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最終章

落ちぶれていたぬり絵。

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 それから、しばらくして監督の言葉通りに、僕を前回小ばかにして立ち去ったぬり絵との仕事が舞い込んできたのだった。

 その頃のぬり絵は、一時の勢いがなく、金のために裏ビデオまで出演するくらいに成り下がっていた。

 AV女優の旬は次々と新たに新人女優が出てくるので短いのだ。

 そんな、落ち目になったぬり絵に対しても、僕は手を抜くことなく、気配り奉仕活動を行う。

 事前に入手した「ぬり絵はシュークリームに目がない」という情報を利用して、撮影前には一個200円もする老舗洋菓子店から物を大量に購入して差し入れる。

 その差し入れによってギャラの半分近くは飛んでしまうが、そんなことは後に何倍にもなって返ってくるので気にしない。

 そして、箱からあふれんばかりのシュークリームを目にして涙目になってるぬり絵に、メンズ・ボーイで会得した褒めを利用して殺してしまうのである。

「最近痩せられました? なんか以前よりお綺麗になられてドキドキしちゃいます。いやぁ、ぬり絵ちゃんみたいな、一流女優さんと絡めて、ピストンは幸せもんです」

 前よりも太っているのにもかかわらずに褒めちぎるのであった。

 わざとAV女優と言わずに一流女優としたところが、私の褒めのテクニックのミソなのである。

 もちろん、僕の腹の中では、この裏ビデオの三流AV女優だと蔑んで舌を出していたのは言うまでもない。

 そして、僕の褒め殺しによって完全にメロメロにされたぬり絵は、撮影が始まっても完全に心を奪われた状態で昇天するのであった。

「もう痛い」なんて言わせないし、監督の「カット」の怒声などは遠い昔のことであるのだ。

 ヒクヒクと体を痙攣させてエッチ後の余韻に浸るぬり絵を見ながら、僕は前回のリベンジを果たしたのであった。

 正直、ぬり絵の鞘はゆるゆるで以前絡んだ時より、気持ちはよくは無かったが、それでも撮影が終わると「最高に気持ちよかったです」と嫌いなぬり絵に対してAV女優としてのプライドは維持させてやったのである。

 撮影が終わると、僕は監督から絶賛された。

「祐ちゃん、見事だったよ! ぬり絵の本気の表情は見ていて勃起ものだな」

 監督は、そう言って、僕の肩を揉んでくれたのだった。

 撮影前に監督の肩を揉んでいたのと立場が逆転したことに満足感を抱いていたのだった。

 そのようにして、僕は与えられた仕事を確実にこなして行き、気配り奉仕活動をして数年後には完全に汁男優から抜け出し、一流男優としての階段を登りはじめていったのである。

 汁男優から脱却した僕は、月に数十本の単体AV出演オファーを受けるようになっていた。

 ピン一本のギャラが一万円前後だったので、調子のいい月だと収入は三十万円を超えるほどになる時もある。

 それと、サムソンとのバイトも平行していたので、贅沢は出来ないものの収入は安定していったのであった。

 僕はその稼いだ金のほとんどを、自己投資と詩織のために使った。

 自己投資ってのは、僕の場合、テレクラや三平との付き合いでいく風俗である。

 テレクラは更なるエッチ相手の開拓につながっていき、そこで知り合った女性との一晩の肌の交わりは非常にAV男優として勉強になるものだった。

 それと三平と行く風俗は、あまり得るものはないのだが、いまだに芽が出ずに汁男優としてがんばっている三平の欲求を発散させてやる為に付き合っていたのだった。

 三平は本職の坊主家業が順調で羽振りがよかった。

 その為、風俗の遊び代はほとんどが三平が奢ってくれたので僕自身としては悪い付き合いではなかったのである。

 僕にとって一番大事な詩織は、たちんぼ生活とはサヨナラをしていて、当時流行りの言葉でいうとキャバクラ嬢にトラバーユしていたのだった。

 詩織の働いてるキャバクラは指名のノルマがきついらしく、僕は撮影が終わると、暇を見つけては詩織を指名しに店に通ったのであった。

 詩織の働いてるキャバクラは五反田にあって、撮影所のある目黒からは目と鼻の先なので通うには都合がよかった。

 店の料金は一時間五千円で延長料金が半時間ごとに三千円加算されるシステムであった。

 それに、詩織を指名する料金が二千円だったので、だいたい一度詩織に逢いにいくと一万円前後かかってしまうのであった。

 僕は、多い時で月に十回程度通う時もあったのでかなりの出費をしていたのである。

 それでも、指名料は直接詩織の懐に入るので、その出費は、僕は痛いとは思わなかったのだ。

 詩織がたちんぼをやめた理由なのだが、時どきかかってくる電話の内容から察するに、母親の容態が安定してきてそれほど治療費がかからなくなってる為と、詩織自身時どきお腹の中が痛くなるらしいと言っていたことから、その辺が理由ではないかと思われた。

 直接逢って聞いてもたちんぼ生活をしていた時の話は詩織はしたがらないので推察するしかなかったのである。

 しかし、詩織がたちんぼをやめたと思われる前者の理由は喜ばしいものだが、後者の理由は心配である。

 それでも、たちんぼをやめてから、お腹が痛いとは言わなくなったので少しは安心していたのだった。

 いずれにしても、たちんぼという女性にとっては最低の仕事から足を洗ってくれたのはいい事である。
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