6 / 45
我慢できない (コメディー)
しおりを挟む友人達と連休を利用して遊びにいった帰り道での出来事。
時刻は午後四時を少し回ったころ、岡山から京都に向かって車は走っている。
八人乗りワゴン車の後部座席で、私は額から冷や汗を流しながら、さきほどから全く変わらない、車窓からの風景を恨めしそうに眺めていた。
少しでも早く帰るために、利用した高速道路が渋滞していたのだ。
そして、ただでさえイライラする状況のなかプラス、私は先ほどから無性に腹が痛かった。
汚い言葉で言うとクソをしたかったのだ。
車に乗っているのは、会社の先輩夫婦と、決して上品ではない先輩夫婦のお子様二人、そして、私と彼女の計六人である。
私の危機的状況とは裏腹に前方座席で、先輩のお子様達が騒いでいる。
時々あろうことか、俺の頭をこついたりする。
いつもの私なら、多少相手にしてやってもいいが、今はそんな余裕はない。
さきほどから、ずっと黙ってる私に対して、彼女が心配そうに声をかけた。
「ねぇ 大丈夫? さっきから顔色悪いけど気分でも悪いの?」
「うん……気分悪いわけじゃないけどさっきから腹が痛いんだよ」
「そうなんだ。大丈夫なの……我慢できる?」
「なんとか、次のサービスエリアまでがんばるよ」
私は彼女に言ってみたものの正直自信は無かった。
そして、私達の会話を聞いていたクソガキが、また、ちょっかいをかけてきた。
「おい、おっさんウンコしたいのか? 俺が腹押してやろうか?」
ちょっと待てこのクソガキ、おっさんと言う、いい方はともかくとして、
押すってどうゆうことだよ。押してどうするんだ。
私はとりあえず当面の敵になりつつある、このクソガキを黙らせるために、伝家の宝刀をとりだした。
「あの、少しそっとしといてくれるかなぁ。――後で好きなおもちゃ買ってあげるからさぁ~」
しかし、この発言が裏目にでてしまった。
好きなおもちゃを買ってやるという、私の全面敗北ととれる発言にたいして、過剰反応を示したクソガキは、「何買ってくれるの? どんなものでもいいの?」
ちょっとでも喋りたくない私に攻撃してくる。
見かねた母親が助け舟をだしてくれるまで延々と続いていた。
「ちょっと、あなた達ひつこいわよ。”おっちゃん”お腹痛いのだから静かにしてあげなさい」
奥さん、あなたまで”おっちゃん”呼ばわりですかぁ。
私は、まだ二十五歳なんですけどと一瞬思ったが、助けてもらってるので、文句も言えないし、言う元気もなくなっていた。
そして、そんな中、私の腹の具合は少しずつ痛さが起こる間隔が短くなってきていた。
私はあと、どれくらい我慢したらこの苦痛から解放されるのか、
おおよその時間が知りたくなったので、先輩に次のサービスエリアまでの予想時間をナビで検索してもらった。
さすが、最近のナビは進んでいる。
渋滞状況とサービスエリアまでの距離をかんがみて、到着時間を割り出してくれる。
現在、私達は天王山トンネル付近で渋滞にまきこまれていて、渋滞の長さはおよそ3キロだった。
次の桂川サービスエリアまでおよそ10キロの地点にいた。
到着予想時間は50分だった。
天王山トンネル付近、関西では渋滞のメッカ。
戦国時代、太閤秀吉と逆賊の光秀が激戦を繰り広げた天下分け目の決戦場。
果たして、私は”ウンコたれ”とゆう汚名をきることなく、トイレに駆け込み排便するとゆう戦いに勝利するこができるのだろうか?
そのような事を考えながら、「早く車よ進んでくれ」と願っていた。
それから40分間、私は腹から外に飛び出そうとしている物体と、それを阻止すべき肛門をギュっとしめる攻防を一進一退で繰り返していた。
そして、さきほどから腹は嫌な悲鳴をあげだしてきていた。
隣で私の様子を心配そうに見ていた彼女が、いよいよ、顔面蒼白になってる私に応援だけしてくれる。
「もうちょっとよ――がんばって……」
「……」
もう、返事する気力もなかった。
しかし、肛門の気は抜く事はできない。
頭のなかでは、トイレに行って排便してるイメージがさきほどからずっとしている。
耳からは水洗で水を流してる幻聴が聞こえていた。
その時である。
一筋の光明がみえた。
渋滞が収まり、車が流れ出したのだ。
サービスエリアまでは、およそ2キロ。案内版もみえだしてきている。
私はトイレに行くまでの時間を瞬時に割り出す。
どう見積もっても、最悪でもあと10分、我慢すればこの地獄から解放されるのだ。
いける、いける。この戦いに勝利できるのだ。
もはや、クソガキどもの口撃も気にならない。
そうして5分で私達を乗せた車は桂川サービスエリアに到着した。
ここから先は、わたしの時間はスローモーションで進んでいた。
幸いにも車は、トイレから近い位置に止める事ができた。
わたしは、車外へでる。
トイレまでは、約200メートル。
しかし、走る事はできない。
そんな事をしたら、物体がとびだしてしまう。
ゆっくりだが、トイレまで確実に進む。
そして、トイレに到着。
女子便所は混んでいて列ができていたが、男の方はトイレ待ち渋滞はなかった。
この時ほど、男に生まれて良かったと思うことはなかった。
トイレに最後の力を振り絞って入る。
大便用が一つ空いていた。
「ラッキー、助かった」と、思ったとき。
いきなり、男子便所にあきらかに女が走りこんできた。
恐らく大阪の『おばはん』である
そして、あろうことかぁ、一つ空いてる便器にむかって横入りしようとしている。
わたしは、『おばはん』にとられてたまるかと思い文句を言った。
「あのぉ。ここ男子便所なんですけど……」
『おばはん』は笑顔で、のたまわった。
「兄ちゃん、硬い事言わんといていやぁ。おばちゃん、もうとっくの昔に女捨ててんねん。だから、先いかしてもらうで……」
そう言うと、『おばはん』は便所に入って鍵をかけた。
そして……。
その瞬間、私は全てが終わってしまった。
私が今でも会社で語りつがれる伝説の男になった瞬間だった。
最後にあるところの調べによると、人がウンコを漏らしてしまう時というのは、絶対にもう安心と思ったときだそうだ。
その思ったときに、考えられない事態が起こる。
例えば、トイレが汚く使用できないとか、紙がないとか。
今みたいに『おばはん』に横からはいられるとかだ。
そうして緊張がほぐれてしまい、漏らすのだそうだ。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる