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正体を告白
しおりを挟む剛は、部屋につくと時計を見て、「もう、こんな時間かとつぶやいた」
時計の針は四時を少しすぎたところを指していた。
そして、布団の横に散乱してるゴミを足で蹴飛ばすと、そこに着ていた上着を放りなげた。
「剛君、掃除ぐらいしたらいいのに」
あゆみは、見かねて剛にそう言っていた。
「うるせぇなぁ。男の部屋ってこんなものなんだよ。そんなことはいいから、お前は早く服を脱いで、布団の上で待ってろよ」
「ねぇ。その前に早く、薬打ってよ。もう、あたし昨日から切れちゃっておかしくなっちゃいそうなんだよ」
「あぁ、そうだったな。忘れてたよ。せっかく家まできてくれたから、サービスで兄貴から買った、新しいやつ打ってやるよ。俺も、まだ打ったことないけど、むちゃくちゃ気持ちいいらしいぜ」
あゆみは、それを聞いて、腕をまくり上げた。
「ちょっと待ってろよ」
剛はさきほど投げ捨てた上着から、白い粉を取り出すと、それを水に溶かして注射器に注入しだした。
僕は、その様子を見て、憑依するのは今しかないと思い、行動にうつした。
剛は、僕に体の中に入られると、一瞬動きが止まってしまい、注射器を手から落としてしまう。
僕自身も、昨日ほどではないが、体中に痛みが走ってくる。
それでも、昨日ほどもがくことなく、剛の体を制御することが出来た。
だいぶ、僕自身の体も、剛の体に馴染んできてるのかも知れない。
僕は、剛の体を使って落とした注射器とテーブルの上にあった白い粉を手にとると、トイレに向かった。それを見て、注射を早く打ってもらいたいあゆみもついてきた。
そして、僕は注射器を便器のふちで叩き割ると、白い粉と一緒に便器の中に投げ入れた。
「ちょっと、剛。何してるのよ。もったいないじゃない」
あゆみは、剛の思いもよらない行動に驚きふためいている。
そんな声を気にすることなく、僕はトイレの水を流す。みるみるうちに、うずの中に白い粉は吸い込まれて流れていった。
「悪い冗談はやめてよ! なに、もったいないことしてるのよ」
あゆみは、ヒステリックな声を上げて詰め寄ってきた。
「なぁ、あゆみ。もう薬はやめようよ」
「はぁ? あんた、頭おかしくなったのじゃない。だいたい、あんたがあたしに薬薦めてきたのじゃないのよ」
やはり、僕の思った通りにあゆみを薬漬けにしたのは剛のようだった。
「それよか、まだ、薬持ってるのでしょ? 意地悪しないで、早く頂戴よ! 打ってくれたら何でもするからさ」
もはや、あゆみの言動は昔の面影など微塵もないものだった。
僕は、このままでは埒が開かないと思い、意を決して、あゆみに自分の正体を話す決心をした。
「あゆみ、俺は剛の体をしてるけど、剛じゃないんだ」
「ちょっと、何言い出すかと思ったら――幻覚でも見てるのじゃない。それに、剛じゃないのだったら、あんたは一体誰なのよ」
「信じてくれなくてもいいけど、俺は有紀だ」
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