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人ㇵ石垣

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 文禄三年九月に吾輩は指月城下にいた。ご主人はこの日、伏見の前田屋敷に冨田重政を訪ねていた。去年の八月に太閤殿下の嫡男拾様が生まれた時に、肥前名護屋城に在陣していた前田利家が松殿の目を盗み、侍女に手を出した子供達がこの年から、福と猿千代(後の利常)と雉千代(後の利孝)が続いて生まれたのである。
 前田利家は金沢城の本格的な築城を始めます。築城にあたり利家はある人物を招きます。
天下人となった豊臣秀吉が出したバテレン追放令に従わず大名の地位を失った、キリシタンの高山右近を招いて行われました。
 金沢城の美しい格式のある橋爪門や、河北門に菱櫓ひしやぐら・五十間長屋・橋爪門続櫓など金沢城を飾る部分を、利家が金沢城に来て高山右近の力を借りて作られた。
 二層の櫓や溶かして鉄砲の弾にする事を考えたとされる鉛の屋根瓦が織りなす灰色の屋根など、金沢城は威厳のあるものになりました。
 そして、高山殿以外にも北条氏邦を始め旧北条家の家臣など有力武将を招き入れました。
 それほど、唐入りによる武士の消耗が激しかったなか、徳川家から出奔する武士を雇入れる大名がいた。小早川秀俊である。
 

□□□□…………成瀬吉正
 「内蔵助、貴様を我が徳川家から追放する。姫様の面倒も見れぬ無能は、早く出ていくがいい」
 ゲッソリと頬がコケていた俺に、冷酷に突き付けられた言葉が圧し掛かる。
 赤子から育ち、家司になるため育てられた俺は十七歳を境に追放を言い渡された。

「お、お待ちを……っ! 大久保様、確かに私は先日、振姫様のお世話ができませんでした! ですが、これまで徳川家に尽くして参りました! どうか、ご再考を願えませんか……?」
 昨日、俺は倒れた。
 それもそのはずだ。我儘な振姫様の面倒を見ながら、これまで内蔵助はすべての家事をこなしていた。
 他から見ると過労死ラインを超えた長時間労働によって、いつ気を失ってもおかしくはない。
 しかも最低賃金なんてものは存在しない。専属だから残業代が出ないし、最低保証の衣食住のみだ。

 休日はもっと酷い。最後に休んだのはいつだ……? 半年前? 一年前? あれ……?
 休んだ日って、結局女中たちが仕事できなくて、仕事していた記憶がある……。

 ほとんどの人は仕事に付いてこれず、女中たちはみんな辞めていった。新人が入っても役に立たないから、結局俺一人だ。

 ……考えるのはやめよう。
 ────仕事をしなければ。
 その結果、パワハラは悪化していった。
 子どもの頃の振姫様は我儘ではなかった。
 もう少しお淑やかだったし、可愛げもあった。四年前の天正19年10月6日、母親の下山殿が亡くなってからは、今ではふんぞり返り、俺に無理難題な命令を下してくる。

「ご再考……? 貴様の根性がないから倒れたのではないのかっ⁉」
 またこれだ……。
 俺が何か失敗するたびに、根性がない。やる気がない。
 出来ないのなら出て行け。
 それが悪化した結果が────今だ。
「申し訳ありませんでした。今後はこのようなことがないように……」
「もう要らぬ。京から優秀な家司を手配した。赤子の頃から面倒を見てやっていたから情があったが、もう愛想が尽きた」

「え……?」
 信じられない。
 俺以外の家司……? しかも京からだなんて……。

「意外か? 馬鹿者が。内蔵助、お前よりも優秀な人間はいくらでもいる。代わりもいる。ふぅ……これで振姫様が怒る姿を見なくて済みそうだ」

 俺の仕える振姫様という少女は性格が最悪だった。
 賞品の着物が欲しいから刀術大会で優勝してこい。
 やれ肌が若返るお風呂を用意しろ。
 猪肉が食べたいから狩ってこい。
 無理難題な願いも叶えて来た。
 もし失敗でもすれば、物を投げつけ怒り狂い、屋敷内は癇癪が響き渡る。
 俺が倒れた時も、なぜ倒れたんだと癇癪を起していた。
「あ、あれは振姫様が一方的に!」
「我が姫様を愚弄するか!! この痴れ者が!」
 この上司には何を言っても無駄だ。俺のことを奴隷だと思っているようだ。

 実際、育ててもらったことは恩を感じているし、恩返しのため尽くしてきた。
 命を削って、倒れそうな日々も我慢してきた。
 嫌でも辛くても耐えて来たのに────追放なんて、酷すぎる。
「即刻、この徳川家からでていけ。無能め」
 何か言い返さなければ、そう思って口を開いたが、何もでて来なかった。
 静かに拳を握りしめ、踵を返す。
 目の下はクマができ、酷い睡眠不足だと分かっていながらもフラフラと歩き出す。
 振姫様……何か言う必要もないだろう。
 当主から追放を言われたんだ。
 さっさと出て行こう……。もう、何もかもが疲れた。
 徳川家から出た俺は、西に向かって歩き出した。
 荷物と言っても特にない俺は数日分の食料だけを持って、家を出た。
 これくらいは許されるはずだ。
 今まで給料をもらったこともないんだ。流石に握り飯を返せー!って怒られないよな。
 うう……怖い。
 ……これからどうしよう。
 とりあえず、この町に居ても徳川家から嫌がらせを受けるかもしれない。
 西へ向かおう。正装ではなく、旅支度のような服を着ている内蔵助は歩き出した。
 
 *

 徒歩で二日掛け、睡眠時間を削って歩いていた。
 状況は刻々と悪化していたからだ。
 ようやく到着したフィレン街で俺はとある場所へ向かう。
「とりあえず、甲斐の国に行ってみるか……」
 問題とは、金がないということだ。 
 簡単に稼げてお金を手に入れることが先決だ。
 野宿もしていいが、街中では盗賊に襲われそうだし、街の外だと山賊に襲われると大変だ。
 そのせいで休めず歩きっぱなしだったんだ。
 一応、刀は持っているが今は戦いは避けたい。眠すぎて、足元がフラつく……。
 急いで稼がねば。生きるために……。

 甲府城下に到着して、仕官先を探すと、浅野家では今、唐入りの為人手不足ですぐに仕官できた。
 すぐに、名護屋城に赴き、渡海釜山浦で諸将と合流し、西生浦に築かれた倭城に在番した。
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