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最終章
遊園地
しおりを挟む「うわぁ、凄く大きいね!」
詩織はすぐに、観覧車の姿を見て感嘆の声を上げる。
「うん、凄いね。あとで乗ってみようよ。きっと頂上から望める景色最高なんだろうなぁ。俺高いとこ大好きなんだよ!」
「高いとこ好きって、祐一君、猿みたいじゃん」
何が面白いのか、詩織は僕の言ったことがつぼに入ったみたいで大笑いしていた。
確かに、僕はある意味猿には代わりないのだが、詩織がその事で笑っていないことを祈るばかりである。
「着いたら、一番にジェットコースター乗ろうよ、後、バイキングとか……なんか、わくわくしてきたよ」
「嫌だよ、詩織は怖い乗り物苦手だから、絶対に乗らないよ! メリーゴーランドなら乗る」
詩織は、いかにも女の子らしい事を言って僕を和ませてくれるのだった。
遊園地に着くと、僕達はフリーパスを手首に巻いて、宙返りコースターのところに並んでいた。
結局、怖い乗り物が嫌いな詩織の手を強引に引っ張って連れてきて、押し切った形で順番待ちをしているのだった。
先に並んでる団体の学生達がおおはしゃぎしていて、コースターに乗る前の気分を盛り上げてくれる。
「ほんと、苦手なんだから……」
詩織は本当に怖い乗り物が苦手みたいで、繋いだ手を強く握ってくる。
「大丈夫だって、すぐに終わるから……それに気持ちいいよ」
僕は、テレクラで知り合った子をホテルに連れ込む時のような口説き文句を言っていた。
「じゃ、乗るから、しっかり詩織の手を握っていてね。絶対離したら嫌だからね!」
詩織は何とも可愛らしいことを言ってくれる。
「うん。死んでも離さないから、安心してよ!」
「死んだら、離しちゃうと思うのだけど……」
詩織は白い歯を見せて笑ってくれた。
平日の遊園地は団体の学生以外はあまり客がいないので、すぐに乗る順番がまわってくる。
そういった訳で、僕達はそれほど待つことなく、コースターに乗り込んだのだった。
係員の安全ベルトの確認が終わって、すぐにコースターは二分弱の短い旅に出発するのである。
「ねぇ、絶対に手離しちゃ嫌だよ」
コースターがカシャカシャとチェーンを使って上昇してる時に、詩織は泣きそうな声で言ってきた。
正直、女の子らしくて物凄くカワイイと思ってしまう。
「分かってるって……死んでも離さないよ!」
「だから、死んだら離しちゃうでしょう」
詩織は、そこの部分だけは譲れないみたいで、怖がってる割には冷静であるのだ。
そんなことを思ってるうちにコースターは頂上につき、すぐに急降下していった。
そして、僕はあれほど頑なに約束した詩織の手を落下数秒後に離してしまい、絶叫の声を上げていたのだった。
「嘘つきぃー」
コースターを乗り終わってからの詩織の一言めは僕にとって痛いものであった。
「いや、詩織の手が汗ばんでいて、すべってしまったんだよ」
苦しい言い訳に対して詩織はまた冷たくいい放つ。
「嘘つき! 嘘つき、もう信じられない」
「ごめんよ」
詩織がかなり怒ってるように感じたので素直に謝った。
「でも、めちゃくちゃ楽しかったので許す。祐一君、もう一回乗ろうよ!」
僕は、詩織の言ったことに度肝を抜かれてしまった。吉本新喜劇ならずっけるところだ。
どうやら、詩織は食わず嫌いならぬ乗らず嫌いだったようである。
詩織は乗る前とは別人のようになってしまい、僕の手をぐいぐいと引っ張っていく。
その様子を見て、最初はエッチが苦手だと言っておきながら、いざ終わると「もっとしてぇ」とお願いする女性を一瞬想像してしまうのだった。
それから、僕達は昼飯を食べるのを忘れてしまうぐらい、様々な絶叫系と言われるコースターを何度も乗ったのであった。
気がつくと、大観覧車につけられてる時計は午後三時をまわっていた。
僕は、すっかりコースターの快感に目覚めた詩織につれまわされて、フラフラになってしまっていたので、遅めの昼食を取ることを提案した。詩織は夢中になりすぎていたようで、僕が告げた時間を聞いてびっくりした表情をして言った。
「時間経つの早いね。時計見たらお腹空いてきちゃった。お昼とりましょうか? そうそう、詩織は今日早起きしてお弁当作ってきたんだよ! 美味しいか自信ないけど、食べましょう」
その言葉を聞いて一気に疲れが吹き飛ぶのであった。
僕達は、詩織の手作り弁当を頂く為にベンチに腰掛けた。
詩織は、手提げ鞄から、大きな弁当箱を取り出して蓋を開けてくれた。
弁当の中身は、とても手が込んでいて、詩織の愛を感じてしまう。
「うわぁ、凄いよ詩織! 見てるだけで涎出ちゃう」
「うん、祐一君のためにがんばったんだから、味わって食べなさいよ」
詩織は、照れ隠しをしながら微笑んでいた。
僕は、その表情を見て、幸せを実感してしまう。
そして、詩織みたいな人が将来奥さんになってくれたらいいのになぁと、初めて結婚を意識した感情が起こったのであった。
こういった感情も剣崎さんが教えてくれたDNAの指令によるものなのかと、一瞬考えてしまったが、僕は腹が減りすぎて思考能力が著しく落ちていたので、詩織の弁当に箸をつけることにした。
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