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変わってしまったフィアンセ。

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 僕は、再びあゆみを見守ることにした。

 

 トイレから出てきたあゆみは、大きな瞳がトロンと虚ろで、口が半開きの状態でさきほどまで座っていた席についた。

 すぐに、友人が「大丈夫?」と声をかけてくる。

「うん、私、もしかしてつわりかも知れない」とあゆみは大声で笑った。

 

 心配して聞いてくれてる友人に対して、とても返せるような言葉ではないと思ってしまう。

「あゆみ、つわりって……あなた、憶えがあるの?」

「あるわけないじゃん。ちゃんとHする時はゴムしてもらってるし、冗談だって、ジョークだよ」

 

 とても、面前で話すような内容では無いことを平気で言うあゆみだった。

 隣で食事をしていた家族連れなどは明らかに不快な表情をしているのが見てとれた。

「あたし、なんだか、トイレで用足したら、またお腹すいちゃった」

 そう言って、あゆみが店員を呼ぼうとした時、彼女の携帯が鳴った。

 あゆみは、即座に液晶ディスプレイに目を通し、相手を確認してから電話に出た。

 そして、友人に聞こえるような大きな声で話しだした。



「踊りにこないかって……今はダメだってば、友達とご飯食べてるし。それに、あたし、明日仕事だし」

 僕もあゆみの友人も会話内容に耳を澄ました。

「え!? それほんと。だったら行くかも――じゃ、また後で」

 

 そう言ってあゆみは電話を切った。

「剛からなんでしょ? 私のことはいいから楽しんでこなよ」

「だって悪いよ。今日誘ったのあたしだし……」

「気にしないでいいよ。踊りに行きたいのでしょ」

「うん」

 あゆみは、少し申し訳なさそうな表情をして友人の目を見つめていた。

「ほんと、そんな悲しそうな顔しないでいいよ。早く、剛のとこに行ってあげなよ」

「うん、ごめんね。じゃ、あたし行くわ。今度、お詫びに何か奢るからさ」

 

 あゆみは伝票を持ってレジに行き勘定をすませると、店をあとにして夜の街に飛び出していった。

 もちろん、僕もあゆみの後を追った。



 あゆみは、ロングのブーツを軽快に弾ませながら、無邪気にスキップをしていた。

 クリスマスのイルミネーションで着飾った街は、あゆみの楽しそうな姿でより一層に映えて見える。

 あゆみのその姿は、一年ほど前にカンパニーの規約を破ったおかげで懲戒免職になったセフィロスという名の天使が負け惜しみのように堕天使となって下界に踊りながら降りていった姿を僕に彷彿とさせた。

 あゆみは、彼女の姿を見て振り向く人たちなど、どこいく風で流行の歌を口ずさみながら、さらにスキップをして街の中に溶けつつあった。


 僕は見失わないように、あゆみの弾む体の後を尾行した。

 ほどなくして、あゆみはメトロと書かれた交差点脇にあった出入り口から階段を下り、地下鉄に乗り込むと、そこから二つ先の駅で降りた。


 その後、再び地上に出たあゆみは、またスキップをしながら街をねり歩き、雑居ビルの地下にある「ギルド」と看板に出てる店舗の中に吸い込まれていった。

 僕もそのまま閉められた扉を体を半透明にして中に入っていった。

 店内に入ると、イヤホンでもしたくなるような耳障りな大音響が僕に襲ってきた。

 そんな状態なのに、店内にいる人たちは混雑している。

 人ごみの中で狂ったように音楽にあわせて体をくねらせて踊っていた。

 それと、この店に入ってから、僕は胸が締め付けられるような不快感にも襲われた。

 恐らく、この店にいるほとんどの客が高いカルマを背負ってるからに違いないと思ってしまう。

 一刻も早く、こんな場所から飛び出してしまいたいと願ってしまうのだが、あゆみの事が気になるから、そういうわけにもいかない。

 僕は踊ってる人の体をすり抜けてあゆみを探した。

 しかし、踊ってる人の中にはあゆみの姿は見当たらない。
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