクレースの家に向かった。クレースの家はいかにも武士らしい家で、私の家のすぐ近くに建っている。私が一人暮らしを始めると言った時は自分の家に住まわせると言ってゼフじいの家から寝ている私を抱きかかえ翌日なぜかクレースのベッドで眠っているということがあった。でも結局、ゼフじいに説得してもらい何とか近くに家を建てるということになったのだ。
ジンがクレースの家に向かう一方、クレースの心は落ち着きを失っていた。
(向かいに行くべきか、いや私の家のドアを開けて入ってくるところがかわいいんだ。だが誰かにつけられてでもしていたら)
クレースはジンが家に来るのをわかってはいたが心の中では興奮の絶頂にいた。彼女は普段クールキャラを装っている。しかしながらジンのこととなるといつも冷静な判断ができないでいるのだ。
するとそこに扉の開く音が聞こえてきた。
(きたッ)
普段から聴き慣れた扉の音、いまかいまかと待ち侘びていたその瞬間がついに来たのだ。そしてクレースは居間から扉まで一瞬のうちに移動する。
だが——
「失せろッ——」
「ぶおぅっっ!」
クレースは目の前の人物を確認するなり持っていた刀で地面に叩き潰した。
「なにすんだよッいきなり! 痛えだろっ!」
来たのはジンではなくトキワという男だった。トキワはクレースよりも少し年上の武人である。しかしその能天気な性格と親しみやすい雰囲気が裏目に出てクレースからは下に見られているのだ。
「紛らわしいわクズが、お前は家に呼んでない」
クレースはゴミを見るかのような目でトキワを見下した。
数秒でこの場所が殺人現場になりかねないほどの状況。
しかしそこにガルを抱きかかえたジンが入ってきた。その瞬間クレースは目を煌かせてトキワを突き飛ばす。二発目の致命傷をくらい身悶えるもクレースの興味は既に全てジンへと向かっていた。
「よっよく来たなジン。
朝ご飯はしっかり食べたか?
どこか怪我してないか?
具合は悪くないか?
誰かに変なことされてないか?
来る途中誰かにつけられなかったか?」
「もうっ、大丈夫だから。それでどうしたの?」
少し拗ねて顔を膨らませるジンにクレースはキュンとする。
感情を隠しきれずにふわふわのしっぽを振り喜びは全身に現れていた。
「そ、そうだな、すまない。どうも最近シュレールの森でBランクの魔物が多く見られるようだ。私が様子を見てくるから今はあそこに近づいてはいけないぞ」
「Bランク? あそこって最高でもCランクまでしか出たことないよね?」
「ああ、私も初めは信じられなかったがあそこのバカが珍しく真剣な顔で相談してきたのでな」
クレースは泡を吹いて倒れているトキワを一瞥した。
「インフォルからの情報は?」
インフォルとはもぐらの姿をした情報収集に長けた魔物だ。
魔物ではあるが会話も可能でありジンが小さい頃からこの地域の地下を住処としている。
「インフォルにも確認したが、シュレールの森でBランクの牙蜘蛛が確認されたそうだ。奴の情報網なら確かだと思うぞ」
「じゃあちょっとガルとみてくるね」
「ダメだ。ジンに何かあったらダメだろう」
「大丈夫だよBランクくらいなら、ガルもいるし」
「いいや、ダメだ。ジンが行くくらいなら私が今からワンパンで倒してくる、ワンパンでな」
初めから一人で行くつもりではあったが、ただジンに会いたかったがために家まで呼んだのだ。
「まったくぅ、わかったよ」
(きゃ、きゃわいいっっ)
ふてくされるジンにしっぽを揺らし耳はピンっと上がってクレースは興奮する。
だが、視界にトキワが入るとすぐさま真顔に戻り口を開いた。
「お前はいつまでここにいる。消えろ変態」
トキワはビクっと身体を震わせすぐさま直立した。
「じゃ、じゃあ俺もクレースと一緒に討伐しに行こうかなぁ」
「来なくていい」
「な、なんでだよ」
「この子が大切だからだ」
「····そうだな、行ってこい」
「少し待っててくれジン。すぐ戻る」
「気をつけてね。·怪我は絶対にしないで」
(まったく本当に……かわいい)
そうしてクレースは刀をたずさえたままシュレールの森まで全速力で向かった。
「大丈夫かね……魔物」
そんなクレースだが仲間に対しては信頼を置いており、特にジンに対しては狂気と言えるほどその容姿から性格全てを愛してやまないのだ。
