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セメタリ― (恋愛)
しおりを挟む六月吉日、都内ホテル寿の間にて夕方五時きっかりに始まった結婚披露宴。
今夜の主役は私達、新郎こと田中祐一と新婦こと遠藤真由美だった。
一時間前に静粛な雰囲気のチャペルで指輪交換をした私達は、正式に結婚した余韻に浸ることなく、今まさに、披露宴会場に入る大扉の前で入場を、いまか、いまかと待っていた。
そして、大扉が開き、司会の「新郎新婦のご入場です」の号令よろしく……。
盛大な拍手とお決まりの結婚行進曲にのって、私達はゆっくりと華やかに入場した。
私達夫婦は鳴り止まない拍手とカメラのフラッシュの中、色とりどりの花でデコレーションされた壇上の席についた。
新婦は純白のウエディングドレスを身にまとい、実に美しかった。
さすが全財産をはたいただけのことはある結婚披露宴。
大いに満足していた。
披露宴は、明るい女性司会者が場を盛り上げてくれて実にすばらしく進行していく。
各テーブルにキャンドルサービスにいったのち、少々ぎこちなかった乾杯、緊張しまくっていた両家のあいさつ、
いらないこといいすぎの友人祝福スピーチ、夫婦初共同作業のケーキ入刀後、新婦はお色直しのため会場をあとにした。
その間は、自由タイムで来客者は食事に舌鼓をうっていた。
ようやく結婚した余韻にひたりながら、結婚にいたるまでの経緯を思いだしていた。
時間は今から一年前にさかのぼる。
当時の私と真由美は付き合い始めて三年目に入ろうとしていた。
付き合い始めたきっかけは、大学でラガーマンだった私がマネージャーに恋をしてしまい告白したという、どこにでもあるよくある話。
大学を卒業してお互い社会人になっても、関係は絶えることなく続いていた。
真由美は決して美人ではなかったが、面倒見がよく優しい性格の女性だった。
そんな真由美に私は、どんどん惹かれていったが優柔不断な性格のためか結婚には踏み切れずにいた。
真由美の方は、結婚したいと口にはださないが、それとない態度で私にアピールはしていたような気がする。
そんな、お互いにモヤモヤ煮えきれない空気の中、私にある出来事が突然起こった。
その出来事とは、仕事場の親睦会の帰り道でおこった。
少し、ほろ酔い気分で街をフラフラ歩いていた時に、路上で若い女性が、がらの悪そうな男に絡まれていたのだ。
若い女性でなかったら、放っておくところだったが、女にいい格好をしてやりたいという。
私のセコイ考えと、元ラガーマンの血が騒いだ為、助けに入る事にした。
「どうされました?」
と女性に声をかけたら、飲みにいかないかと強引に誘われて断ったら、無理やりつれていかれそうになっているという事だった。
私は男に、嫌がってるじゃないか! やめとけよ」といったら、「関係ないのにひっこんでいろよ」と男はむなぐらを掴んできた。
私はすばやく男の腕をひねりあげると、ラガーマン必殺のタックルを男の腰にかけてやった。
男はひっくり返って転倒した。
そして、ノロノロと立ち上がると捨て台詞をはいて逃げていった。
きっと男は、高校、大学とラグビーを通じて鍛え上げた私の肉体に恐れをなしたに違いない。
そして、女性からは感謝の言葉をいただいた。
「どうも、ありがとうございました。おかげで助かりました。もし、よろしかったら――連絡先教えていただきませんか? 今度、今晩のお礼をしたいもので……」
女性は頭を下げてそういった。
私は予想以上の女性の反応に興奮した。
「これは、近々トライゴールできるかも……!?」
早速、女性に携帯電話の番号とメールアドレスを教えると、その日は女性と別れた。
それから、三日後、女性から携帯電話に連絡があった。
「この前のお礼がしたくて――よろしかったら今晩お食事でも……」
私は一つ返事で女性に会いにいった。
女性の名前は加奈子といって、真由美とはまた違った魅力のある女性だった。
加奈子は積極的な女性で、話が面白く、そして上品で美人だった。
案の定、私は加奈子に恋をしてしまった。
真由美という存在がありながら……
それから、私と加奈子は週末ごとにデートするようになり交際は深まっていく。
真由美からは、電話で最近全然あってくれないと泣かれたが、仕事が忙しいと嘘をついてごまかしていた。
そうして、加奈子と知り合えた喜びにうかれて二ヶ月ぐらい経ったころ。
突然、加奈子から別れ話をきりだされた。
「私、あなたに飽きちゃった。もう、今日限り会わない様にしましょうだってあなたといても、ちっとも楽しくないのよね。連絡もしないでね」
そう言って加奈子は、私の前から姿を消した。
私は思った。
「なんて自分はバカなんだ!」
外見ばかりであんな性格の悪い女に惚れてしまって、真由美に申し訳ない。
