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深紅
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気が付くと、麻美は
自分の家のリビングにいて
床に横たわっていた。
全身がだるい。
麻美が体を起こすと
手にヌルッとした
感触があった。
手の平を見ると、
深紅に染まっていた。
右手には
血の色の物が付着した包丁が
硬く握られていた。
慌てて包丁を放し、
放り投げた。
自分の服を見おろすと
シャツも鮮やかな
赤に染まっていた。
「ああああああああああ!」
叫びながら頭を抱えた。
何故、私は包丁なんか……
麻美は訳が分からずに
部屋の隅で小さくなって
ただ震えた。
何も覚えがない……
顔を上げ
辺りを見回すと
リビングのドアが
ほんの少し開いていて、
その隙間から
ドアが開け放したままの
麻美の部屋が
少しだけ見えた。
麻美の部屋の床に、
こんもりと盛り上がった
タオルケットが置いてあるのが見える。
近づいて部屋を
覗いてみると
「あっ!」
タオルケットから
ストッキングを履いた両足が
はみ出していた。
黒いスカートの裾が見える。
深く赤いマニキュアをした指先が見える。
誰?女の人みたい……
なんで?
麻美は恐怖に怯えながらも
近づいた。
ドアを開けようとした時、
玄関の方で物音がした。
カサカサッと
ビニール袋が触れ合う音が
近ずいてくる。
「ただいまあ。
今日はねー、から揚げが
安かったから買って……
麻美?!」
玄関から中に
入ってきたのは、
麻美の母の良子だった。
両手に持っていた
買い物袋を驚きのあまり
床に落としてしまう。
「麻美?! どうかしたの?」
良子は大きな声を上げ
目を見開いて
麻美に近づいてきた。
麻美の体を
あちこち触り
何とも無いか確認してから
「麻美……これ……血なの?」
良子は麻美の体についた
血らしき赤いものを眺めた。
「母さん……あれ」
震える指で麻美は自分の部屋を指差した。
麻美の指差す方を見た良子は
すぐに部屋に入り
タオルケットのかかったものの傍に寄って行き
タオルケットを
少しめくった。
「やめて! 母さん!」
良子は麻美を見つめ
力強く頷いた。
「大丈夫よ。母さんがなんとかするから・・・麻美は心配しないで」
「でも・・・誰?その人」
「大丈夫。お前は悪くないから。
・・・・汚れた服は脱いでおいて・・・・シャワー浴びといで」
「・・・・でも・・・母さん!」
良子は、部屋を見回し
「とりあえず、床の血だね。何とかしないと……壁も拭かないとね」
とひどく落ち着いた口調で言った。
誰だかわからない人が
麻美の部屋にいる。
そして……
死んでいるようだった。
母さんは、大丈夫。
お前は悪くないって言った。
私がさっき持っていた包丁で
殺したって言うの?
まさか…全く覚えがないのに…
風呂場の鏡に映った麻美の顔や首に
飛び散ったような血の後があった。
小さな赤い斑点が
いくつもついていた。
私が殺したの?
スカートと足しか
見えなかった。
女の人だって言う事はわかる。
血が部屋のそこいら中に
飛び散っていた。
私の顔や首、服にも……。
震えが止まらない手で
ごしごしと
顔や首を
何度も何度も洗った。
風呂から上がると
良子がまだ床を雑巾で
一心不乱に拭いていた。
麻美は、さっき人が
横たわっていた所を見た。
「母さん、ここにいた人は?」
「とりあえず、
今日は押入れに
入れといたから」
「えっどこの?」
「そこの」
良子は、顎で麻美の部屋の押入れを示した。
「とりあえずって……あの人死んでたの?」
「そお……
でも、麻美のせいじゃないから。
心配しないで」
良子は、そっと麻美を抱き寄せた。
それから
何も無かったように
時を過ごし、
父親の徹が会社から
帰ってきても、
いつもと変わらぬ姿の良子だった。
「うまいな。このビーフシチュー。」
「でしょう?
ルウがいいのかしらね?」
麻美は、どす黒い血のような色の
ビーフシチューを見て、
とても食べる気にならなかった。
「ちょっと風邪気味みたい。もう寝る」
静かに席を立ち麻美は自分の部屋に入った。
アレが入っている押入れを
開ける気にもならず
布団をかぶって丸まり
息を潜めていた。
動きだしてきそうな何かを
決して見ることが無いように。
悪夢のような出来事が、
夢になることを
祈りながら
瞼をぎゅっと瞑った。
その内にいつの間にか
寝てしまっていたようだった。
夜中に目を覚まし
のどがからからに渇いていたので
キッチンへ向かう。
深夜だというのに
キッチンで何か物音がする。
恐る恐る覗いてみると、
良子がなにやら料理を
しているようだった。
良子の後ろ姿を見て
麻美は
なんとなく身震いした。
「母さん……何してるの?」
「……料理してるの。煮込み料理は夜のうちに仕込まないとね」
「……こんな夜中に?」
「そお、なんか眠れなかったし、
肉は煮込んだほうが
柔らかくなるからね」
そう言って、
大きく振り上げた
中華用の大きな包丁を
麻美は初めて見た。
良子は振り上げて
だん! だん!
