上 下
66 / 183

指月城

しおりを挟む
 吾輩はご主人と一緒に京の別荘から伊勢国飯野郡宮田村に戻った。爺様は大阪の屋敷に戻り、伯父の信高は京に居て伏見屋敷の準備をしていた。父上は尾張国清洲城で国許の仕事をしていた。そして、叔父の佐野政綱が信吉と改名して下野国唐沢山城で国を治めていた。
 大阪に戻った秀吉は秀次に「日本国を五つに割り、四つ分を与え、残りを御拾に与える」と伝え、拾と秀次の娘を婚約させた。
「甥(秀次)に譲渡した支配権を再び獲得するため、彼はただちにその子供と、甥の関白の娘とを名だけの夫婦たらしめた。そして今度は甥に太閤の位を授け…その子供の後見人として天下を治め、その子供が成人した暁には、甥は役目を免除される、というのであった」
 文禄元年より隠居所として伏見指月の丘に造営中の新屋敷を築城に変更し、指月城より南側、宇治川の対岸に向島城も築城するように「伏見向島に城を建て、指月の城より川に橋を掛けるように」命じられた。
 指月城築城に伴い、指月城下造成のため、予定地域の社寺・村落を移転。槇島堤を築いて巨椋池(おぐらいけ)と宇治川を分離、大坂と伏見を水運で繋ぐ。また宇治川は豊後橋を架け、巨椋池を縦断する小倉堤を築いて新たな大和街道とした。他にも淀堤、大池堤を築き、淀川左岸に長さ七里に及ぶ文禄堤を築き、川の氾濫を防ぐようにして、同時に堤が京街道として整備される。

■■■■…………
 秀吉は西国大名に釜山周辺の倭城の普請と在番指示を出した。
(在番諸将:加藤清正、小西行長、宗義智、黒田長政、福島正則、蜂須賀家政、小早川隆景、小早川秀包、毛利輝元、吉川元春、立花宗茂、毛利吉成、毛利秀元、鍋島直茂、九鬼嘉隆、脇坂安治、加藤嘉明、島津義弘、島津豊久、高橋元種、秋月種長、伊東祐兵、松浦鎮信)
 そして、その他の大名を帰還させるため釜山や対馬、壱岐に輸送船を準備すると、茶々様が拾を産んだため、これまでの構想を修正し、伏見の屋敷を大きく拡張して城とします。
(帰還諸将:伊達政宗、上杉景勝、宇喜多秀家、細川忠興、長谷川秀一、中川秀成、石田三成、大谷吉継、増田長盛、浅野長政、木村重茲、毛利輝元、小早川隆景)
 指月城城下町は、桃山丘陵西麓を中心に町割りが行われ、堀と土塁からなる惣構えで囲まれてい
ました。惣構えとあわせて、淀城から天守、本丸の櫓・門、二の丸の櫓などを移築し、隠居城は本格的な城郭として整備され、伏見港の整備や宇治川・巨椋池の改修も行われました。
 城下町には武家屋敷が多数造営され、有力大名の屋敷は城郭周辺に集められました。町人の居住区は京町通、両替町通を中心に配置され、その西側には寺社が配置されました。
 ただし、この大普請は表向きは関白秀次が養父である秀吉に伏見の内城と総構えの大工事を命じた形をとって、工事分担の諸大名への言い訳も込められている。
 秀吉はこの新しい指月城に明国の使節を迎え、和平の交渉を行うつもりであった。
 
□□□□…………富田一白
 自宅で次男に手紙を文を書いていると、気になることがあって独り言が口から洩れる「京の都より、南にわずか二里のところに港ができる……」ことではないか。
 このようなことになれば、やがて伏見が京や大阪にも勝ることになる。そこに秀吉・拾様が入ると、関白秀次の聚楽第との二重構造が表面化することになり、これでは太閤と関白殿の間に溝が出来る。
 それに、秀次と拾の関係を調整するため、拾誕生の二ヶ月後の十月には、拾と秀次の娘(六歳年上の槿姫)を婚約させ、秀吉から秀次、拾へという政権継承を模索することで、拾を産んだ淀殿の側近、豊臣秀吉の側近として仕えていた人たちも、豊臣秀次に権力が移ることはある意味恐怖を持つ、特に太閤の側近中の側近として権勢をふるっている三成は自分の保身の為、有らぬ悪行を吹き込んだりせねば良いが。
 まずは、喜太郎(富田高定)に関白殿へ「御拾様お誕生の上は、私が天下人となっては世が収まりません。私は御拾様をお助けいたし御奉公いたします」と太閤殿へ進言するように伝えねばならぬ。
「五郎丸はいるか。」
「はい。ここに控えております」
「すまぬが喜太郎へこの書状を急ぎ届けてくれ」
「はい。旦那様」