結果、真由美の素晴らしさを再認識することになった私は、今まで通り真由美とデートして半年前にプロポーズしたのだった。
今では結婚のきっかけを作ってくれた加奈子に会って礼をいいたい気分だ。
結婚の経緯を思い浮かべてボットしていたところ、披露宴の司会者の声で我に返った。
「新婦がお色直しを終えて戻ってまいりました。どうぞご注目ください」
再び大扉にスポットライトが当てられて、新婦が真っ赤なドレスをきて、入場してきた。
場内からは歓喜の声がもれる。
私は新婦が隣の席につくまでたったまま到着を待った。
新婦が隣につくと二人して招待客にお辞儀をして席についた。
「真由美きれいだよ~ ドレスの色は派手だけどよく似合って素敵だね」
「うん私ねぇ、赤い色って大好き、それにこんな真っ赤なドレスなんて今夜のヒロインしか着れないでしょう」
真由美は嬉しそうに私に微笑んだ。
「無理して式あげてよかったな」
「うん。ほんと祐ちゃんのおかげよ、私すごく幸せ。でもねぇ~ 一つ聞いてもいい?」
「いいよ~なに?」
「私達三年間付き合ってたじゃない。でも、祐ちゃん全然結婚の話とか持ち出さなかったのに―― 突然のプロポーズなんでかなぁ~って……」
「うん、そうだなぁ~ 俺も付き合っていた頃に決して真由美との将来のこと考えていなかったわけじゃなかったんだよ。ただ、なんて言うのかなぁ~結婚に踏み出す”きっかけ”がなかったんだよ。で、最近ある出来事があってね……」
真由美は不思議そうに首をかしげて「ある出来事ってなんなの?」
「それは、秘密ってことでだめかい」
「別にいいたくなかったらいいけど…どうせ祐ちゃんのことだから浮気でもしてふられたんでしょう」
と真由美は意地悪っぽく言った。
まさに、図星だった。
「ご想像におまかせしますよ」
私はそんな負け惜しみを言うことだけで精一杯だった。
そして、そんな真由美との会話をしているうちに楽しい時間はどんどん進んでいき披露宴も終盤に入ってきた。
新郎新婦それぞれの友人達の余興の後、新婦の両親へ宛てた手紙が読み上げられた。
「お父さん、お母さん――いままで育ててくれてありがとうございました。真由美は祐ちゃんと結婚して――心配しないで見守っていてください」
途中から真由美は涙で声をつまらせながら手紙を読みきった。
「真由美よくがんばったね。すごく良かったよ」
私は優しくそう言った。
真由美は嗚咽で肩を震わせながら「うんうん」と頷いていた。
私達が手紙の余韻に浸っていると、だいぶ時間がせっているのか司会者がマイクをとって進行をはじめる。
「みなさん~新婦さんの手紙でしんみりしましたね。それでは親族代表の方にしめの挨拶をいただきます」
と言って私の叔父さんにマイクが渡された。
「え~え~」
叔父さんは緊張しているのか、なかなか言葉がでてこない
「え~あ~そうそう、昔から失礼な言い方ですが男にとって結婚とは”人生の墓場”と言われてますが、そのような物では決してありません。私が思うに――早く子供を作って両親に孫の顔を――今日は本当におめでとう」
叔父さんは緊張しながらも無事挨拶を終える事ができた。
司会者にマイクを返す時も手がプルプル震えていた。
私は叔父さんの言った”人生の墓場”と言った言い回しがなぜか残った。
(墓場に入ってもいいじゃないか!)
その後、私たちはお決まりのキスコールされて、面前で妻の真由美に口ずけをして披露宴は終宴となった。
私は皆に祝福されて非常に幸せだった。
そして、この幸せが永遠に続けばと思った。
だが……
披露宴は無事終わり。披露宴の興奮冷めやらぬまま、二時間のインターバルを空けて二次会に突入した。
二次会には私達の予算の都合で披露宴に招待できなかった友人達がたくさん来てくれていた。
そして披露宴と似たようなことをして二次会は盛り上がっていた。
私はたくさん酒を飲まされた為、便意をもよおしたので、トイレにいった。
帰ってくると、妻と楽しそうに話してる友人がいた。
友人の顔を見た私は、あまりの驚きのため腰を抜かしかけた。
その友人とは……加奈子だった。
そして一瞬のうちに私は全てを理解した。
そう……加奈子は真由美が私を結婚に踏み切らすための仕込みだったのだ!
しかし私は文句を言う気にはならなかった。
なぜなら、今凄く幸せだからだ!
私は二人のところに言って楽しく談笑した。
それから、月日が流れて……
私の真由美は鬼嫁とはまでいかないが豹変していた。
私は小遣いから食事にいたるまで全て妻に管理されている。
心が休まるのはトイレに入って考え事をしている時だけ。
そして、トイレの中で披露宴の叔父さんが言っていた事を思い出した。
結婚とは男にとって”人生の墓場”……
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