とまな板に
無表情で
何度も何度も打ち下ろす。
その姿は、
何かに取りつかれている様だった。
まな板の上に
血まみれの骨付きの分厚い肉が
ごろごろと転がっていて
麻美は
徐々に気分が悪くなっていった。
自分の家のリビングにいて
床に横たわっていた。
全身がだるい。
麻美が体を起こすと
手にヌルッとした
感触があった。
手の平を見ると、
深紅に染まっていた。
右手には
血の色の物が付着した包丁が
硬く握られていた。
慌てて包丁を放し、
放り投げた。
自分の服を見おろすと
シャツも鮮やかな
赤に染まっていた。
「ああああああああああ!」
叫びながら頭を抱えた。
何故、私は包丁なんか……
麻美は訳が分からずに
部屋の隅で小さくなって
ただ震えた。
何も覚えがない……
顔を上げ
辺りを見回すと
リビングのドアが
ほんの少し開いていて、
その隙間から
ドアが開け放したままの
麻美の部屋が
少しだけ見えた。
麻美の部屋の床に、
こんもりと盛り上がった
タオルケットが置いてあるのが見える。
近づいて部屋を
覗いてみると
「あっ!」
タオルケットから
ストッキングを履いた両足が
はみ出していた。
黒いスカートの裾が見える。
深く赤いマニキュアをした指先が見える。
誰?女の人みたい……
なんで?
麻美は恐怖に怯えながらも
近づいた。
ドアを開けようとした時、
玄関の方で物音がした。
カサカサッと
ビニール袋が触れ合う音が
近ずいてくる。
「ただいまあ。
今日はねー、から揚げが
安かったから買って……
麻美?!」
玄関から中に
入ってきたのは、
麻美の母の良子だった。
両手に持っていた
買い物袋を驚きのあまり
床に落としてしまう。
「麻美?! どうかしたの?」
良子は大きな声を上げ
目を見開いて
麻美に近づいてきた。
麻美の体を
あちこち触り
何とも無いか確認してから
「麻美……これ……血なの?」
良子は麻美の体についた
血らしき赤いものを眺めた。
「母さん……あれ」
震える指で麻美は自分の部屋を指差した。
麻美の指差す方を見た良子は
すぐに部屋に入り
タオルケットのかかったものの傍に寄って行き
タオルケットを
少しめくった。
「やめて! 母さん!」
良子は麻美を見つめ
力強く頷いた。
「大丈夫よ。母さんがなんとかするから・・・麻美は心配しないで」
「でも・・・誰?その人」
「大丈夫。お前は悪くないから。
・・・・汚れた服は脱いでおいて・・・・シャワー浴びといで」
「・・・・でも・・・母さん!」
良子は、部屋を見回し
「とりあえず、床の血だね。何とかしないと……壁も拭かないとね」
とひどく落ち着いた口調で言った。
誰だかわからない人が
麻美の部屋にいる。
そして……
死んでいるようだった。
母さんは、大丈夫。
お前は悪くないって言った。
私がさっき持っていた包丁で
殺したって言うの?
まさか…全く覚えがないのに…
風呂場の鏡に映った麻美の顔や首に
飛び散ったような血の後があった。
小さな赤い斑点が
いくつもついていた。
私が殺したの?
スカートと足しか
見えなかった。
女の人だって言う事はわかる。
血が部屋のそこいら中に
飛び散っていた。
私の顔や首、服にも……。
震えが止まらない手で
ごしごしと
顔や首を
何度も何度も洗った。
風呂から上がると
良子がまだ床を雑巾で
一心不乱に拭いていた。
麻美は、さっき人が
横たわっていた所を見た。
「母さん、ここにいた人は?」
「とりあえず、
今日は押入れに
入れといたから」
「えっどこの?」
「そこの」
良子は、顎で麻美の部屋の押入れを示した。
「とりあえずって……あの人死んでたの?」
「そお……
でも、麻美のせいじゃないから。
心配しないで」
良子は、そっと麻美を抱き寄せた。
それから
何も無かったように
時を過ごし、
父親の徹が会社から
帰ってきても、
いつもと変わらぬ姿の良子だった。
「うまいな。このビーフシチュー。」
「でしょう?
ルウがいいのかしらね?」
麻美は、どす黒い血のような色の
ビーフシチューを見て、
とても食べる気にならなかった。
「ちょっと風邪気味みたい。もう寝る」
静かに席を立ち麻美は自分の部屋に入った。
アレが入っている押入れを
開ける気にもならず
布団をかぶって丸まり
息を潜めていた。
動きだしてきそうな何かを
決して見ることが無いように。
悪夢のような出来事が、
夢になることを
祈りながら
瞼をぎゅっと瞑った。
その内にいつの間にか
寝てしまっていたようだった。
夜中に目を覚まし
のどがからからに渇いていたので
キッチンへ向かう。
深夜だというのに
キッチンで何か物音がする。
恐る恐る覗いてみると、
良子がなにやら料理を
しているようだった。
良子の後ろ姿を見て
麻美は
なんとなく身震いした。
「母さん……何してるの?」
「……料理してるの。煮込み料理は夜のうちに仕込まないとね」
「……こんな夜中に?」
「そお、なんか眠れなかったし、
肉は煮込んだほうが
柔らかくなるからね」
そう言って、
大きく振り上げた
中華用の大きな包丁を
麻美は初めて見た。
良子は振り上げて
だん! だん!
とまな板に
無表情で
何度も何度も打ち下ろす。
その姿は、
何かに取りつかれている様だった。
まな板の上に
血まみれの骨付きの分厚い肉が
ごろごろと転がっていて
麻美は
徐々に気分が悪くなっていった。
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