 書状をしたためてから聚楽第近くの屋敷に帰ると一週間後に喜太郎が訊ねてきた。 
「父上、先日はご助言ありがとう御座います。………」
 奥の部屋で話を聴くと、胃が痛くなることを聞かされた。
 要は拾様が誕生してから、殿(秀次)は喘息の症状が強くなるなど、心身の調子が不安定であります。
それは失われるものに対する恐怖心のなせるわざで、すなわち殿の権力への執着心の強さを示していると思われます。先の熱海温泉への湯治は秀次の喘息治療のためであったが、太閤の露骨な秀頼溺愛があって、心休まるような状態ではなく、むしろ悪化したようだ。
 殿はもともと激情の人であり、突然の環境の変化が「理性のはどめのきかない部分」を助長したのではないかということで、今「御拾様お誕生の上は、私が天下人となっては世が収まりません。私は御拾様をお助けいたし御奉公いたします」と進言することは出来なかったと云うことだ。
 少し考えて「喜太郎。お前の主は凡庸だ…いや愚鈍やもしれぬ…お前は二度とこの家に来るな。そして、清州に戻ったら二度と京に戻ってはならぬ……よいな!」
「父上。どうしてですか」
「……」
「父上!!」 
「出て行け!」
 高定は雨の降る中、屋敷を出て行った。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル《創造》と《操作》を持つ俺はくそみたいな理由で殺されかけたので復讐します〜元家族と金髪三人衆よ!フルボッコにしてやる!~

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
 ハルドン伯爵家の三男として生まれた俺、カインは千万人に一人と言われている二つのスキルを持って生まれてきた。だが、その二つのスキルは〈創造〉と〈操作〉というハズレスキルだった。  そんな俺は、ある日、俺を蔑み、いじめていたやつらの策略によって洞窟の奥底に落とされてしまう。 「何で俺がこんな目に……」  毎日努力し続けてきたのに、俺は殺されそうになった。そんな俺は、復讐を決意した。    だが、その矢先…… 「ど、ドラゴン……」  俺の命は早々に消えそうなのであった。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

糸遣いの少女ヘレナは幸いを手繰る

犬飼春野
ファンタジー
「すまない、ヘレナ、クリス。ディビッドに逃げられた……」  父の土下座から取り返しのつかない借金発覚。  そして数日後には、高級娼婦と真実の愛を貫こうとするリチャード・ゴドリー伯爵との契約結婚が決まった。  ヘレナは17歳。  底辺まで没落した子爵令嬢。  諸事情で見た目は十歳そこそこの体格、そして平凡な容姿。魔力量ちょっぴり。  しかし、生活能力と打たれ強さだけは誰にも負けない。 「ぼんやり顔だからって、性格までぼんやりしているわけじゃないの」    今回も強い少女の奮闘記、そして、そこそこモテ期(←(笑))を目指します。 ***************************************** ** 元題『ぼんやり顔だからって、性格までぼんやりとしているとは限りません』     で長い間お届けし愛着もありますが、    2024/02/27より『糸遣いの少女ヘレナは幸いを手繰る』へ変更いたします。 ** *****************************************  ※ ゆるゆるなファンタジーです。    ゆるファンゆえに、鋭いつっこみはどうかご容赦を。  ※ 設定がハードなので(主に【閑話】)、R15設定としました。  なろう他各サイトにも掲載中。 『登場人物紹介』を他サイトに開設しました。↓ http://rosadasrosas.web.fc2.com/bonyari/character.html

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

ダンジョンマスターは魔王ではありません!!

静電気妖怪
ファンタジー
20XX年から一年、異世界の【ダンジョンマスター】として幾多の死線と仲魔の死を乗り越えて主人公 神ノ蔵 レイジ は地球に帰ってきた。 しかし、そこで待っていたのは安息の日でも平穏な生活でもなかった。 急発展を遂げる魔法、地上を跋扈する魔物、レイジと共に現れた八つの【ダンジョン】、そして遂に姿を現した【魔王】の影。 だが、それだけでは終わらなかった。 『これからゲームを始めよう。【人類】と【ダンジョンマスター】による【魔王】の討伐競争だ』 【外なる神】から宣告された各ダンジョンマスターと全人類の協力、騙し合い、技術融合、チートの何でもありの全面戦争。 勝つのは【ダンジョンマスター】か、それとも【人類】か。 様々な思考が交錯する中、【ダンジョンマスター】に秘められた大いなる謎と過去が明かされて行く。 そして、戦いの終末に待つ【外なる神】の真意とは⋯⋯! 今ここに、【ダンジョンマスター】と【人類】と【魔王】の全てを賭けたゲームが幕を開ける。 ※ガチシリアスシーンを多目、読み易さを重視した多視点で描いています。 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾ こちらは前作『ダンジョンマスターは魔王ではありません!?』の続編になります。 そちらから見ていただけますとより楽しめます。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい

三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです 無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す! 無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!

処理中です...