ガルと鍛冶場を出るとクレースの家に向かった。クレースの家はいかにも武士らしい家で、私の家のすぐ近くに建っている。私が一人暮らしを始めると言った時は自分の家に住まわせると言ってゼフじいの家から寝ている私を抱きかかえ翌日なぜかクレースのベッドで眠っているということがあった。でも結局、ゼフじいに説得してもらい何とか近くに家を建てるということになったのだ。
ジンがクレースの家に向かう一方、クレースの心は落ち着きを失っていた。
(向かいに行くべきか、いや私の家のドアを開けて入ってくるところがかわいいんだ。だが誰かにつけられてでもしていたら)
クレースはジンが家に来るのをわかってはいたが心の中では興奮の絶頂にいた。彼女は普段クールキャラを装っている。しかしながらジンのこととなるといつも冷静な判断ができないでいるのだ。
するとそこに扉の開く音が聞こえてきた。
(きたッ)
普段から聴き慣れた扉の音、いまかいまかと待ち侘びていたその瞬間がついに来たのだ。そしてクレースは居間から扉まで一瞬のうちに移動する。
だが——
「失せろッ——」
「ぶおぅっっ!」
クレースは目の前の人物を確認するなり持っていた刀で地面に叩き潰した。
「なにすんだよッいきなり! 痛えだろっ!」
来たのはジンではなくトキワという男だった。トキワはクレースよりも少し年上の武人である。しかしその能天気な性格と親しみやすい雰囲気が裏目に出てクレースからは下に見られているのだ。
「紛らわしいわクズが、お前は家に呼んでない」
クレースはゴミを見るかのような目でトキワを見下した。
数秒でこの場所が殺人現場になりかねないほどの状況。
しかしそこにガルを抱きかかえたジンが入ってきた。その瞬間クレースは目を煌かせてトキワを突き飛ばす。二発目の致命傷をくらい身悶えるもクレースの興味は既に全てジンへと向かっていた。
「よっよく来たなジン。
朝ご飯はしっかり食べたか?
どこか怪我してないか?
具合は悪くないか?
誰かに変なことされてないか?
来る途中誰かにつけられなかったか?」
「もうっ、大丈夫だから。それでどうしたの?」
少し拗ねて顔を膨らませるジンにクレースはキュンとする。
感情を隠しきれずにふわふわのしっぽを振り喜びは全身に現れていた。
「そ、そうだな、すまない。どうも最近シュレールの森でBランクの魔物が多く見られるようだ。私が様子を見てくるから今はあそこに近づいてはいけないぞ」
「Bランク? あそこって最高でもCランクまでしか出たことないよね?」
「ああ、私も初めは信じられなかったがあそこのバカが珍しく真剣な顔で相談してきたのでな」
クレースは泡を吹いて倒れているトキワを一瞥した。
「インフォルからの情報は?」
インフォルとはもぐらの姿をした情報収集に長けた魔物だ。
魔物ではあるが会話も可能でありジンが小さい頃からこの地域の地下を住処としている。
「インフォルにも確認したが、シュレールの森でBランクの牙蜘蛛が確認されたそうだ。奴の情報網なら確かだと思うぞ」
「じゃあちょっとガルとみてくるね」
「ダメだ。ジンに何かあったらダメだろう」
「大丈夫だよBランクくらいなら、ガルもいるし」
「いいや、ダメだ。ジンが行くくらいなら私が今からワンパンで倒してくる、ワンパンでな」
初めから一人で行くつもりではあったが、ただジンに会いたかったがために家まで呼んだのだ。
「まったくぅ、わかったよ」
(きゃ、きゃわいいっっ)
ふてくされるジンにしっぽを揺らし耳はピンっと上がってクレースは興奮する。
だが、視界にトキワが入るとすぐさま真顔に戻り口を開いた。
「お前はいつまでここにいる。消えろ変態」
トキワはビクっと身体を震わせすぐさま直立した。
「じゃ、じゃあ俺もクレースと一緒に討伐しに行こうかなぁ」
「来なくていい」
「な、なんでだよ」
「この子が大切だからだ」
「····そうだな、行ってこい」
「少し待っててくれジン。すぐ戻る」
「気をつけてね。·怪我は絶対にしないで」
(まったく本当に……かわいい)
そうしてクレースは刀をたずさえたままシュレールの森まで全速力で向かった。
「大丈夫かね……魔物」
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