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守ってやらないと。
しおりを挟むあゆみの姿を確認した剛は口をとがらしてわめいている。
「剛君、何怒ってるのよ。今日はお願いがあってきたのよ――昨日の事はあたしもよく分からないの」
あゆみは、昨日とはうって変わって、甘えた声を出している。
「お願いって。どうせ、薬の持ち合わせが無くなって困ってるのだろう。お前は正真正銘の薬チュウだからな」
剛は、そう言って鼻で笑った。
「剛君ったら、ひどーい。でも、薬が欲しいのは図星なんだなぁ。ねぇ、持ってるのでしょう? 少しでいいから分けてよ」
あゆみの言ってる事に、僕は耳を塞ぎたくなってしまう。
剛の方は逆に、してやったりと言う顔をしていた。
「まぁ、薬がないわけでもない。でも、買う金持ってるのかよ?」
あゆみは、金のことを聞かれて、少し困った表情をしたが、すぐに「お金はないのだけど、代わりにあたしの体で払いたいと思ってるの。ね、いいでしょう? もう、あたし、したくてしたくてたまらないの」
「どっちがしたいんだ。薬かHなのか? どっちにしても、どうしようもない女だな。まぁ、いいだろう。俺もちょうどムラムラしていたところだし、お前の体を買ってやるよ」
「ほんとに、買ってくれるの。やったぁ、やっぱり剛君は話が分かるよね」
あゆみは、後ろから剛の背中に抱きついて喜んでいた。
僕は、耳だけでなく、目さえも塞ぎたくなる光景を目の当たりにして悲しみを通りこした怒りにも似た感情が巻き起こった。
こんなことは、絶対に許せない。早いところ剛の体に憑依しなければ……。
そう思った時、僕はある閃きが浮かんだので、もう少し様子を伺うことにしたのだった。
「じゃ、そろそろ行くとするか」
剛はスロット機の席から立つと、あゆみの手を引っ張って店の外に出た。
「ね、剛君。どこで薬くれるの?」
「そう、焦るなってぇ。今から俺のアパートに行ってそこで打ってやるよ。それからお互い気持ちよくなったところで楽しもうぜ」
どうやら、二人の会話のやり取りから剛の住んでるところに行くみたいだった。
パチンコ屋のガレージを剛の車に向かって歩く二人の姿は、腕を組み、はたから見たら中むつまじき、クリスマスイブを過ごすカップルにしか見えなかった。僕は悔しい思いをしながら二人の跡をつけた。
剛は歳相応じゃない黒のセダンの前に立ちどまり、エンジンキーでドアのロックを解除すると、あゆみを車に押し込みエンジンをかけた。
僕はエンジンをかけてる隙に、後部座席にもぐりこんだ。こういう時、実体のない体はつくづく便利だと思ってしまう。霊感のある人以外は僕の存在など気づくはずもないからだ。
30分ほど、剛は車を走らせてから、貸しガレージに剛は車を止めた。
車から降りた二人は徒歩で剛の住んでるところに向かった。
ほどなく歩いたら、剛の住む二階建ての木造アパートについた。
剛の住んでるアパートは高級車に乗ってる割には、質素そのものな感じがする。
剛の部屋は二階にあるようで、二人が階段を昇っていった。
段を昇るたびに、木造の階段がギシっと悲鳴を上げている。
そして、階段を上りきった二人は玄関口に洗濯機が部屋ごとに並んだ細い通路を抜けて、剛の玄関先についた。
剛はポケットから部屋の鍵を出すと立て付けの悪いドアを開けて室内にあゆみを招き入れた。
部屋の中は、非常に簡素なつくりをしていて、台所もどきの狭い洗い場とトイレ、その横に6畳ほどの和室があるだけのものだった。しかも、ただでさえ狭い部屋の中は万年床が敷かれていて、その周囲には足の踏み場がないぐらいに雑誌やゴミが散乱している有様である。
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