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最終章

一流のアドバイス

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 そして、僕に缶コーヒーを奢ってくれると、自販機の横にあるベンチに「まぁ、座れよ」と言って先に腰かけた。

「なぁ、ピストンに聞きたいことあるのだけど、お前は何でAV男優になったんだ。女をただで抱けてお金がもらえるおいしい仕事だと思ってか? それとも何か他に理由があるからなのか」

 僕は、なんだか男同士ベンチに隣り合わせに座って、シリアスな話を剣崎さんが突然聞いてきたので、ピストンと男優名を呼ばれる以上に照れ臭い気持ちになってしまっていた。

 剣崎さんの質問に対して、どう返事しようかと悩んだが、なんだか隣に座ってる剣崎さんが兄貴ぽい感じがしてしまって気がつけば、詩織の事を全て話してしまっていた。


「へぇ、凄い理由で目指しているんだな。じゃ、監督になる為に、役にたつかは分からないが男優として、お前にアドバイスしてやる。まずは、汁男優から抜け出さないといけないからな……」

 剣崎さんはタバコに火をつけると話を始めた。

 剣崎さんは、それから二時間ほどかけていろいろな話をしてくれたのだった。

 特に僕にとっては、AV業界の話と、AVとはあまり関係ない男女に関する哲学的な話が心に残るものだった。

 なぜなら、この二つの話は、私の今後の人生に大きく影響を及ぼすものになるからであった。

「なぁ、ピストン。AV男優に求められる資質っていうか、一番大事な事は何だと思う?」

 

 剣崎さんのAV業界に関する話は、私に対する質問から始まった。

「やっぱり、エッチのテクニックじゃないですかね。あと、性欲が強くて日に何度もエッチをこなす体力とか……だと思うのですけど」

 なんとなくだが、自身がAV男優に抱いてるイメージを言ってみた。

 剣崎さんは、そんな僕の返答を頷きながら聞いてくれて、話を続けた。

「確かに、ピストンの言うことは間違ってないけど、ただし一番の資質じゃないんだ。俺が思うに一番AV男優に必要なものは、エッチのテクニックや何度も発射出来る体力とかじゃなく、社交性を伴った気配りだと思ってるんだ」

「社交性を持った気配りですか」

 僕は、剣崎さんが意外なことを言ってきたので思わず聞き返してしまった。

「そう、気配りが大事なんだ。なぜ、大事かというとな、この業界は人間関係が非常に深く密接だろ、AV一本撮るにしたって、メインのAV女優をはじめとして、俺達男優に監督、カメラマン、それに照明や衣装さんなど映画の撮影現場ほどじゃないが、様々の人達と一つになってAVを撮ってるわけじゃないか。そして、みんな見てる人がシコシコしてくれるエロを作ろうとピリピリしながら仕事してる。それは、ピストンも今日初めて女優さんと絡んで感じたはずだ。だから、俺達男優は、ただ腰振るだけじゃなく場の雰囲気を和ます事に神経を使って仕事しないといけないと思うんだよ。だって、男優って一番おいしいこと出来るのだから……」

 確かに、剣崎さんの言う通り、撮影現場はいつもピリピリ張りつめた空気が漂っているし、その理由である抜ける作品を作ろうとする全員の意気込みみたいなものはひしひしと感じてしまう。

 女優さんが過剰なまでの高い声を上げてよがり狂うのもその為なんだろうと思ってしまうのである。

「でな、そこで重要になってくるのが気配りなんだよ。これが、出来るか出来ないかによって、ピストンがこのまま汁男優で終わるか、それとも一流の男優になって、女をただで抱けてそこそこの収入を得られるかの別れ目だから肝心なんだが、聞きたいか?」

 剣崎さんは意地悪なことを言うと、空になったタバコを僕に見せるようにポンポンと叩いた。

「セブンスターですね! すぐに買ってきます」

 僕は、剣崎さんの口には出さない言いたいことが分かったので、すぐに自販機に走った。

「はい、どうぞ」

 そうして、私は息を切らしながらタバコを剣崎さんに渡した。

「悪いね、ピストン。タバコ代は払うよ!」

「いや、そんな、タバコ代くらいのしょぼい金なんか、いらないですから、是非とも先ほどの話の続きを……」

 剣崎さんは、僕の言った事を聞いてニヤリと笑うと、買ってきたタバコの封を開け美味そうにタバコを吸いだした。

「やれば、出来るじゃないかよ! 俺の言った気配りってのは、ピストンが必死になって息を切らしながら買ってきてくれたパシリの事なんだよ。いいかぁ、人間ってものは所詮は単純な生き物だ。自分に得することや役にたってくれる奴を重宝がるのは世の常なんだよ。現に俺は、ピストンの事が気にいった。タバコ一つでいい奴だと思ったんだよ。それをな、監督やカメラマンをはじめとするスタッフにやってみろよ。すぐに、仕事くれたりするかも知れないぜ! ちなみに、俺はな、撮影に入る前に相手にするAV女優さんには挨拶に行って、甘いものなどの差し入れを必ず手土産に渡しているんだ。もちろん、監督なんかには、タバコの火もつけるし、暇さえあったら肩なんかも揉んだりする。スタッフにもしょっちゅう缶コーヒーなんか奢ったりしてるんだ。汚い奴だとピストンは俺の事思うかも知れないが、社会ってこういうものなんだよ。だから、最初にピストンが言った、エッチの技術とかは俺から言わせてもらうと二の次だよ。まずは、監督に気に入られて使ってもらわないと話にならない。AV男優のエッチの技術なんかは、起用してもらっていたら、そのうち上達するものだからな! この業界は特にそうだけど、世の中でのし上がっていくのは、たゆまぬ努力とごますりなんだよ……」

 僕は、剣崎さんの話を聞いて、なるほど、流石に一流男優は言う事は違うなと感銘を受けてしまっていた。

「剣崎先輩、勉強になります」

 そう言って、僕は剣崎さんの肩をいつのまにか、揉みまくっていたのだった。
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